第三話
「──古宮さん、おはよ!」
「お、お、おはようっ!!」
私と城戸くんの挨拶のやり取りに、友達二人が驚きの目をした。
「ちょっと、安奈!!何で城戸と挨拶なんかしてんのよ!!」
友達の葛西結愛が興奮気味で私に尋ねてくる。
「え……挨拶しちゃ駄目だった……?」
「違う違う!!昨日までそんな事無かったじゃない!
もしかして、何かあったの!?」
結愛は、私にとっては姉のような存在でいつでもクールなイメージだったのだが、今はまるで子供のように目を輝かせている。
すると、もう一人の友達と目が合う。
周藤陽太くん。
控えめだが、とても可愛らしい弟のような存在だ。
今は、この三人でよく過ごしている。
「あー……実は昨日色々あって……。」
私の言葉に、更に目を輝かせる結愛と、反対に少し表情を曇らせる陽太くん。
「色々って!?勿体ぶらないで話しなさいよ!!
周藤もそう思うでしょ!?」
突然、話をふられた陽太くんは戸惑いながらも答える。
「……あ、うん……。僕も知りたい。」
ということは、ストーカーに悩まされている事も話さないといけないのか……。
でも、この二人なら大丈夫か……。
私は決心して話し始めた。
「実はね、私最近ストーカーされてるみたいなの。」
「は?」
「……え?」
二人同時にすごく驚いた表情を見せる。
「……それでね、城戸くんがその事に気づいてくれて……守ってくれるって言ってくれて──」
「──ちょっと待ちなさい。」
私が話している途中で、結愛が口を挟む。
その表情はいたって真剣だ。
「ストーカーってどういうこと?
何で、まず初めに私たちに話さなかったの?」
結愛は少し呆れた表情で、私に尋ねる。
陽太くんは下を向いていて、表情はうかがえない。
「……ごめん。最初は単なる嫌がらせだとしか思ってなくて……それはストーカーだって、昨日城戸くんに言われて気づいたの……。」
「──警察には?」
その言葉に、私も陽太くんもビクッと反応する。
「……相談しようと思ったけど、城戸くんがそれで犯人が逆上すると怖いって言ってたから、してない。」
「確かに城戸の言うことも分かるけど、まずは警察に相談するべきよ。一般市民が守ってくれるって言ったって、限界があるんだから。」
「……そう……だよね。」
私は、好きな人が守ってくれると言ってくれて、一人で浮かれていたのかもしれない。
「分かった。放課後にでも相談してみる。」
「それで良いのよ。あー、朝から驚いた。
ちょっと飲み物でも買ってくる。」
結愛はそう言って伸びをすると、講義室を出ていった。
私もため息をついて、教科書を準備していると──
「──古宮。」
「ん?」
今まで黙っていた陽太くんが、突然口を開いた。
「……ストーカーに検討はついてるの?」
「…んー…それが全くなの。そのストーカーの姿を見たって訳じゃないし……。
あ、でも、1つ分かってるのは、それが学内の人間だってこと。」
「……学内…?」
これは単純に私の予想だが、それは間違ってはいないと思う。
「メールがいつも届くんだけどね?それが、いつも側にいて見てる感じなんだ。
特に、学校にいる時がメールが来るのが激しいから、きっと今も側で私の事を見てるんじゃないか…って。」
私の言葉に、陽太くんの顔がひきつる。
「そっか……ありがとう。」
陽太くんは、力なく笑うと自分の席へと戻って行った。
皆に心配かけちゃったな……。
でも、大丈夫。
今日の放課後には更に強力な──ブー………ブー………
心臓の音が早くなる。
画面に表示された"新着メールが届きました"の文字。
震える手で、スマホを握りメールを開く。
『警察に相談したらどうなるか……分かってるよね?』
私は思わず、辺りを見回す。
聞いてた……!?
見てた……!?
でも、怪しい人物なんて一人も見つからない。
皆、普通に生活を送っている。
私はこの時気づかなかったんだ。
一人、そんな私を見て愉快そうに笑う君に──。