八話
月のウサギと機械時掛けの神36
再び
「ゲーム、起動します」
「起動まで、三、二、一」
僕の意識は暗転した。
「……っは!?」
時刻は、ジュースを買った直後だった。
「ここは、舞浜学園」
戻ってきた。
携帯が鳴り出す。
『集、様子はどうだ?』
「父さん?!」
『ああ、システムのバグを使って話している。一回しか言わないからよく聞け。明日、魔王ディアボロスが復活する。それを日比谷棺と一緒に倒すんだ。月のウサギの力がなければ倒せない』
「分かった」
『じゃあ、またいつかの空の下で』
「よお、集。話は終わったか?」
「刻、だよね」
「ああ、日比谷刻だ。どうだった、現実は?」
「うん。楽しかったよ」
「はは、そりゃいいや。俺はハワイには行かねえ。日比谷旅館でまた会おうぜ」
「うん」
修学旅行当日。
「集は金閣寺見ないの?」
「周たちだけで見てきて。僕はバスで休憩してるから」
「分かった」
「周も、能力なんてなければ普通の女の子なんだ」
「きっと救ってみせる」
日比谷旅館。
「いや〜、楽しかったね」
「全くですわ」
「ようこそ。日比谷旅館へ」
棺ちゃんが出迎えてくれた。
「日比谷棺。私は風紀委員として……」
「周、少し黙ってて」
「集?」
「月のウサギって呼んだ方がいいのかな?」
「日比谷棺でいいよ」
「今夜、ディアボロスが復活する……」
「ああ、そうだな」
「月のウサギと協力しないと倒せない。父さんはそう言っていた」
「ふーん」
「頼む。協力してくれ」
「いやだと言ったら?」
「棺ちゃん!」
「だって、」
棺ちゃんは涙を流していた。
「だって、みんな居なくなっちゃうなんて嫌だよ」
「……」
「棺、これはゲームであって遊びではない。そして、ゲームはクリアされるためにある」
月のウサギと機械時掛けの神37
ディアボロス
突然の地震が僕たちを襲った。
「まさか、復活したのか!? ディアボロスが!」
大地が割れる。
「棺ちゃん!?」
「集!」
棺ちゃんの手をとり、駆け出す。
「時間はもうない! モラトリアムは終わったんだよ!」
「嫌だ! まだ終わりたくない! だって、だって……みんな大好きなんだもん!」
「ゲームでの死は現実世界での死だ」
「えっ!?」
「だから、大好きなみんながこのままじゃ死んじゃうんだよ!」
うつむく棺ちゃん。
「棺ちゃん! 大好きなみんなをこのまま死なせていいの!?」
「……ゲームがクリアされても、友達でいてくれる?」
「ああ、僕らはずっと友達だ!」
「じゃあ、いいよ。私を、使って」
「分かった。君を、使う!」
光の柱が現れる。
その中心には逢魔集がいた。
それに呼応するように巨大な龍が現れる。
「魔王ディアボロス……」
「グァアアア!」
「行くよ。棺ちゃん」
「うん」
棺を抱えながら集は飛ぶ。
ディアボロスの火炎を魔法陣で防ぎ、ディアボロスの首を斬る!
「くっ、やはり硬い!」
「あら、面白いイベントね」
ディアボロスが吹き飛ばされる。
「周……」
「私も負けていられませんわね」
暁はナイフを投げる。
ナイフは空中で増殖し、ディアボロスに突き刺さる。
「私の能力は増殖。さあ、行きますわよ!」
「暁……」
「集、行くよ」
「ああ、棺!」
ディアボロスは確実に弱っていた。
地上に降りれば、天川周の理不尽な暴力で吹き飛ばされ、空中なら神崎暁のナイフに攻撃される。
そして、
「ぁあああ!!」
空中へ跳躍した集と棺が堕ちてくる。
その大剣の切っ先をディアボロスに向け、墜ちてくる。
「グォォォオ!」
「これでトドメだァァァ!」
ガキッ!
