四話
月のウサギと機械時掛けの神16
神崎暁
三人部屋で寝泊まりした僕と周は学校に向かった。
次の日。
「転校生を紹介します」
わー、パチパチ。
安藤先生がドアを開ける。
「入っていいぞー」
「始めまして、お友達たち」
「神崎暁だ。よろしくしてやってくれ」
「神崎さん……?」
「また会いましたわね。集」
「ん、なんだ? 知り合いか?」
「ええ、寝食を共にした仲ですわ」
クラス一同が驚く。
「「ええ!?」」
「ああ、逢魔は女子寮に泊まっているんだったな」
「「逢魔ぁ!!」」
男子の悲鳴にも似た大声が、教室を支配する。
「ひっ?!」
男子たち、特に刻が僕を追いかける。
「この!」
僕は逃げながら、リストバンドを右手につける。
「ウェポン!」
魔剣を召喚し、横薙ぎに振る。
「「うぁわわ!」」
「三人ロスト」
「チームAは右から、チームCは左から、俺たちチームBは正面から突入だ」
「君らこういう時だけ団結力が凄いな!」
「男子の敵め! 死ね!」
「くっ!」
右側から来た男子たちをジャンプして避け、左手に持ち替えた魔剣で左の男子たちを倒す。
「正面がガラ空き」
「じゃないよ」
正面から来た刻の蹴りをかわし、振り返りざまのパンチを腕で受け止める。
「……数が全然減らない」
「突撃じゃー!」
「君ら……」
「逃げながらじゃ勝てないぜ!」
「どうすれば!?」
「集…….」
神崎さんが目の前に現れた。
「私を、使いなさい」
「分かりました」
目線を神崎さんに合わせる。
そして右手を神崎さんの胸に当てる。
引き出したのは……
「霧!?」
「ミスト……使いなさい。能力、ジェノサイドを」
霧が細いワイヤーに変わる。
「切り刻む!」
指先で動かしてワイヤーで男子たちを斬る。
「流石ですわ」
「ジェノサイドって?」
「ただの戯言ですわ」
月のウサギと機械時掛けの神17
デウスエクスマキナ
「……とうとう逢魔集が神崎暁を使いました」
「これで次のヘヴンズゲートを開けることが出来る」
「ああ、だが、いいのか?」
「後戻りは出来ないぞ」
「ああ。逢魔集はついにたどり着く。……ヘヴンズゲートへ」
「ではいつか、どこかの空で」
女子寮。
「今日は疲れましたわね、集」
「主に神崎さんのせいなんですが……」
「さん付けじゃなくて暁と呼んで下さい。あとタメ口で結構です」
「じゃあ暁、じゃあ聞くけど。僕が学校でひどい目にあったのを知っているよね」
「ええ、分かっていますわ」
「じゃあ二度とあんなことしないで下さいね」
生徒会室。
「では神崎暁の件は保留ということで」
「はい。分かりました。犬塚生徒会長」
「まさかテロリストが彼女だなんてな」
「ええ、あの少女が……」
舞浜へのフェリーの中、少女はつぶやく。
「……いろいろとおかしい点がある」
「まず最初。全てのダメージが精神にフィードバックされる結界の中で風紀委員を傷つけたこと」
「二つ目、風紀委員を壊滅させたにも関わらず逢魔集に何の処分も下さなかったこと」
「三つ目、風紀委員選抜選挙で結界の内部で天川周を傷つけたこと」
「四つ目、テロリストの神崎暁が何の処分も受けなかったこと」
「五つ目、男子寮で結界内での放火」
「異常な学園だ」
「今日からここが、私の住処……」
とある場所。
「とうとう我々『K』が表舞台に上がる時がきた」
「「おぉぉお!」」
「我々は虐げられてきた。しかし、それも今日までだ」
「……」
「我々は舞浜を占拠する。そして、能力者を鳥かごから抜け出させるのだ」
「……」
「諸君、心配は要らない。なぜなら我々には能力『セカンドサイト』があるからだ」
「……」
「さあ、行こうか。舞浜へ」
月のウサギと機械時掛けの神18
四月二十五日
それは、快晴の日だった。
僕たちの長い一日が始まったのは。
「四月二十五日。今日も平和だな」
「そうですわね」
「暁、集、あんたたち平和ボケし過ぎ」
「あら、この風紀委員。戦争ボケしてますわね」
「この、テロリストッ!」
「今日も平和だなー!」
強引に二人の間に入る。
「「集!?」」
学校。
「やあ、集」
「おはよう刻」
「おはようございます刻さん」
「刻、おはよう」
「おはよう、天川さん、神崎さん」
日常は、あっけなく崩れ去る。
『警報。警報。舞浜に侵入者です。警備部、風紀委員、自警団の皆さんは至急、生徒会室へ集まって下さい』
生徒による自警組織、それが警備部だ。
依頼を受けて行動する、いわゆる何でも屋だ。
対して自警団は大人たちによる自警組織だ。
「なんだ!」
「侵入者とは一体!?」
「それをこれから説明します」
犬塚会長がしゃべり始めた。
「侵入者は16名。舞浜へのバスをジャックしこちらに向かって移動中です」
「敵の武装は?」
「確認できただけでもAK、RPG、グレネードを装備している。各自の練度はプロ級とみていい」
「では私たち自警団が囮になります。そのうちに警備部がバスの人質を救出して下さい」
「風紀委員はバックアップをよろしくお願いします」
「分かりました。いいよね、周?」
「OK」
「犬塚会長、私を風紀委員に入れて下さい」
