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第17話 依頼

 この世界の人達は、動物の耳や尻尾が生えた、いわゆる獣人がほとんどだ。

 それは見た目だけでなく、その動物の特性の一部も身体に宿しているらしい。ちなみに夜目が効く種族は多い方だとか。

 猫族のクーデルさんの主な特性は、聴覚と瞬発力。本気でジャンプしたら、なんと五ロム(約五メートル)くらいは跳べるらしい。しかも地獄耳とは恐ろしい。ヘタなことは口に出さないようにしなきゃ。

 でも、その瞬発力でもドジは治らないんだなぁ……。

 そして、犬族のナガレさんは、脚力と嗅覚。すごく速く走れるのと、嗅覚がものすごく発達しているらしい。

 つまり、ナガレさんは僕の背中に残っているあの盗賊の女の子の匂いを辿って、奴らのアジトを割り出そうというつもりだった、と。

 それならそうと言って欲しかったです!


 クンクン、クンクン。

「……あの、僕、臭くないですか?」

 今、ナガレさんが僕の背中の匂いを嗅いでいる。

 これは奴らの痕跡を辿るためとはいえ……うん、すっごく恥ずかしいよぉ!

「ふむ、いつもはクーデルと同じ石鹸の香りがするが、今は少々臭うな」

「わぁ! ごめんなさい!」

「あぁすまん。ミツルが臭いのではない。あの娘の体臭だろう。……恐らく、あの娘は奴らの奴隷だ。首に奴隷の証である【隷属の首輪】があったからな」

 【隷属の首輪】は三級のマジックアイテムで、セットの鍵と一定以上距離が離れると爆発してしまう、なんともおぞましいアイテムらしい。

「……やっぱり、そうでしたか」

 この返答に、なぜか僕の正面で睨みを効かせていたクーデルさんがちょっと驚いていた。

「え? ミツルは知ってたの? ミツルの世界にも奴隷はいるの?」

「いないですよ! 今は絶対に許されない制度です!」

「それはいい世だな。安心しろ、コルトニアにも奴隷制度はない。こちらの世界では珍しいことだがな」

 それを聞いて心から安心した。

「僕はただ、あの娘が盗賊の仲間だとはどうしても思えなかったからです。だから、あの、ナガレさん。僕もお願い……いえ、お仕事の依頼をしたいんです」

「む、なんだ改まって」

「あの娘を、助けて欲しいんです」

 ナガレさんはちょっと驚いていた。そりゃ、自分に刃を向けた相手を助けたいなんて、変だよね。

「あの娘は僕を殺したくないって言ったんです。ナイフを持つあの娘の手は、震えていました。あの人達を、許せないって思いました!」

「私からもお願いします。ミツルを生かしてくれた優しい娘を、どうか助けてあげて!」

 僕とクーデルさんは揃って頭を下げた。

 対して、ナガレさんは「まさか二人に奴隷解放の依頼を頼まれる日が来るとはな」と呟いて、少し顔をほころばせている。

「冒険者に依頼をするということは、報酬を求められても文句は言えんな?」

「はい! なんなりと!」

 ここで報酬を渋るのは商人としても人としても恥だと思う。

「では、まずはクーデル」

「はい。何をお望みでしょう?」

「すまないが、あのナイフを貸してはくれぬか?」

 クーデルさんが持っているナイフ? 木工用?

 疑問符を浮かべていると、なぜかクーデルさんから「ちょっとアッチ向いてて!」と言い渡されたので、素直に従います。

 数秒後にお許しが出たので振り向くと、クーデルさんは立派なナイフを手にしていた。刃渡り十五リム(約十五センチ)くらいの細身のもので、銀の鞘には細かな彫り細工が施され、鍔の真ん中には真っ赤な宝石が埋め込まれている。まるで芸術品だ。

 多分、スカートの中に護身用として隠し持っていたんだろう……あ、クーデルさんに睨まれた。はい、もう考えません!

「……恩に着る。必ず無傷で返す故、大切な品を借りる無礼を許して欲しい」

「もう、ナガレさんの悪い癖ですね。報酬だとか条件だとか言わずに、普通に頼んでくれればいいじゃないですか。お母さんの形見だからって気にしすぎですよ」

「う、うむ……」

 いや、それは誰だって気にしちゃいますよ。

 でも、装備なしでボス戦はキツいですよね。

「あっ、でも、できればそのナイフで人を殺さないでもらえると嬉しいです……」

「無論だとも。これは悪を裁くものではなく、大切な者を護るためのものだからな」

 ひょっとしたら、あれがヴァニラ家の家宝なのかも。なんてぼんやり思っていたら、僕の番がやってきた。

「ミツルからは、お前の世界の魔法具を貰おうか」

 耳を疑った。え? 僕の世界のマジックアイテム??

「あぁ、アレのことね? アレは魔法じゃないって言ってたじゃないですか」

 クーデルさんの言葉で思い出した。前に三人でお茶をした時、話題に出たアレのことか。

「いいですよ。どうぞ使って下さい」

「本当か? それはありがたい。実はアレのことを知ってから羨ましくてな。これでクーデルの煎れる美味い茶を、温かいまま外でも飲める」

 ナガレさんは緑茶に目がないからね。長旅なら水分確保は必須だし。

 たしかに魔法瓶って、この世界の人はマジックアイテムかと思っちゃうかも。

 ちなみに、この世界の水筒は硬い木の実をくり抜いたものや加工した革袋が主流です。当然冷めるし、わりとすぐに腐っちゃうらしい。


「交渉成立だな。では急ぐとしよう。すまないが、近くまで一緒に来てもらうぞ」

「え! いいんですか!?」

「え!? 私とミツルも!?」

「事情が変わった。二人を街まで送ってからでは手遅れになるやもしれぬ。……あの娘が奴隷である以上、生殺与奪の権は奴らが握っているからな。今の奴らは、新たな玩具を得た童子も同じだ」

 ナガレさんの鋭い目付きにハッとする。あの危険な刀を、試しにあの娘に抜かせたりしたら!

「急ぎましょう! 僕、精一杯走りますから!」

 インドア派の僕だけど、短距離走だけは得意だったんだ! マラソンは大嫌いだったけど。

「いや、それには及ばない」

「へ?」

「あ、ミツル。口は閉じた方がいいわよ? 怖かったら目もね」

「え? え?」

「ご無礼!」

「わっ! わわわっ!」

「頼むから、悲鳴を上げんでくれよ!」

 そう言って、ナガレさんは僕とクーデルさんを両脇に抱えて、猛スピードで駆け出した。


ミツルの持っていた水筒はコップ付きのタイプです。夏はポ◯リを入れていたようです。


お読み下さった方、誠にありがとうございます。


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