大剣はディアボロスの硬い皮膚に阻まれる。
「まだだぁあああ! 周!」
周の理不尽な暴力でディアボロスの硬い皮膚を剥ぎ取る。
「暁!」
「分かってますわ!」
暁がナイフを投げ、ディアボロスの目を潰した。
「いっけぇえええ!」
大剣がディアボロスの首を、落とした。
「はぁはぁ、やったのか?」
「うん、そうみたい」
「全く……」
「楽しかったですわ」
『ゲームはクリアされました。繰り返します。ゲームはクリアされました』
月のウサギと機械時掛けの神38
ひとときの安らぎ
2013年12月21日。
月のウサギと機械時掛けの神はクリアされた。
そして、
「まさかあれがゲームだったなんてね」
「周さんの言うとおりですわ。未だに信じられませんわ」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
僕は周、暁と一緒にカフェにいた。
「ところで、本当に集は男ですの?」
「うん」
「まあ、確かに声は高いし女顔だし、もやしっ子だし、間違われても仕方ないよねー」
「おまけにポニーテール。噂の男の娘ってやつですか?」
「二人とも酷いな」
「おう、集。元気か」
カフェに入ってきたのは父さん、当麻さん、刻だった。
「コーヒーをひとつ。なんだ、集。女子会か?」
「おじさん僕はアイスコーヒーで。逢魔博士、集くんはこう見えても男ですよ」
「俺はオレンジジュースを。しっかし集。本当に女の子みたいだぞ」
「……僕に男らしさは
ないのか……」
「はははっ! 集は母さん似だからな」
そう言えば、現実の母さんは僕を産んだあとに死んだんだっけ?
「集、お前に渡しておくものがある」
父さんが渡してきたのは見覚えのあるリストバンドだった。
「犬塚一果って子から預かってきた。リアライズシステムとやらはもうないそうだが、色々機能を詰め込んだらしい」
「懐かしい……」
「まだゲームがクリアされてから二日ですのよ」
「そうだね」
「そういえば忘れてた!」
突然父さんが大声をだす。
「明日、クリスマスイブじゃないか」
「ええ、まあ」
「ですわね」
「父さん、大声を出すなんてまわりに迷惑だよ」
「でも、クリスマスイブにはパーティーしないとな」
「僕も賛成です。ケーキの予約、とってきますね」
携帯でケーキの予約をする当麻さん。
「なにボーッとしてるんだよ。俺たちも買い出しに行くぞ」
「う、うん」
僕は刻に連れられ、商店街までやってきた。
「野菜は……こんなもんでいいか」
「刻って自炊出来たんだ」
「驚くことか、そこ」
「肉はこのオーストラリア産かな、アメリカ産がいいかな?」
「オーストラリア産だ」
「了解」
「にしても、集は変わらないな」
「ん、何か言った?」
「いや、何でもない」
月のウサギと機械時掛けの神39
クリスマスイブ
クリスマスイブ当日。
バベル。
「じゃあ、月のウサギと機械時掛けの神のゲームクリアを祝して」
「「「かんぱーい」」」
バベルの職員、ゲームから解放された子どもたちでコップをぶつけ合う。
大人はビール。子どもはジュースだ。
「ジュースおかわり」
「僕はファンタを」
その日ははしゃいだ。
「集、パパ大好きって言って〜」
「ええい。しつこい」
変態の父親を引き剥がしたり。
「僕は妻とは離婚状態なんだ。どうかな、結婚とか?」
「親父、俺の前で同級生を口説くな」
刻は父親と喧嘩したり、
「もう食べれませんわ」
「ジュースおかわり!」
賑やかにワイワイと楽しんでいた。
「……」
無言で部屋を抜け出す。
そして、ヘッドギアを着ける。
