21話
月のウサギと機械時掛けの神98
生徒会選挙
「いきなりですが、生徒会長選挙を行ないます」
新クラスになってから一週間。
生徒会長選挙がいきなり始まった。
「候補は三人。天川周、犬塚一果、そして逢魔集です」
「あの……」
放送室に呼ばれた僕は言う。
「なぜ僕が生徒会長候補に?」
選挙管理委員の人が応える。
「皆さんの公正な投票によってです」
「公正な投票?」
「前回、というか、前の世界で生徒会長だった僕と、」
「死神と呼ばれて注目されてる私と、」
「「僕らを何度も救ってくれた逢魔集」」
「ね、公正だよね?」
「というわけで、マニフェストを発表してもらいます」
「まずは僕からだね」
犬塚一果がマイクを手にとる。
「僕が当選したら風紀委員を作ります。これは、超能力者たちの犯罪を未然に防ぎ、また、超能力者たちの可能性を世界に示すことにもつながります。以上です」
「次、天川周さん」
「はい。私が当選したらまずは部費を10%アップさせます。そして、購買部のパンなどの種類を10倍にします。以上です」
「次、逢魔集くん」
「僕は……」
生徒会長になりたいわけじゃない。
でも、僕を認めて応援してくれる人たちがいる。
その思いに、僕は応えたい。
「僕が当選したら、目安箱を設置します。生徒や教師の公私入り混じった悩みを、生徒会が解決します。幸せな学園生活を送れたと、そう感じられる時間を作りたいです。以上です」
二日後。
「選挙の結果。生徒会長は……」
選挙管理委員の委員長が口を開く。
「犬塚一果……」
「はぁ……」
負けた。完敗だ。やっぱりすごいな犬塚会長は。
「ではなく逢魔集。新生徒会長就任おめでとう」
「は?」
パチパチと拍手をされる。
「それと生徒会役員だが、副会長と書記は犬塚一果と天川周に決定している。庶務と会計は自分で決めるように」
はぁ……
後ろを振り向くと、犬塚先輩と周がジャンケンをしていた。
「僕の勝ちだね」
「副会長は犬塚一果だって、集」
「周さんは書記だね」
「で、庶務と会計のあてはあるの?」
「うん」
あてはある。
「白崎くん。生徒会に入る気はないかな?」
「生徒会? そこってお菓子食べても怒られない?」
「たぶん」
「なら入る〜」
「月島さん」
「友でいい。会計を私にさせたいのだろう。いいよ。やってやる」
「ありがとう」
月のウサギと機械時掛けの神99
目覚めた。
目覚めるのか……
「最悪だな……」
僕はそうつぶやいた。
「始まりの日か……」
その日の朝は、いつも通りだった。
朝食は一汁三菜でバランスのいい日本食。
寮の食事はいつも通り美味しい。
「じゃあ、行ってきます!」
ポニーテールを揺らし、学校へと急ぐ。
生徒会長になってから一週間。
目安箱には毎日のように投書があり、放課後はそれの解決でだいたい終わる。
だが、その日は違った。
「投書が一つもない」
というか、人が居ない。
朝から誰にも会っていない。
今まではタイミングが悪いのかと思っていたが、学校にすら誰一人としていないのはおかしい。
「なんか、嫌な予感が……」
足元に魔法陣が浮かび上がる。
そして、僕は意識を失った。
「逢魔零。君を倒す」
「逢魔集。お前を潰す」
「「勝負!」」
魔剣同士をぶつけ合う。
「たとえ、どうしようもない人生だったとしても」
「俺は……」
「僕は……」
「「なんでこんな理不尽な結果なんだよ!」」
「俺は棺を救いたい。だからお前に勝つ」
「僕は棺を助けたい。だから、君を倒す」
「そうか……」
僕の魔剣にもヒビが入った。
「ここにくるまで、いろいろなことがあったよな」
「ああ」
「さようなら、逢魔零」
零の魔剣が砕けた。
「今からお前が逢魔零だ」
「……」
「さようなら。逢魔……」
「……さようなら、零」
暗い場所にいるのが分かった。
「目覚めたのね」
そこにいたのは黒髪の女の子だった。
「おはよう。逢魔集くん」
「なんで、僕の名前を?」
「あなたは13歳の頃に昏睡状態になったのよ」
「昏睡状態?」
「あなたは夢を見ていたのよ。長い夢を」
「夢? あの日々が、夢?」
「楽しい夢だったみたいね」
