出会い
我が愛しの妹が、これでもかと言わんばかりに呆れた表情をするが、俺は挫けない
こんな事で一々挫けていては、愛莉ちゃんの兄は務まらないのだ
愛莉ちゃんは一つ溜息をつく
「はぁ…毎日起こしに来てあげてるこっちの身にもなってよね。」
「ああ、ありがとう。
マイスイートハニー」
「キモい」
是非も無し
「ちょっと遅刻気味なんだから、早く出発しようよ。
転入早々、遅刻するなんて嫌でしょ?」
確かにそれは嫌だな
事前に引っ越し用のダンボールから取り出していたスクールバッグを担ぎながら、俺の部屋から出る
一階のリビングから吹き抜けになっているその空間は、"一人暮らし"にしては、余りにも広く寂しい
隣で不思議そうに首を傾げる愛莉
この少女のおかげで、何度助けられた事か
「どうしたの?お兄ちゃん」
「いや…何でもないよ。
そろそろ本当に出発しよう、間に合わなくなる」
部屋の戸締りをして、マンションの廊下に出る
最上階に位置する此処は、エレベーターが来るのが非常に遅い
「ほんと無駄に広いよねー、此処。
一階層に一部屋しかないし、どんだけ成金趣味なのよ。
お兄ちゃんは」
「ははは、なんだったら何時でも引っ越してきて良いんだよ?」
毒吐く愛莉に軽口で返す
そんな俺の態度が気に入らなかったのか、愛莉の表情に影が差す
「…やっぱりまだ、お父さん達のこと許せないかな」
「…許す…か」
妹にこんな表情をさせるなんて
俺は兄失格なのかも知れない
でも、やっぱり俺は…
タイミングを見計らった様にエレベーターが到着する
「この話は終わり。さぁ早く行こう」
「…うん」
俺は誤魔化す様に、その話題から背けてしまった
ごめんな愛莉
やっぱり俺は、彼奴らを許す事なんて出来ないよ
胸がチクリと痛む
その痛みを、忘れてはいけない
それが俺にできる
唯一の罪滅ぼしなのだから