第36話 空飛ぶ商人
出発から四日目。問題が発生しました。
目の前に広がるのは、広大な砂漠地帯。
その砂漠で、強烈な砂嵐が吹き荒れていた。
「……あれは、グーくんでも無理よね?」
僕と一緒に御者台に座るクーデルさんが、滞空飛行をするグリフォン改め『グーくん』の背中を撫でながら尋ねる。
グーくんの名付け親はもちろんクーデルさんです。カレンさんが付けた長くて複雑な名前では呼び難いと、勝手に名付けちゃいました。まぁグーくんも甘えた声で喜んでいたからいいと思うけど。呼びやすいし。
グーくんは「キュルル……」と鳴いて項垂れるような仕草を取って応えた。「お役に立てず面目ない」ってかんじかな? クーデルさんも「気にしないで」って慰めてるし。
「どうしましょう?」
馬車の小窓から顔を覗かせるナガレさんに伺うと、困ったように唸った。
「むぅ、情報が欲しいな。砂嵐が収まるまで待つが早いか、迂回した方が早いか……」
地図によると、あの砂漠はかなり広い。グーくんのペースでも丸一日はかかりそうだ。
砂漠超えの必需品である水は恐らく問題ないけど、暑さを凌ぐ方法も考えないと。馬車にはクーラーなんてあるはずもない。暖炉はあるけど。
ずっと上空を飛ぶって方法も、ムリだろうなぁ。「気流が乱れて上手く飛べないのー!」ってなること間違いなし。
……ちょっとやりたいとか思っちゃダメだよね。
「商人さま、商人さま、お困りですかー?」
と、そんな立ち往生……じゃなくて、飛び往生? する僕らに声をかける人がいた。
ダークブラウンの翼を持つ、若い鳥族の男の人だ。軽やかに空を飛び、こちらに近づいて来る。
「小生は【ウイング商会】のバーグと申します。皆様はかの有名な【セブンス商会】の方々とお見受け致しますが、何かお困りのご様子。お役に立てないかと馳せ参じた次第に御座います」
ペコリと一礼して、早口で言うバーグさん。空飛ぶ商人とは驚いた。いいなぁ。
「こんにちはバーグさん。どうして私達が商人だと思ったんですか?」
クーデルさんの質問はもっともだ。御者台に座るクーデルさんと僕とでは、召使いのメイドと子供にしか見えないだろう。中の二人も侍姿の女性冒険者と小さな女の子だし。
「はっはっは。ご冗談を。その立派な車に商会のマークがあるではありませんか」
あぁなるほど。でも、それだけで商会の名前が分かるなんて、やっぱり【セブンス商会】は有名なんだな。
説明するのも面倒だし、このままカレンさんの知名度もお借りしよう。
「はい。カレン様の命により、大切な商品を運んでいます。一刻も早くこの砂漠を超えたいのですが、あの砂嵐はいつ収まるかご存知ですか?」
「なるほどなるほど、しかしそれは困りましたな。この時期の砂嵐は強烈でして、中には十日も吹き続けることもあります。丁度昨夜始まったばかりですので……」
十日!? それは困る。時間と経費は少ないほうがいい。
「迂回の道はあるか?」
馬車の中からナガレさんが問いかけると、バーグさんはずっと崩さない営業スマイルを更に強めて、弾んだ声で答えてくれた。
「えぇえぇ! ありますとも! 我が商会だけが知る空の抜け道ですよ。道案内もおまかせあれ。今ならお安くしておきますよ?」
これはまさに渡りに船だ。僕らは互いに頷き合って、バーグさんに依頼することにした。
「まいどありがとうございます! では皆様、小生にしっかりと付いて来て下さいませ!」
額につけていたゴーグルを目元に装着し、バーグさんは勢い良く飛んでいった。
なんと、あの砂嵐の上空に向かって。
半信半疑に思いながらも、今更後には引けない。御者役を交代してくれたナガレさんは手綱を振るって、グーくんに発進を命じた。
バーグさんに案内された道は、まさに言われた通りの『空の抜け道』だった。
どうやら気流の流れの穏やかな箇所を辿っているらしく、雲の海をうねうねと縫うように飛び続けている。この馬車に揺れ防止の措置がされていて本当によかった。それでもかなり揺れたけど。
二時間ほど飛び続けて、無事に砂嵐を抜けることができました!
「ありがとうございますバーグさん! おかげで助かりました!」
「いやいや、なんのなんの。これも小生の務めでありますからな。しかし立派な馬車ですなぁ。砂漠の真ん中で優雅なティータイムにご招待いただけるとは思いませんでした」
今は砂漠の中の岩場で休憩中です。ずっと砂嵐の中を飛び回ってくれたからと、クーデルさんがお誘いしました。
ちなみに、ずっと上空を飛び続けるのは危険らしい。酸素が薄くて高山病になっちゃうからだ。それよりは砂漠の暑さの方がずっとマシだね。
「ごちそうさまでした。……では、そろそろお代を頂けますかな?」
「あ、そうですね。おいくらでしょう?」
「三級レアアイテムをお一つ頂ければ、十分に御座います」
ほうほう、三級レアアイテムですか。
………高っ!!
お読み下さった方、誠にありがとうございます。