「違う」
「?」
黒髪の女の子は意味が分からないという顔をする。
「今は西暦何年ですか?」
「2012年だけど」
「もう一つ聞きます。あなたの名前は?」
「彼方。藍空彼方」
「そうですか」
月のウサギと機械時掛けの神100
入院
あれから藍空彼方は毎日のように見舞いに来た。
「元気じゃない。どう、リハビリの方は?」
「まずまずってところかな」
衰えた筋力を取り戻すため、僕は毎日リハビリをしている。
あれから、崩壊線もヴォイド兵器、ヒトゲノム兵器も視えなくなり、また瞳の色も普通になっている。
けれど、あの世界が本当にあったことを僕だけが知っている。
「集くん。言われた通り高校の教科書を持ってきたけど、中学生の君に理解できるの?」
「出来ます」
あの世界で学んだことは確かにある。
例えば、教科書の内容とか。
「すごい。スラスラ解いてる」
やっぱり、あの世界は実在している。
「あの、僕に父さんや母さんは居るんですか?」
藍空彼方は黙る。
「……」
「あの、やっぱり……」
「死んでるわ」
予想した答えではあった。
息子が目覚めたのに、一度も見舞いにこない親は珍しい。
「藍空彼方。あなたは僕の何なんですか?」
「私? 私は君の恋人よ」
あっさり言われたので一瞬わけが分からなかった。
「恋人……」
「そう」
その時、病室のドアが開いた。
「見舞いに来たぞ。兄弟」
「誰ですか?」
見舞いに来たと言った男はがっくりと肩を落とした。
「逢魔黒巣。お前の兄だよ」
「集くんは記憶喪失なのよ。クロスさん」
「そうか、悪いな。勝手に期待して。久しぶりに懐かしい話でもしようかと思ったんだが、出直すか」
クロスは病室のドアに手をかける。
「あの、待ってください!」
「集くん?」
「集。どうした?」
「僕について、教えてください!」
「昔話か、いいぜ。記憶喪失だからな。話してやるよ」
それからクロスさんといろいろな話をした。
そして、
「やっぱり何も思い出せません」
「やっぱりか……」
「クロスさん。彼方さん。面会時間が過ぎています」
看護婦に注意され、二人は病室を出て行く。
翌日。
「髪切ったのね」
「はい」
ポニーテールにしていた髪はばっさりと切り、ショートカットにした。
「あ、そうだ」
彼方はポケットからヘアピンを取り出すと、僕の髪をとめた。
「お母さんにそっくりね」
「それは僕が女顔ってことかな」
「うん!」
「ひどい……」
「大学生は休みがあっていいぞ」
クロスもやって来た。
「集。母さんに瓜二つだな」
「やっぱり……」
月のウサギと機械時掛けの神101
飛び級
七月七日。
七夕の日に僕は退院した。
「「退院おめでとう」」
「ありがとう。彼方。クロス兄さん」
「それで、集はやっぱり高校生になるの?」
「うん。試験も合格したし、入れるって」
「しかし、何年も眠っていたのに学力が高校生並みとは、兄さんも誇らしいよ」
「それでさ、僕はどうして昏睡状態になったの?」
「……」
「……」
一瞬にして場が静かになる。
「そんなことより集。お腹空いてない? 病院の食事は飽きたでしょ」
「そうだな。集。今日は退院祝いで俺がおごってやる。焼き肉に行こう」
「賛成!」
「うん。じゃあ、行こうか」
空元気で言う。
僕の過去に、一体なにがあったのだろう。
某所。
「やっと追いついたぜ」
「遅かったわね」
「黒芝鼎。災厄の魔女」
「上条式。一兆の能力を持つ人外」
「人外とは言い方がひどいぜ。僕はただの人間なんだぜ」
「それで、あなたも逢魔集を追って来たの?」
「ああ、そうだぜ。そして、ちょっと能力を使ってこの世界に干渉しただけなんだぜ」
「性悪女」
「災厄の魔女にだけは言われたくないんだぜ」
「そう。まあ、私は見守ることしかしないけどね」
「干渉しないと、集は一生あの世界だぜ」
「いいんじゃない」
「世界の滅びより、恋人をとるのかい?」
「いいじゃない。あの世界の魔女はあの子を気に入ったみたいだし」
「僕は約束があるから、行くぜ」
「勝手に行けば?」
「それは誰も悪くない」
「お前は強くなった」
「これからはお前が……」
