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第1話 プロローグ

初投稿です。楽しんで頂ければ幸いです。

 僕の名前は小金井(こがねい)(みつる)。スーパーマーケット【コガネイ】の一人息子で、低身長と童顔が悩みの、ゲーム好きで平凡な中学二年生。


 でした。過去形です。


 三日前の七月二十二日。一学期の期末テストの最終日で、僕の十四歳の誕生日。

 その学校帰りに、僕は、異世界に来てしまった。

 橋から落ちたんだ。で、目が覚めたら真っ暗な森の中でした。

 そんな僕は今、薬草をすり鉢でゴリゴリやっています。


「ミツルー! できたー?」

「あ、はい。こんな感じですか?」

「うん! 上手上手! ありがとね」


 僕が今もこうして生きていられるのは、森で二人のお姉さんに出会ったおかげだ。

 一人はこの人、クーデル・ヴァニラさん。十六歳のお姉さん。

 真っ白な猫耳と細長い尻尾を生やして、肩にかかるくらいの長さのウェーブヘアも同じく雪のように輝く白。耳と尻尾以外は普通の人間と同じで、肌は少し日に焼けている。

 今日はライムグリーンのエプロンドレスを着ているけど、メイドさんじゃない。

 元気で優しくて、ちょっとドジなクーデルさんは道具屋【バニラ】の店長さんだ。

 森の中で迷子になっていた僕が、最初に出会った異世界人だった。クーデルさんも迷子だったけど。

 そのご縁から、僕は今、この【バニラ】にお世話になっています。


「じゃあ次はこれとこれを混ぜてくれる?」

「はい。了解です」

「もう、ミツルは固いなぁ。もう三日も一緒に暮らしてるのに、敬語のままだしさ」

「そんなこと言われても……」

 クーデルさんも僕を子供扱いしないで下さいって言いたかったけど、やめておいた。

 前に言った時は、「おませさんはこうだ!」ってヘッドロックされたから。思春期男子に過度なスキンシップは本当に勘弁して下さい……。


 スーパーを経営している両親からは、目上の方への接し方はしっかりと叩きこまれている。

 それ以外にも、根っからの商売人である父さんからは、ことある毎に理念やらうんちくやらを教えられた。というか語りたがった。生返事だと拗ねるから厄介だ。

「じゃあ、よろしくね。私はお庭の作業小屋にいるから」

 クーデルさんを見送って、僕はゴリゴリ作業を再開した。

 一応お店のカウンターにいるけれど、お店番じゃない。

 今【バニラ】は臨時休業中なんだ。

 

 お店の扉が開いて、カランと木のベルが鳴った。

「あ、お帰りなさい。ナガレさん」

 この人が二人目の恩人のお姉さん。ナガレさん。歳は多分二十歳くらい。

 ナガレさんは、クーデルさん(とオマケで僕も)を迎えに来てくれた恩人です。

 墨のように真っ黒なロングヘアで、犬耳とフサフサの尻尾を生やしている。モデルのような抜群のスタイルに黒の着流しを纏い、氷の魔力が込められた妖刀【銀牙(ぎんが)】を腰に携えている。


「うむ、ただいまミツル。頼まれた薬草などを採ってきたぞ」

 綺麗なハスキーボイスと共に、ナガレさんは薬草やキノコがタップリ入った籠を僕に差し出した。

 ナガレさんは、冒険者の剣士だ。僕からすればまんまサムライって感じ。

 遥か東の国からの流れ者らしく、その名前も偽名らしい。「自分は故郷と名を捨てた身だ」とか言っていた。カッコイイ。

「わぁ、ありがとうございます」

「ついでに、野兎と大ガマガエルも狩ってきたぞ」

「わ、わぁい……」

 兎はともかく、カエルはどうなんだろ。まぁいいや、売り物にしちゃえ。

「でも、本当に報酬はアレでよかったんですか?」

「何を言う。インクが中に入った筆など、実に便利じゃないか」

 ボールペンです。

 この世界の人からすれば、僕の世界のアイテムは珍しいみたい。


 この世界には、沢山の不思議なアイテムがある。

 クーデルさん達も『アイテム』って単語を使った時は、本当にゲームの世界かとビックリした。

 照明は【ヒカリサンゴ】という水気を取ると光り出す珊瑚を専用の照明器具に入れて使うし、火を起こしたい時は【炎石】という赤い石を火打ち石にすれば僕でも簡単に火が起こせる。

 特殊な力があったり入手困難なアイテムは、レアアイテムと呼ばれている。

 レアアイテムには四段階の等級があるそうで、ナガレさんの【銀牙(ぎんが)】は一級らしい。一番上の特級レアアイテムは、一つで城が建つほどのお宝だとか。


 不思議なアイテムがある一方、技術や文明なんかはかなり違う。電気もガスもないし、主な移動手段は馬車。街並みも含めて、RPGでは定番の中世ヨーロッパ風って感じ。

 でも、一番なくて困ったのは――

 

「さて、今日は自分も手伝うとしようか。クーデルに仕事をもらってくるよ」

「え? いいんですか?」

「うむ、報酬は、クーデルの作る美味い晩飯としようか」

 ナガレさんは報酬次第でどんな仕事も請け負う凄腕の冒険者だけど、この街に来た時からお世話になっているらしいクーデルさんには、特に協力的みたい。

「クーデルの作るカエル料理は絶品だぞ。ミツルも明日に備えて、しっかりと精をつけるのだぞ」

 僕はウサギ料理の方が……とは、ちょっと言い出せなかった。



 この国は、商業王国【コルトニア】。

 ちなみに、【バニラ】は北の商業街にある。

 この北の商業街では、月に一度、『マーレ』と呼ばれる大きな市場が開かれるらしい。

 いよいよ明日開かれるその『マーレ』に向けて、僕らはこの二日間、お店も休みにして商品作りに徹してきた。

 と言うよりは、経営難に瀕している【バニラ】には売り物がなくて、お店を開けなかっただけなんだけど。クーデルさんがあの森に来ていたのも、薬や木製品の材料を調達するためだったらしい。

 とにもかくにも、まずは『マーレ』で一儲けしなくては!




『できない理由よりも、できることを考えろ』


 これは、父さんの教えの一つ。

 ゲームの世界みたいな剣と魔法と獣耳としっぽとモンスターが存在するファンタジー異世界に来ても、僕は僕のまま、特別なスキルも補正も一切なかった。

 期待して呪文とか唱えちゃった時は、本当に恥ずかしかったなぁ……。

 何の取り柄もない僕は、RPGにおける残念職業、『商人』になった。

 理由は、元の世界に帰るため。

 僕には、あちらの世界でしか叶えられない望みがある。

 そのために、今の僕にできることを、精一杯頑張ると決めたから。


お読み下さった方、誠にありがとうございます。

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