運命の出会い
マッハ5で走るためには、スタートから30メートル地点においては頭の位置を低くする必要がある。
下半身の筋肉中心で走り、後半になるにつれて徐々に体を起こし上半身の筋肉も総動員しMAXスピードを維持するのだ。
いつものごとくルナ様にドリンクを取りに行くよう仰せつかった僕はマッハ5で校内の冷蔵庫へと向かう。
ルナ様は冷えたドリンクじゃないと飲んでくれないのだ。
ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおーーーーー!!!
「きゃあぁっっっ!!!」
バーーーーン
のわっ!?しまった、誰かにぶつかってしもた。
頭の位置を低くすることに集中しすぎて、前を全然見ていなかった。
「いたた‥‥ごめんっ、大丈夫!?」
「あ、うん。大丈夫だよ。それにしても君すごいスピードだったね」
手を差しのべて目の前の倒れた少女を立ち上がらせてあげる。
あれ、結構、可愛い‥‥
桃色のショートヘアー。少したれ目の瞳がとてもチャーミング。いわゆる、パンダ顔ってやつかな。
背は少し低め、だけど、それがむしろ可愛さを引き立てている感じ。
ルナちゃんとは対極に位置する感じの美人さん。
そんなことを思いながら見とれていると、
「あれっ!?もしかして尾間加瀬くん?」
「ふえっ!?僕の名前知ってるの?」
「この野球部では有名人だよ。ルナちゃんのマネージャーさんなんでしょ?」
うーむ。やはり、僕は皆からマネージャーと認識されているんだなと再確認。
「と、思われることが多いんだけど、実は僕も野球部の一員なんだけどなあ‥‥」
「ウソ、冗談。知ってるよ、投手希望の子だよね。」
桃色の笑顔を振り撒きながら彼女はそう答えた。一瞬、◯ややの桃色片思いを思い出した。
「よく、知ってるね??あれ、そういえば君はたしか‥‥」
「覇王高校野球部のマネージャー!もう、なんで忘れてるのっ!」
そうだ、思い出した。彼女は佐出桃香《さでももか》。
同じ1年の女子マネージャーで、老害、佐出椅子人監督の一人娘だ。
「いや、いやっ!忘れてたワケじゃないよ。ただ、入学してから今に至るまでルナちゃんのお世話が忙しくて、他の人たちとの関係が希薄になってたからさ‥‥」
「ほんと、君たち仲いいよね。赤藤さんって、他の人とあんまり話さないから。尾間加瀬くんくらいだよ、赤藤さんとあんなにお話しできてるのは。」
だろうな。いくら超絶美少女だとしても、あの性格に、圧倒的な才能。周りと良い関係を築くのはなかなかに難しいだろ。
「そういえば、尾間加瀬くん、入部して少ししてから赤藤さんと一打席勝負してたよね?」
「もしかして、見られてた?」
「うん、グラウンドに寄ったときに、偶然。ねぇ、尾間加瀬くんてさ、かなりバッティング上手いよね?」
いやぁ、能ある鷹は爪を隠すっていうけど、本当に能がある鷹は隠した爪ですら発見されちゃうのかぁ。でひゃああ、まいった、まいった。
「そんなことないよ、たまたま、良い感じの勝負になっただけで。最終的には負けちゃったしね。」
「いや、私の目はごまかせないよ。ちなみに、尾間加瀬くんてどこのシニアに所属してたの?」
まずい、過去の詮索は、まずい。
シニアなんて、所属したこともないよ。だって、少年野球しかやってないから。
「あっ‥‥、えっと‥‥。シニアは入ってないよ中学の野球部さ。」
桃香ちゃんは、目を輝かせて。
「えっ、そうなんだ!中学の野球部にこんな逸材が眠ってたなんて!どこの中学?」
やべぇ、これ以上の詮索は、まずい。
「あ、ごめんっ!!そろそろルナちゃんにドリンク持ってかないと、三角木馬の刑にされちゃうから!!じゃあね!また!」
ドドドドドドドドドドドド!!!‥‥‥‥‥‥
桃香ちゃんの尋問をぶったぎり、ダッシュで逃げた。
あのまま、詮索されていたら、ボロが出まくって絶対不信されてただろうからな。ふうぅ。あぶねぇ。
「あっ、行っちゃった‥‥。私の目が間違いなければ、彼はすごいバッティングセンスを秘めてるわ。さっそくパパに報告しなきゃ。」