表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/50

第18話 二つの誓い

「あー楽しかった!」


 小声でも弾んだ声でそう言うのは、ご満悦なクーデルさん。後から聞いた話だけど、昔は何度か遊びとトレーニングを兼ねて同じようなことをやってもらっていたらしい。

「うぅ……死ぬかと思った……」

 一方の僕はもうライフがゼロです。ジェットコースターは苦手なんだ。

「すまぬな。一刻を争うと思い加減できなんだ。悲鳴を上げなかっただけ大したものだ」

「それで奴らにバレたら最悪ですからね」

 ナガレさんは人二人を担いで全速力で走ったのに、息一つ切らしていない。流石だ。

 

 ここは『魔女の森』の北西にある岩石地帯。大きな岩山と荒野が見渡す限り広がっている。

 巨大な岩石が密集するところに奴らのアジトを発見した。僕を見逃してくれたのは安全策のつもりだったかもだけど、失策になったね!

 一先ず、僕らは離れた岩場に身を隠している。

「さて、自分は一仕事してくるよ。二人はここを動くんじゃないぞ」

「う……はい、分かりました」

 できれば力になりたいけど、かえって邪魔になることは明らかだ。

 悔しいなぁ。やっぱり『商人』に荒事は無理なのかなぁ。

 そんな考えが顔に出ていたのか、唐突にナガレさんが僕の頭を撫でた。

「ミツル、悔しがることは立派なことだ。できなくて当然だと考えていないということだからな。だが、今は自分に任せてくれるか?」

 ナガレさんは、僕を男として見てくれている。情けないけど、今はそれだけで嬉しい。


 僕が『商人』というジョブを選んだことは、逃げでも妥協でもない。それが僕の一番の強みだと思ったからだ。後悔だってない。

 でも、やっぱり強くなりたい。

 商人として。男として。


「……はい。お願いします」

「いってらっしゃいナガレさん。どうか気を付けて」

 ナガレさんは微笑みながら力強く頷いて、まっすぐ奴らのアジトへと駆けて行った。やっぱり正面突破なんですね。

 荒野を疾走するナガレさんの後ろ姿がドンドン小さくなっていくのを、僕らは無事を祈りながら見守っていた。


 その姿が、突如巻き起こった爆発で見えなくなった。


「「ナガレさん!!」」

 僕らの呼び声も、爆音にかき消されてしまう。

 まさか、地雷!?

 もっと冷静に考えるべきだった。あのボスは、ナガレさんが【銀牙】を取り返しに来ると読んでいたんだ!

 轟々と唸る爆炎が荒野に広がる。炎の向こうからは野太い笑い声が響いてくる。

「ミツル! 行っちゃダメよ!」

 立ち上がる僕の腕を、クーデルさんが掴む。

「なんでですか!? ナガレさんを助けなきゃ!」

「大丈夫! あの人は大丈夫だから!」

「そんなの分からないじゃないか!」

「分かるの! いいから聞きなさい! ホラ、何か聞こえるでしょう?」

「え…?」

 言われて、僕も耳をそばだてる。


『『『ギャアアアアアアアアアッッ!!!!』』』


 野太い笑い声は、痛々しい悲鳴に変わっていた。

 ここは荒野。燃やせる物が見つけられない炎達は、徐々に勢いを弱めていく。

 対して、再び姿を見せた岩石のアジトは、何度も爆発や破壊を繰り返し、ナガレさんの無双ぶりを激しく物語っていた。

「ね? 言った通りでしょ? ナガレさん、隠していたけどすっごく怒っていたもの」

 そう言うクーデルさんはすごい汗だ。あの爆発の時も一緒に叫んでいたし、絶対に心配したはずだ。それでも、バカな僕を止めるために強がりを……。

「……はい。すみませんでした」


 もう二度とクーデルさんを心配させないくらい強くなろう。

 そして、絶対にナガレさんを怒らせないでおこう。


 悲鳴が途絶え、砂山のように呆気なく崩れていったアジトを眺めながら、心に誓った夜だった。

 でも、あそこまで強くはなれないかな……。


ナガレさんの怒りを一番買った理由は、皆様のご想像にお任せします。


お読み下さり、誠にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