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第8話 イレギュラー

 このコルトニア王国にも、納税義務は存在するらしい。

 月末(一ヶ月は同じく三十日間)になると税の対象となるアイテムのリストが配られて、国民はその中から納めるアイテムを各々選ぶ決まりとなっているそうだ。

リストの内容はその時々で変動するらしくて、リストが届くまでは何が税の対象となるかは分からないという、これまた驚きのシステムだった。

 だからこそ、この時期はアイテムの価値がかなり変動するらしい。税対象のアイテムを予想する相場師や専門の情報屋までいるとか。


「王様がアイテムの相場や滞りがちな流通を操作することも目的とした仕組みなんだって、昔お母さんが言っていたわ。リストのアイテムは全部同じ価値ですよって意味もあるんだって」

 真っ白な魚の塩焼きを食べながら、クーデルさんが教えてくれた。

 僕らはお店を早めに閉めて、夕食を【豚足亭】で食べている。納税という落とし穴でヘコんでいた僕を励ますためにと、クーデルさんが外食を提案してくれたんだ。

「税はこの国を支える大切なものだとも言っていたわ。だから元気出してミツル。あなたのおかげでお店を守ることができたのよ?」

 納税が滞ると、家賃滞納と同じように国外追放となってしまうそうだ。

「税だって豪商街に比べれば全然重くないし、ガーラの実の儲けの丸々全部を納めなきゃいけないってワケでもないんだから、ね?」

 それでも、儲けの三割くらいは納めなければならない。元手を考えれば、そこまでムチャな額でないことは何となく分かる。

 それでも、やっぱり悔しいものは悔しい。

 このことで、僕はやっぱりまだまだ子供なのだと思い知った。

 だって、そんな心配はこれまで一度だってしたことがないんだもの。

「もっとお仕事頑張らなきゃね! そのためにも、今は美味しいご飯で元気チャージ!」

 グッと握りこぶしを作って、クーデルさんは大きな肉団子を美味しそうに頬張った。

 そうだ。こんなことで挫けてちゃいけない。

 まだ儲けは残っているんだ。これを元手に、また商売を成功させなくちゃ!

 決意を新たに、僕もペペロンチーノを口いっぱいに頬張った。



 翌日は、週に一度の定休日だった。

 でも本当にお休みやお出かけをするのは稀らしく、そのほとんどは商品を補充したり、雑務をこなすための日だとか。その辺は僕んちと一緒だね。

 クーデルさんはいわゆる『集金』に出かけている。アイテムそのものが通貨代わりだから、中には持ち運べないアイテムを差し出すと約束して取引する場合もある。いわゆるツケ払いだけど、その際には口約束だけで済ませてしまうのだから恐ろしい。

 今日のお客さんは、職人街にいる大工の棟梁さんで、大勢のお弟子さん達が夏バテで困っているからと、ガーラの実を三十個も買ってくれた大口のお客さんだ。

 留守を頼まれた僕は、リビングで昨晩書いたノートを読み返していた。

 内容は、僕なりにこの世界の経済についてをまとめたものだ。


・この世界にはお金が存在しない。


 うん。これが僕の世界の経済との一番の違いだね。


・買い物の対価は様々。主に物々交換。


 そう。だから色々とややこしい。

 あと、飲食店などのサービス業は先払いが基本だとか。お客さんはある程度のの相場をもとに、「このアイテムでこのメニューが食べたい!」って感じで注文する。もちろん後は交渉次第。足りなければやっぱりツケられる。


・アイテムの価値は変動が激しい。


 そうそう。これこそ、この世界の経済の大きな特徴の一つで、ややこしい原因だ。

 僕も実際に体験したから分かる。あの辛いものブームのおかげで、ガーラの実の価値もかなり高騰したんだ。最初はガーラの実一つで野生のキノコや果物を二つ貰えれば上等だったけど、最後の方は焼きたてのパンや新鮮なお魚を一匹丸ごとくれる人もいた。

