第19話 お宝は天下の回りもの
「二人共! すまないが手伝ってくれないか!?」
ダッシュで戻ってきたナガレさんは、開口一番僕らにこう言った。
その声は、ビックリするくらい弾んでいる。
「奴ら、中々蓄えていてな! 命だけは見逃す代わりに財宝を全て頂くという取引を成立させてきた! 奴らは残らず氷の牢に閉じ込めたから危険はないぞ!」
「そ、それはよかったですね……」
「ん? どうしたミツル? 顔を見せてはくれぬのか?」
「ナガレさんはまず新しい服を着てください!」
クーデルさん、ありがとうございます。黒い着流しもその下の鎖帷子もあの地雷のせいでボロボロだから、目のやり場に困るんですよ……。
でも、驚いたことに怪我はほとんどないみたいだ。【銀牙】も既に腰に差していたし。よかったよかった。
「それと、もう一つ手伝って欲しいことがあるのだが……」
ナガレさんは、一転して困ったような様子だった。
「件の娘を説得して欲しい。自殺しようとしたから、当て身で眠らせてある」
「「それを早く言ってください!!」」
僕らは急いで崩壊したアジトへと向かった。
崩壊したアジトは、岩の瓦礫まみれだった。元々は岩をくり抜いて造られた建物だったみたいで、かなり立派だったと思われる。
その中の開けた場所に、キングサイズベッドが野ざらしで置かれていた。あの娘が眠っている。ベッドはボスの部屋から拝借したそうだけど、これを一人で運んだことなんて、もうちっとも驚かない。
十歳くらいだろうか、幼い顔はやつれていて、顔色も土気色だ。こげ茶色のショートヘアに、小さな半円の耳がちょこんと乗っている。同じ色の細長い尻尾もあるらしい。
「猿族の子でしたか。この辺りでは珍しいですね」
「クーデルは会ったことがあるのか?」
「はい。すごく小さい頃に。お母さんと放浪中の時だから、もう十年以上前ですね」
「え? クーデルさん、コルトニアの出身じゃないんですか?」
「うん、実はそうなの。物心付いた頃からお母さんと二人であちこち放浪していたから、母国も知らないわ。多分、難民だったんだと思う」
そうだったのか……。ナガレさんも祖国を捨てた流れ者だって言っていたし、二人共大変だったんだろうなぁ……。
なんか、日本でのんびりゲームとかしててごめんなさい……。
「そんなお話は置いといて! とりあえずこの娘は私が見てますから、二人はお宝を取りに行っていいわよ」
というわけで、お宝発掘タイムです!
宝物庫(だった場所)は、本当に宝の山だった。瓦礫をどかしながら発掘していくと、見たこともないアイテムや宝箱がゴロゴロ出てくる。隠しアイテム探しのワクワクっぷりはゲームの比じゃないね!
宝箱にはトラップもあるらしい(それを聞いた僕は密かに爆笑しました)から、後でまとめてナガレさんと一緒に開けるんだ!
「……って、これって全部誰かから盗んだ物なんですよね? いいんですか?」
「いいかミツル、この世の理の一つに、盗賊団を壊滅させたらお宝は総取り、というものがあるのだ。レアアイテムは天下の回りものだからな。ここにあっても国の兵士か別の盗賊達に持っていかれるだけだろう。気に病む必要は微塵もないぞ」
そういうことなら、ありがたく頂きます。有効利用した方が合理的だしね。
「そんな理あるかボケ! 俺達のお宝に手ぇ出すな!」
「そうだそうだ! どっちが盗賊だこのアマァ!」
そう怒鳴るのは、巨大な氷の牢に閉じ込められた盗賊のみなさん。
宝物庫の目の前に牢屋を造るなんて、ナガレさんも意地悪だよな……。
チャキッ。
「「「すんませんっした~!!」」」
鍔鳴り一つで黙らせちゃったよ。よっぽど無双モードのナガレさんが怖かったんだろうなぁ。
「ったく、これ以上みっともねぇマネするんじゃねぇよ」
そう言うのは、あのボスの人だ。素顔を見て驚いた。全身緑色の鱗に覆われている人は初めてだ。リザードマンかと思ったら、鰐族だとか。
「恨むんなら、尽く読みを外したこの俺を恨みな」
ナガレさんを標的にした時点で、もう詰みですよ。
「まだ文句があるようなら、全員の首も頂くぞ。国に差し出せば、二級レアアイテムを頂けるからな」
賞金首だったのか。そういう制度もホントにあるんだね。
「お前さんはそんな無体なマネはしねぇだろ?」
「フッ、本当に小賢しい男だ。『部下共の命を見逃してくれたら宝物庫の鍵を渡す。俺のことは好きにしろ』などと言う男の覚悟を、誰が踏みにじることなどできようか」
ぼ、ボス! カッコイイじゃないですか!
「ま、お前さんに宝物庫の鍵は要らなかったみてぇだがな」
建物ごと壊しちゃいましたからね。
「代わりに、【隷属の首輪】の鍵を寄越せと言われたときは耳を疑ったぜ」
「自分はただ、この男の依頼を遂行したまでだ」
この男って、僕のことだよね? その呼ばれ方はなんだか照れるなぁ。
「そうかい。おいボウズ、あの奴隷娘に惚れたか?」
「ち、違いますよ!」
「そうかい。そりゃあ良かったな。アレはさっさと売っちまいな」
「そんなこと、絶対にしませんよ」
「……ケッ、いい目をするじゃねぇか。ま、忠告はしたからな」
「???」
さっぱり分からないよ。
改めてその忠告の意味を問おうとしたら、
「ミツル! ナガレさん! あの娘が目を覚ましたわよ!」
クーデルさんが、小走りでこちらに駆けてくる。
その顔には、三本線のひっかき傷が刻まれていた。
お宝は盗品ではありますが、この場合は違法にはなりません。冒険者達に危険な討伐任務をやる気にさせるためです。
あとはタイトル通り、世間にアイテムを回すためでもあります。
お読み下さった方、誠にありがとうございます。