「神崎さん? それは風紀委員長の逢魔くんに聞いて下さい」
「集?」
「もちろん、いいですよ。人手が足りないのは事実ですし」
「じゃあ、よろしくお願いしますわね、集」
「では、各自、行動を開始して下さい」
「了解」
「私も風紀委員に参加させてもらいましょうか」
突然、幼い少女の声がする。
「誰です」
「今日付けで舞浜学園に復学することになりました。月島友です」
「月島さん。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。逢魔集」
「では、行きましょうか。戦場へ」
「「ああ」」
月のウサギと機械時掛けの神19
四月二十五日2
「各自、武装のチェックをしかた」
警備部の穂積さんの掛け声に警備部のみんなが応答する。
「風紀委員も武装チェックしたか」
「はい」
魔剣を出現させ、風紀委員の制服に着替える。
風紀委員の制服は警備部、自警団と同じ特別製で防弾、防刃対応型だ。
「行くぞ」
「うん」
「OK」
「……了解」
月島と周、暁の声を聞く。
「じゃ、行きますか」
バス内。
「陽動作戦実施中……」
「セカンドサイトは目標に接近中……」
「時間稼ぎはそこまでだ」
「ッ!?」
風紀委員ヘリ内部。
「風紀委員、聞こえるか?」
「聞こえる」
「バスは囮だ。本隊はフェリーで移動中だ」
「了解」
「ヘリをフェリーへ……」
フェリー。
「さあ、発動しようか。K秘策のセカンドサイトを」
ヘリがフェリーへ近付く。
「マズイ、あのフェリーは結界の外で何かをしようとしている」
『セカンドサイトだ……』
「ん?」
『能力者を自滅させる能力だ』
「誰だ?」
『行け、逢魔。ヘヴンズゲートへ』
「集?」
集が無言で立ち上がる。
私、天川周は無言のままの集に問いかける。
「どうしたの?」
「……行かなくちゃ。……ジェノサイド」
集の周りにドス黒いオーラが漂う。
「あなた……だれ?」
「……俺か?」
「俺の名は、逢魔……零」
集がヘリからフェリーへ飛び降りる。
「集、ここが上空なんメートルか知って……」
集の影が実体を持ち、集を包む。
そしてフェリーとの衝撃を吸収する。
「確か集の能力は人の遺伝子を武器にコンバートする能力のはず、なんで……?」
集の右手に魔剣レーヴァテインが出現する。
そして、
「フェリーごと!?」
フェリーごと魔剣で叩き斬ったのだ。
真っ二つになったフェリーの中央に集は影を足場にして水面に立っていた。
「……」
何かを言う。
けれど、遠すぎて聞き取れない。
「……」
「ヘリをもっと近づけて!」
ヘリがフェリーの残骸へ近付く。
「集!」
集は一人の男性を刺し貫いていた。
「……」
「えっ!?」
集の影が実体を失い、集は水中に勢いよく倒れた。
月のウサギと機械時掛けの神20
四月二十五日3
「今回の被害はフェリーだけか。まあ、まずまずといったところだね」
犬塚会長が言うのを僕はボーッと聞いていた。
「天川さんから聞いたよ。大活躍だったじゃないか」
「はあ……何も覚えてないんですけど……」
「しかし、セカンドサイトか。あと少し遅かったら大変なことになっていたね」
「大変なこと?」
「能力名セカンドサイト。能力者の能力を暴走させ、自滅させる。ある程度強い能力、例えば天川さんの理不尽な暴力なんかは暴走すると手がつけられないよね」
「はぁ……」
「うん。今回はよくやった。後でまた生徒会室へ来てくれるかな。また君らを鍛えてあげるよ」
「はい」
午後1時。
戦闘訓練施設。
警備部、自警団、風紀委員の三組織の練度を高めるため、舞浜学園には戦闘訓練施設がある。
「じゃあ、逢魔集対天川周。始め!」
三十分後。
「降参……っていうか周強すぎ」
「あんたが弱いだけでしょうが」
僕は周にボコボコにされていた。
理不尽な暴力で近付くことも出来ず。
結局、周の一方的な、まさしく理不尽な暴力に屈したのだ。
「周。少しは手加減してよ」
「手加減したら訓練にならないじゃない。それよりあんたも影とかフェリー破壊したバカ力を出しなさいよ」
「無理だって! 僕は覚えてないんだよ」
「体が覚えているでしょ。さあ、訓練を続けるわよ」
「はいはい……」
三十分後。
「もう無理。無理だって」
「弱いな〜、集は」
「周が強すぎるだけだって」
『警報。警報。舞浜への侵入者を確認。警備部、自警団、風紀委員は生徒会室へ集合して下さい』
生徒会室。
「また侵入者です。数は三人。いずれも武器は携帯しておらず、恐らく能力者だと思われます。本島の検問を能力を使って突破しています」
「それで、能力は?」
「発火能力者が一名、氷雪系能力者が一名、残り一名の能力は不明です」
「いつ頃舞浜に着きますか?」
「徒歩でバス用道路を移動中です。二十分以内には舞浜に着くでしょう」
「今回は能力者の保護と指導を優先します。警備部と風紀委員が結界内で彼らを攻撃、自警団はそのサポートをして下さい」
「了解」
「把握」
「OK」
「では、各自、行動開始!」
「ねぇ?」
「なに、周」
「集はもう前線へ出ない方がいいと思う」
「何で?」
「今日の集、なんかおかしかったから」
「大丈夫。僕は僕だから」