「おいおい、親友を置いて一人で行く気かよ」
「同感ですわ」
「全くね」
「周、暁、刻……」
「私たちも行くわ」
「じゃあ、準備した?」
「OKよ」
僕たちはベッドに寝て、頭にはベッドギアを着けた。
「じゃあ、電源を入れますわよ」
「三」
「二」
「一」
スイッチを付ける。
同時に、意識が暗転した。
「ここは、どこだ?」
「ゲームの中、だよな?」
「霧が濃くて何も見えませんわ」
「あ、風が」
風が霧を吹き飛ばす。
そして見えたのは懐かしい舞浜学園だった。
ただし、荒れ果てた。
「どうなってるんだ? まるで何十年も経ったみたいじゃねぇか?」
「周、確かこのゲームってオンラインゲームだったよね」
「ええ、まさか?!」
「僕らが居ない間にきっと時間が進んだんだ。何十年も」
「嘘だろ……」
「どうする集? 諦めて帰る?」
周がログアウトボタンを表示してくる。
「僕は、探すよ。棺ちゃんを」
「それならまずは情報を集めないとな」
「確か舞浜学園には舞浜に来て一度覚醒した能力者を自動的に監視するシステムがあったはずです」
「じゃあ行こう」
月のウサギと機械時掛けの神40
月のウサギ
選挙管理委員本部。
「本当にここなの?」
「ええ、選挙管理委員は同時に生徒の監視も行なっていますの」
刻がシステムを起動させる。
「システム、起動したぞ」
「棺ちゃんの居場所は?」
「えーっと、ここだ」
刻が指差したのは舞浜学園だった。
「ここに居るってこと?」
「そうなりますわね」
「待ってろ。今詳しい場所を特定する」
「場所は?」
「旧校舎だ」
舞浜学園旧校舎。
「ただでさえ旧校舎でボロいのに……」
「これではまるでお化け屋敷ですわ」
不気味な雰囲気の旧校舎に入る。
「棺ちゃん……いるー」
「日比谷棺。出て来なさい!」
ピ。
「えっ!?」
足元を見ると壁から伸びた赤い光の線に足が触れていた。
「まさかこれって?!」
「集!」
刻が背中をドンっと押す。
次の瞬間、刻たちの下の床が開き、刻たちを飲み込んだ。
「そんな……トラップだなんて」
旧校舎二階。
「はぁはぁ、なんとか二階に着いた」
二階に着くまで様々なトラップがあった。
が、
「二階にはトラップはないみたいだな」
「やあ、逢魔集」
そこにいたのは上条式だった。
「式、なんで?」
「ここに居るのかって? 君と話すためさ」
「なぜ?」
「疑問点があるんだろう? だから棺にそれを聞きにきた」
「ああ、そうだ」
「僕が代わりに答えるよ」
「じゃあ、まず最初。全てのダメージが精神にフィードバックされる結界の中で僕が風紀委員を傷つけたこと」
「二つ目、風紀委員を壊滅させたにも関わらず僕に何の処分も下さなかったこと」
「三つ目、風紀委員選抜選挙で結界の内部で周を傷つけたこと」
「四つ目、テロリストの暁が何の処分も受けなかったこと」
「五つ目、男子寮で結界内での放火」
「答えは簡単だぜ。棺の中から引き出した大剣は異能無効化能力を有していた。結界も異能の力だから無効化させられたんだぜ」
「じゃあ、僕と暁がなんの処分も受けなかったのは?」
「生徒会長犬塚一果は2012年12月21日以後に来たプレイヤーだ。だからヘヴンズゲート計画のことも全て知ったうえで君たちを無罪にしたのさ」
「男子寮の放火は?」
「あれは僕がやったんだぜ」
「式が? なぜ?」
「ヘヴンズゲートを開くためには棺と君が接触する必要があったからさ。結局女子寮に来たはいいが接触はしなかったみたいだがね」
「じゃあ、もうひとつ、疑問がある」
「なんだい?」
「棺ちゃんはどこだ?」