特殊外務派遣課
持っていたネタを形にしてみました。説明が多いので、面倒な文章になっています。本来はコメディのはずですが、作者の力量不足で中途半端になっております。
外務省と防衛庁。
この二つの省庁が、共同に管轄している部署が有る。
【特殊外務派遣課】
学歴も職歴も不問。試験内容にあるのは適性検査のみ。
しかし、その合格率の低さは公官庁全てにおいてワーストワンを誇る。統計上数百人に一人、もしくは二人。
職務内容も、守秘義務の名の下、一切非公開で国のトップレベルの機密になっている。
扱いは『特別職国家公務員』いわゆる、自衛官や裁判官と同じである。
「てか、機密っていうよりさ」
筋骨隆々。その表現が相応しい男が、更衣室で着替えながら苦笑した。背広からTシャツにジーパン。私服で出勤するには、場所柄まずいと、通勤服として揃えた一式は、回りから見ると、その筋の方に見える。
「言ったって誰も信じやしねぇって。厨二病とか、オタクとか…下手すりゃ、ドラックのやりすぎで頭がイカレた奴だって思われちまう」
「世の中そんなものだ。実際、自分で体験しても未だに夢を見ているんじゃないかと思うからな」
どこかの研究所で白衣を着ている姿が似合いそうな青年が、男の言葉に応じる。彼はスーツのままだが、上着とネクタイを外し、つけていた眼鏡もロッカーに仕舞った。
「『勇者一行の派遣』…どこかの平和主義者たちが聞こうものなら、デモを起こしそうだよな」
「戦争に行っているわけじゃないから、そんなことは起こらないだろうが、場所が場所だけに、デモも起こせなないだろう」
更衣室を出た二人が向かった先は、【転移室 12】のプレートが付けられている。窓の向こうには、沢山の機会に囲まれた部屋だった。二人に気が付いて、壮年の男が軽く手を上げる。
『少し待ってくれ。急に増員が決まってな…ああ、来たか』
スピーカー越しの声に振り返ると、女性二人が青年を一人連れてやってきた。
「お待たせして申し訳…梶さんに、泉田さん?」
「お二人と同じチームなんですね、心強いです」
「杉下さんに藤枝じゃないか」
男たちは、所在無さげに立っている青年に視線を移し首を傾げる。
「あ、彼は…」
『説明は向こうでやってくれ。転移するぞ』
聞こえてきた声に、彼らは居住まいをただし…その場から消えた。
「梶さんに、泉田さん、やこちゃんと、藤枝女史…凄いメンバーすね」
操作を終えた技師に、壮年の男は苦笑する。
「新人のお守りだ…安全に帰すにはあれくらい要るだろう」
ランドーヴ。
ようやく言葉が通じたこの世界は、地球の発音で呼ぶのなら、それが一番近かった。
その世界が認識されそろそろ20年近い年月が経とうとしているのに、正式に発表されていない理由は、大きく三つ。
一つは、文明の発達の方向性の違い。
御伽噺が、現実だと各国の要人が頭を抱えたのは、ランドーヴが剣と魔法の国だったからだ。
科学技術が発達した地球とは異なり、ランドーヴは魔法が発達した国であり、全ての人々が多かれ少なかれ【魔力】と呼ばれる力を持ち、それに頼って生きていた。だが、それはあくまでランドーヴ側の話だ。
地球に来た彼らが愕然としたのは、ランドーヴの人々は地球では一切【魔力】が使えないということ。それは、地球側にも言えることで、ある一部の狭い範囲を除いて、地球のいわゆる【文明の利器】がランドーヴでは使えない…それこそ、マッチ一本ですらつけることが出来ないのだ。
一部の宗教家が「神の定めたもうた摂理」と呼んだ現象である。
二つ目は、ある意味での一方通行状態だった。
短時間――1日程度であれば、ランドーヴの人々は地球にこれる。しかし、それ以上の滞在は命に関わる事が判明したのだ。双方の学識者が教義を重ねて出した結論が、ランドーヴ人(と、便宜上呼ぶ)が生きる為に必要なエネルギー…魔力の元とも言える存在が地球に無いから、というものである。
逆を言えば、地球の人間も全てがランドーヴにいける訳ではない。次元を超える資質を持つものだけが、異世界へと旅立てるのだ。
そして、三つ目。
この、一部のみが持つ資質は、ランドーヴでより大きな力となるのだ。
流石に【チート】言われるほどではないし、個人差で方向性は異なるが、少なくともランドーヴの人々にとって脅威とも救いともなるその存在。
細かいことを言い出せばきりがないが、主にこの三つがお互いの交流を阻む大きな要因であり、公にできない事情でもあったのだ。
