勝機
球悪童か‥‥。むしろ、チャンスかもしれん。
球悪童の性能は無論把握している。何度もこのマシンと戦ってきたのだから。
球速 160キロ
チェンジアップ 5
まさに、化け物マシンなのだが今の僕にはうってつけの相手と言える。
この試験では球悪童の他にも数種類のマシンがあり、それぞれ性能も違う。
中には、変化球5球種をランダムに投げ込んでくるものもあるのだ。
今のミートGの状態では、キレのある変化球をミートするのは至難の業だ。
だが、球悪童においては変化球がチェンジアップ1球種しかない。
それさえ、捨ててしまえば後は160キロのストレートのみ。
ストレートが来るとわかっていれば後はタイミング。まあ、それでも160キロを弾き返せる高校生はそうそういないだろうが、僕はゲーム感覚でプレイが出来るので、いくら球が速かろうが頭の中のボタンを押すタイミングが少し早まるだけだ。
周りは出来ず、自分は出来る。
この状況が僕を助けてくれるハズだ。
見えた。いや、見えてしまった。多分、レギュラーになってまう。
そうなると、問題は試合での守備だ。守備もピッチングやバッティングと同様、ゲーム感覚でプレイ出来ることは既に確認済みだ。
ただ、そうなるとむしろ、こわい。
適正じゃないポジションを守ることによるエラーの連発。
大事なところで、エラーして甲子園を逃すことになったら、非常にまずいことになる。一生のトラウマを抱えることになる。
そもそも、なぜ野手の試験は打撃のみなのか?熱プロの発売元KANAMIに抗議したい。守備あまく見んなや。守備を売りにしている選手はどうする。昔で言うと◯坂や◯本みたいなタイプの選手が怒るぞ。
そんなことをグルグル考えていると、只野が駆け寄ってきた。
「尾間加瀬殿!ビックリしたでござるよ!どうして、外野手の試験にいるでござるか?こっそり外野手にコンバートしたのでござるか?」
「投手一筋だ。一番驚いてるのは僕だよ。なんで、こんなことになったんだろうなぁ。」
「ござ?」
首を傾げるな。それが許されるのは美少女だけだ。お前がやってもダレトクだよ。
次々と野球部員たちが球悪童に挑戦していくが、その殆どがノーヒット。たまにまぐれでポテンヒットを繰り出すくらいで、まともに球悪童を攻略した奴はまだ出ていない。
そこへ、
「おい、見ろよ。小紫先輩が打席に入るぜ。」
「いつもながら凄い雰囲気だな。」
「俺、小紫先輩が空振りしたところ見たことないんだが。」
外野がざわつき始めた。
身長185センチ 体重85キロ
紫色の長髪で、前髪は目にかかるほど長い。
この代における、最強バッター。
高校通算55本塁打。
10月のドラフトでプロ入りすることが決まっている。
キャプテン、小紫省吾が打席に入った。