 まさか唐辛子っぽい木の実がプレミア価格にまでなるとはなぁ。売り切れたら次は仕入れできるかも分からないから、物価上昇の波に乗るしかなかったんだよね。


 でも、ガーラの実の高騰もここまでだ。

 なぜなら、税の対象に選ばえてしまったから。

 それでも今の【バニラ】の目玉商品であることに変わりはないから、他のアイテムを納めることにしたけど。

 一部のアイテムの基本相場は、ああして国が税という形で示している。でも、最終的に価格を決めるのは、『お客さん』と『商人』だ。


・対価に選ばれるアイルー


 あー、この辺りからもう眠くってあんまり覚えてないや。ヒドい間違い方してるけど、多分『アイテム』って書きたかったんだな、これ。


 この世界でお買い物に使われる一般的なアイテムは、やっぱり野菜とか果物などの食品が多い。誰もが必要とする物だし、鮮度の問題もあるからだ。

 街の外に生えている薬草なんかは安物扱いだけど、【バニラ】では傷薬も作るから対価に提示される場合も多い。ありふれた薬草を買い取ってくれるお店は貴重なのだとか。

 でも、結局はお客さんの職業次第だ。職人街や農民街の人、つまり生産者の人達は、まさにその生産した野菜やお肉、装飾品などを。

 門番や役人などの公務員さん達は、国からのお給料も当然現物支給らしく、様々なアイテムを持ってくる。

 こういった経済形態だから、小分けにできる物や、鮮度を気にせずにすむ物も貴重だ。価値が変動しにくいものは貯蓄にも向いているし。

 【バニラ】のメイン商材である雑貨も、貯蓄や別のお店で取引するための転売を目的とした人も案外多いみたい。

 だから、この街で道具屋という選択をしたクーデルさんのお母さんは、中々頭のいい人だったのではないだろうか。クーデルさんを見ていると、正直ちょっと疑問だけど。

 でも、当然だけど、本来【バニラ】は一級や特級の超レアアイテムを得ることを目的としていない。


 ……やっぱり、普通の商売をしているだけでは埒があかない。

 もっともっと沢山儲けて、まずはレアアイテムの情報収集から始めなくちゃ。

 それに、レアアイテムには魔力が宿っているものも沢山あって、魔法の力が使えるらしいんだよね! せっかく異世界に来たんだから、魔法も使わなきゃだよね! 僕はゲームでも『戦士』ジョブより『魔法使い』ジョブの方が好きなんだ。

 『商人』は……うん、論外だったかな。あくまでゲームの話だけど。


「ただいまー!」


 そこに、クーデルさんの元気な声が聞こえてきた。

 でも、どうして裏口の方から?



 お店の裏のお庭に出ると、ちょうどクーデルさんが数人のお弟子さん達を見送っているところだった。約束の品を運んでもらったのかと思ったら……。

「……クーデルさん、それはなんですか?」

「え? 見ての通り、おっきな木材だよ? すごいでしょ!」

 お庭にある小さな作業小屋の前には、たしかに大きな木材があった。綺麗に伐り出されたもので、その大きさは僕の家の和室にある桐箪笥くらいはある。

「……たしか、本棚と椅子とテーブルを貰うはずでしたよね?」

「へ? いやその、木材は雑貨を作るのにも使うし、火を起こす薪にもなるし……そう、とっても必要なんだよ!」

 どうやらクーデルさんは、必要経費だと言いたいらしい。

「……実は、お弟子さんの何人かが、ガーラの実の食べ過ぎでお腹壊しちゃったんだって。それで、ちょっと忙しかったみたいで……」

「……なるほど、そうでしたか」

 正直、職人さんが作った家具ならいい商品になるだろうと期待していたので、このイレギュラーはかなりショックだった。

 でも、クーデルさんのそういうところ、最近は嫌いじゃない。

「わ、私もガンバっていい物作るから、ミツルも何かリクエストがあれば言ってね?」

「急にそう言われても……」

 弱々しく言いつつも、僕は必死に考えた。

 この木材を、なんとか上手く使う手立てはないものか……。


「そうだ! クーデルさん、この世界にはアレってありますか?」

「アレ?」

 僕の説明を聞いたクーデルさんの答えは、期待通りの「ノー」だった。

読んで下さった方、誠にありがとうございます。

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