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愛の夢

作者: 冰通

書きたくなったのでつい書いてしまった

はじめまして。

 それは、昔の話



ある島には2つの村があった。 村同士は互いに近く、かつ 協力関係にあった。彼等は自然を崇拝し感謝して暮らしており、その島の山の麓に祠を建て、崇めて、決して欲張らずにいた。


ある年、村のある若い男女が一夜の契りを交わし、苦楽を共に過ごすと誓った。


村々は彼等を祝い、祝宴をもって彼等の安寧を祈願した。それもそのはず、男は顔立ちが整い、気性の穏やかで村一番の働き手であり島と大陸の貿易を担っていた。一方、

こはとても明るく、誰とでも打ち解け、笑顔は絶えなかった。その様を「太陽の花」と例えるほどであった。


数年後、男は大陸との貿易で島を数週間離れることになった。それはいつものことであり、日常の風景であった。

しかし、彼らの元に信じがたい話が来たのである。それは男の乗った船が嵐に遭い行方不明になってしまった と。




女は当初、その話を信じなかった。けれど一月経とうと二月経とうと男は戻って来なかった。女はみるみる痩せ、ひどく悲しみ泣いた。島の村人も女の悲しむ姿は初めて見、そして、ひどく当惑した。


彼らは乞うた。崇拝する自然に、島に。「かの女の夫は無事でしょうか?生きていますように。」純粋に。


ある夜、女は夢を見た。それは男との出逢いからの日々であった。男と共に過ごし充実した日々が今後無いと思うと女はさらに胸が締め付けられる気がして、深く悲しみ号泣した。

ひとしきり泣いたあと、そこには彼との思い出の景色は無く、鼠色の重たい土砂降りの雨の中にいるような景色にかわり、見知らぬ人物が立っていた。圧倒的な存在感を与えるその薄い青色の髪の人物に女は不審に思い誰何した。「お前の夫はまだこの世に繋がっている。本来ならば許されないが男がどこにいるか教えてやろう」と。女は耳を疑った。するとまわりの重い景色が一変し、どこかの治療院の個室と思われる場所に立っていた。


そこに、包帯で幾重にも巻かれた愛する夫が眠っていた。一瞬、死んでしまったのかと思ったが、胸が上下に動いているのが確認出来たので女は安心した。そこへ医者と思われる人物が入ってきた。彼は「今日でおよそ三月経つがまだ目が覚めませんか。いやはや、これでは衰弱死してしまう」と呟いた。医者にとっては呟きであったが女には耳元で大声で怒鳴られるよりもよく聞こえた。衝撃が走った。


すると景色が滲み、薄れていき、また鼠色の重たい景色に戻った。すると少し前の方にあの人物が居り、続けて言った。

「男は海に投げ出され荒れ狂う波間を必死に泳いでいた。しかしその船の積み荷が運悪く男に当たってしまった。それでも男は女のことを想っていたぞ。波に喰われまるで巨大生物に丸呑みにされ喉を通るかのように沈んでく最中、意識を失うときまででさえ男は女を想っていた。一点の曇り無く、他者への一方的な恨み言連ねること無く。憎むこと無く。」と。

女は尋ねた。

何故、そのようなことを教えてくださるのか

答えた


「私は古代からこの地を見てきた。人間の営み、繁栄、進歩、誕生、成長、老い、死亡、喜び、怒り、笑い、悲しみ、憎しみ、慈しみ、尊敬、侮辱、驕り、謙虚、恋愛、戦争、発展、創造、破壊、侵攻・・数え切れないほど見てきた。その中で我々は手助けをし、持ちつ持たれつの関係であったが、次第に人間が知恵をつけ始めて我々の存在が蔑ろにされてきた。山は削れ、川は濁り、森は枯れ、空気は淀んだ。そこから私はあの島に移り住んだのだ。太古より自然を信奉し敬う彼らはとても好都合であった。そこで私を信奉するかわりに恵みを提供した。

「人間はもはや己の為にしか動かない」と思っていたが、この島の人間は違った。欲をかかず、曇りなき崇拝に私はとても嬉しかった。」と。さらに続けて、「最初は信じられなかった。所詮、人間の欲の為に仮初めの儀式をしているにしか思えなかった。しかし、お前たちは必要以上に木を伐らず、食料を無駄にせず、そして、感謝している。その姿勢に私は感動した。おっと、話がずれたな。私がお前の手助けをする理由か。」と。女は小さく頷いた。

