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第13話 困ったときは

 朝市終了まで、一時間を切った頃。


「いらっじゃいまぜ! いらっじゃいまぜ!」

「いらっじゃいまぜ……ゴホッ…い、いらっじゃいまぜーっ!!」


 とうに喉は枯れ、疲労困憊となった僕らのラゴの実は、一つも売れてはいなかった。

「いい加減諦めなさいな。そんな声じゃあ、可愛くないわ」

 とっくに完売してしまったカレンさんは、冷たい飲み物を飲みながら優雅に高みの見物をしていた。

「……まだ…終わっでまぜんがら……」

 この街の人達は、僕らの実を買うなとさえ言われているのかもしれない。

 それでも……!

「根性だけで物が売れれば、商人なんて苦労はないわ」

 それはそうだ。『根性のない奴に商売人は務まらん』と言う父さんだって、それは承知の上だろう。

「……ぞれでもまだ…僕も…ヴヂの店長も……諦めていないんでね……!」

 キッとカレンさんを睨みつける。


「ぢょっど、黙っででぐだざい……!」


「ッッ……!」

 正直、カレンさんの人海戦術は僕も脳裏をよぎったものだ。

 クーデルさんに口止めされた時、僕は自分の考えを心から恥じた。

 だから僕は、クーデルさんの判断を誇りに思う!

「い…いらっじゃいまぜーーーっっ!!」

 最後の一滴まで絞り出すように、ありったけの大声を張り上げた、その時だった。


「あぁ居た居た! やっと見つけたわ」


 そう言って僕らのお店に駆け寄ってくるのは、なんと長靴通りにある食堂【豚足亭】のオカミさんだった。

「まったくこの街の奴らときたら、人にものを尋ねられたら快く教えろと親から教わらなかったのかねぇ。それにあの定期馬車の御者もさ。チンタラチンタラと準備に手間取って、要領が悪いったらありゃしない。やっぱりお役人ってのは商売ができないのがなるもんかねぇ。臨機応変は商売の基本だろう? こりゃあ王様も大変だねぇ」


 おばちゃんは洪水のようにそう言うけれど、僕らにはさっぱり意味が分からなかった。

「あ、あの、オガミざん……」

「おばざま……ラゴの実…お一ついががですが…?」

「まぁまぁ、二人共ヒドイ声じゃないかい。もちろん買わせてもらうよ。そのつもりでみんなと来たんだからねぇ」

 おばちゃんは「おーい! ここだよ! コッチコッチ!」と上げた手をブンブン振って、誰かを呼んでいるみたいだ。その声は僕らなんかと比べ物にならないくらいのよく通る大声だった。年期が違う。

 すると、その声に応えるように、ぞろぞろと大勢の人達がこちらに向かってくる。

 その人達の姿に、僕とクーデルさんは目が飛び出そうになるほど驚いた。


 職人街の大工の棟梁さんとお弟子さん達、ショーギにハマって五回も挑戦した画家見習いのクロエさん、いつも美味しい野菜を持って来てくれる農民街の新婚夫婦、新聞記者のお姉さん、長靴通りのみんな、そして、ナガレさんの姿もある。


「待たせたな二人共。なにせこの人数だ。馬車が一台では足りなかったのだが、それを準備する御者の若いのが――」

「その話はもう済んでるよナガレちゃん! さぁさぁチャッチャと一列に並びな! 疲れてる二人を困らせるんじゃないよ!」

 呆然と立ち尽くす僕らに、ナガレさんがコッソリとこの状況を説明してくれた。


「ここに集まったのは、お前達のファンだ」


 僕らの危機的状況を、僕らに代わってナガレさんが言いふらしてしまったそうだ。

「自分は商人ではないのでな。大目に見てくれ」

 ニッと白い歯を見せて笑うナガレさん。

 そんなの、クーデルさんが怒るはずないよ。

 ここにいるみんなは、僕らを助けようと集まってくれたのだから。


「さぁ売っておくれクーデルちゃん! みんなに行き渡るようにしておくれよ!」

 カレンさんの行列よりもはるかに長い列に向かって、クーデルさんは涙と鼻水でグシャグシャになりながら、深々と頭を下げた。

「……ありがどう…ございまずぅぅ……」

 みんなは口を揃えて、嬉しそうに言った。


「「「困ったときはお互い様さ!」」」


お客様に恵まれることは一番の理想ではないかと思います。


お読み下さった方、誠にありがとうございます。

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