そして、世界規模…異世界も同規模で…秘密裏に話し合われ、調査した結果…資源と人との交易がひっそりと始まったのだ。
「え、…っとランドーヴには、地球で枯渇してしまったり、レアアースと呼ばれる資源が大量にあるが、人材が不足しているので、それを地球が補う、ということで良いんですよね」
女性二人が連れてきた青年の言葉に他のメンバーは苦笑して顔を見合わせた。
「まぁ、新人研修としては間違っていねぇよな、一応俺もそう教わったし」
「梶さん」
「嘘は言っていないさ。事実もいっちゃぁいないけどな。後の説明は研修担当者に丸投げなだけで」
転移されは部屋は、周囲が石造りの何も無い場所だった。中世の牢屋みたいだといつも彼らは思う。…事実、元々そういう用途の部屋ではあったが、調査の結果転移ポイントの一つとされたので、急遽檻の部分だけ外されたのだ。
「…まぁ、いい。とりあえず俺は梶だ。梶 大輔。1課に所属している」
「私は泉田といいます。5課です」
「藤枝と申します。3課です」
「杉下 八重です。同じく3課です」
自己紹介する彼らに、青年は身体を伸ばした。
「飯塚 芳信です。2課に配属されました!」
「2課…近藤さんのところか…と、いうことは君の武器は弓系?」
「あ、はい。小学校の頃からアーチェリーをやっていました」
「国体クラスだそうですよ、彼。諸事情でオリンピックは出場できなかったらしいですが」
ほう、と感嘆の視線に飯塚は首を振る。
「全然たいしたこと無いです。井の中の蛙が大海を知ったら溺れちゃって」
事情があるのだろう、とそれ以上は彼らも突っ込みはしない。
「お疲れ様です」
掛けられた声にそちらを向くと、20代半ばの青年が頭を下げる。
「河野さん、お久しぶりです」
杉下がぴょこん、とお辞儀をすると、他のメンバーもそれぞれ軽く挨拶した。
「お久しぶりです…彼が新人ですか?」
「あ、はい!飯塚 芳信です。よろしくお願いします」
「河野です。エイリア地区駐在員です。…早速ですが、お支度をお願いできますか?」
「そんなに急ぎなんですか?」
杉下の言葉に、河野は軽く首を振る。
「そこまで切羽詰ってはいないんですよ。研修もかねていますから。ただ、時期が、ね」
「…ああ、こちらは収穫時でしたね」
では、急がなきゃいけませんね、と藤枝が呟くと他のメンバーも頷く。
「すみません。本来ならこちらで片付けるべきレベルなんですが、殆ど収穫に手が取られてしまって…ああ、新人の方への説明は…」
「こっちでやりますよ、勝手知ったるですから、後はお任せください」
そう言った泉田に軽く頭を下げると、河野は部屋を出て行った。
「それじゃいくか。玄関に待ち合わせは30分…30ユル後でいいか?」
1分イコール1ユル。時間軸は一緒なのは幸か不幸か、と言った者がいる。
「問題ありません、よね?ヤコちゃん」
「大丈夫です!」
元気に答える杉下に男たちは苦笑し、地下から上へと足を向けた。
「あの、梶さん」
つれてこられた部屋は大きな衣裳部屋とも呼べる場所だった。恐る恐る、といった風情で飯塚が口を開く。
「一体…ここは?」
どこのコスプレイヤーだよ。と、突っ込みたくなる衣装の数々。研修で学んだランドーヴの服装は中世ヨーロッパのソレに近い。しかし、掛けられている服は、一般的な市民が着るような服ではなかった…これは、まるで。
「学科研修で説明しなかった部分だよ。実地研修に丸投げされる…我々の仕事は、派遣業務だ。勿論、派遣される側、のね」
梶に代わって答えたのは泉田だ。
「そして、業務内容は…『魔物退治』だ。地球人の力を資質方面に増幅、もしくは、『魔法』という付加価値が付く、この土地ならではの仕事…ゲーム風にいえば『勇者様ご一行』だな」
壁に掛かった大振りの剣を易々と振り、感蝕を確かめる梶に、突っ立ったまま呆然とする飯塚だった。
部署説明。
1課。武闘系。魔法は一切使えません。持っている得物、自身の身体が武器。
2課。弓、投擲。「飛び物、投げ物」を武器とします。ここも、魔法が使えません。
3課。魔法オンリー。武器系が使用できません。
4課。技術職。転送室に居た人や、装備を製作するのがここ。
5課。特殊職。魔剣士など、武器と魔法両方使える人たちがここです。
6課。事務職。異世界の駐在員もここです。苦労が多いです。