「お前たちのお互いを敬愛する姿。愛し合う姿。仲睦まじくいる姿に私はこれこそが人間の良いところだということに気付いたのだ。そしてあの日から、お前の顔から笑顔が無くなってしまったのが私にはとても辛かった。村人の問い掛けにも心動かされた。だから私は手助けをした。」と言った。

女は驚いた。そして暫くの時が経った後、「そろそろ夢も覚める時間だ。これからどうするかは自分で決めなさい。」そう言われた途端、女の視界がぼやけ闇に沈んだ後、女は自分のベッドで寝ていたことに気付いた。まるで夢物語のような出来事であった。


その日、大陸から行商の船が島に渡ってきた。女は島では手に入らない食料や雑貨を買いに向かった。その足取りは少し軽かった。買い物途中、ある商人に声をかけられてこう言われた、「あんたの夫かもしれないやつが三月前から町の診療所にいるんだが行ってみるかい?」

女は首を上下に振った。


それから、女は身支度を整え、大陸に行く準備をした。大陸へ行く途中の船では女は落ち着いていられなかった。けれどその表情は幾分明るくなっていた。商人に連れられ着いた所はそこそこに大きな治療院であった。そこに入ると商人が簡単な手続きをしてくれて、ある部屋の前に着いた。扉を開けるとそこにはあの夢で見た景色と包帯に巻かれていない夫の姿だった。すぐさま駆け寄り男の側に行った。少しして、医者が部屋に入ってきて、彼等の姿を認めこう言った。「彼が運ばれた最初、ずぶ濡れで全身に切り傷と打撲があってなんで生きているのが不思議なくらいの有り様だったんだ。けれど、目は覚まさないけど傷が癒えていったんだね。で、今朝には包帯は取ったんだ。」言葉を続けようとした時、男がうめき声をあげ、少しずつ瞼が開いていった。医者と商人と女は一斉に男を見た。女の眦には特大の涙が溜まっていた。すると男は言った。

「ただいま」

と。



それからすぐに男は簡単な検査を行い、問題は無かったのでその日に退院することとなった。帰りの船の甲板で女と男は一緒にいた。すると男は突然話を始めた。

「実はね、夢を見てたんだ。出逢う時からのね。一緒に山に登ったり、僕が誤ってお皿を割っちゃったり、沢山の思い出を見てたんだ。だから、僕はまだ死ねないなあって思っててさ、本当は寂しがりの君を残して死んでなんかだめだなぁって。」女は頬を薄紅に染め男を見た。さらに、「あと、よくわかんない人にも会ったねぇ。存在感がとても凄かったよ。彼がね僕に君が悲しんでいる姿を見せたんだ。そしたらなおさら生きていかねばと思ったんだ。けれど彼が言うには「まだ目覚める時でないと」と言うんだ。なぜ?と聞くと、はぐらかされ、延々と話を続けられたよ。最後には「私は一応凄いやつなんだけどな..」とか言ってたけどなんだろね?そうしたら、急に視界がぼやけて目が覚めたら君が目の前にいたのさ。」と。


女は自分にあった出来事を話した。すると男は笑いながら「なんだそんな凄い人なんだね、彼。僕たちを再び会わせてくれたじゃないか。感謝しなきゃね」と。

その後、船が島に着くまでの間、二人は仲良く何気ない会話を続け、時に笑ったり、時に驚いたりして時間を過ごした。

島に戻ったとき、村人たちが大声をあげ男が帰って来たことを知らせた。島中は大騒ぎでその夜急遽、宴が始まった。男は「まるで出会った時のようだね。」と言い。女は笑顔でそれに応えた。宴の後数日、男は島の祠をもっと立派なものにしよう。と提案した。村人もそれに応え、かつて祠のあった場所に荘厳なお社が建てられた。後にその夫婦はその社の側に居を構え、社の代表者となり自然を崇拝し感謝を述べ、時に田畑を耕し、時に島と大陸の貿易を担い、これまで以上に活躍を見せた。

後の世に、世界が戦乱に包まれても、その島だけは何故か争いの災禍に巻き込まれず平穏のままであった。それは島の村人が常に自然を崇拝し感謝を忘れなかったからだといわれている。


━━━ そこまでいって詩人は語りを終えた。詩人が辺りを見ると人々が一心にこちらを見て、中には涙ぐむ人もいた。そして最後に詩人は言った「はたしてこの夫婦は幸せだったのでしょうか。それは私にも分かりません。」

すると誰かが「おい!あの詩人がどこにもいないぞ!」と。聴衆は大慌てで探したがついに見つかりませんでした。

青髪の詩人は心の中で呟きました。人の世もまだ面白い、と。


今は分からぬ遥か昔の話

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