「転校生の逢魔集です。よろしくお願いします」
ぱらぱらと拍手がする。
「逢魔くんはしばらく病院にいました。不慣れなこともあるからフォローするように」
一人の女子生徒が手をあげる。
「はーい! 質問。逢魔くんは男、女?」
ヘアピンも外しているし、髪型だって男の髪型だ。
なのに、
「男です」
「中性的だから間違えそう! 逢魔くんって可愛いよね」
素で言われると、なにか照れる。
月のウサギと機械時掛けの神102
転校初日
転校初日。
「俺は七瀬真人。筋肉を愛する高校生だ」
筋肉がついた男が言った。
それに横の竹刀袋を持った男が反論する。
「ただの筋肉バカだ。オレは一ノ宮卓。剣道部だが、怪我で今は休んでいる」
ポニーテールの女の子が言う。
「はいはい。ワタシは真木三井デスよ」
「わたしは上条式だよ」
懐かしい名前につい、聞き返してしまう。
「上条式?」
「うん? そうだよ。わたしの名前は上条式だよ?」
「あ、いやごめん。知り合いに同じ名前の人がいて」
「そうなんだ〜、へぇ〜」
上条式のような危険さ、鋭さは全くない。
陽だまりのような女子生徒だ。
「俺たちは昔からの幼馴染みなんだよ」
「あと二人、幼馴染みがいるがな」
卓がクラスの端を見た。
つられて視線を動かす。
そこにはポニーテールを鈴のついたリボンで結んでいる女の子がいた。
卓が説明する。
「日番谷鈴だ。人見知りが激しいんだ」
「そして、」
窓から声がする。
「へ!?」
窓からなにかが飛び込んできた。
「なに?!」
窓から飛び込んだ何かが、立ち上がる。
「日番谷恭弥。俺たち、『イカロス』のリーダーだ」
「イカロス?」
「俺たちのチーム名みたいなものだ」
「確か前は……」
卓のセリフにねじ込むように恭弥が言う。
「過去の話はなしだ!」
「仲がいいんだね」
恭弥が言う。
「そこでだ。逢魔集の入団テストをしたいんだが。異論はないな?」
「ないデスね」
「入団テストなんて初耳なのです」
「いいんじゃないか」
「筋肉が好きなら合格だ」
「じゃあ、各メンバーから一問ずつ出題する。全問正解ならイカロスのメンバーに加えよう」
「なら、一問目。いきマス」
三井が手をあげる。
「集くん女装したことある?」
「……」
いきなり答えづらい質問がきた。
「たぶん。ない、と、思う」
「ふーん。まあ合格デスね」
「じゃあ次は俺だな。筋肉好きか?」
「嫌いじゃないよ」
「合格だ!」
「オレの番だな。逢魔集。このメンバーを見てどう思う」
「仲がいい? かな?」
「合格だ」
月のウサギと機械時掛けの神103
入団テスト
「わたしからの質問です。お菓子好き?」
「好きだよ。ポテチとかが好きかな」
「うん。合格だよ」
視線が恭弥に集まる。
「俺の番だな。このチーム名はかっこいいか?」
「うん。かっこいいと思う」
「合格!」
式が言う。
「あとは鈴ちゃんだけだね」
クラスの端に行く。
「初めまして。日番谷さん」
「ネコ……」
「猫?」
「ネコ、好きか?」
「うん。嫌いじゃないよ」
「なら、お前。合格だ」
「あ、今の入団テストだったんだ」
恭弥が言う。
「無事全員の質問に合格したし、逢魔集。君を正式に団員として認めよう!」
「はぁ……?」
テンションが高くてついていけない。
「よし、俺が筋肉について語ろう」
「そんなことよりわたしとお菓子食べよう」
「それよりさ……」
放課後。
「疲れた。今日から寮生活か……」
荷物は部屋に運ばれているはずだ。
「荷物を解くのは明日にしよう」今日は疲れた。
一刻も早く休みたい。
なのに、
「やあ、俺と相部屋とは運がいいな」
「恭弥さん。なぜあなたが?」
「恭弥でいい。俺は三年生だが敬語はいい。背筋がかゆくなる」
「あの、なぜ上級生と相部屋?」
「部屋がなかったんだろう」
「そうですか……」
「それより、荷物は解かないのか?」
「今日は疲れてて」
「なら、俺が代わりに開けてやるよ」
「そんな、いいですよ」
「敬語はいい。ちょうど課題で煮詰まっていたところだ。気分転換にちょうどいい」
「そう、ですか」
「ああ、そういえば、ここ三人部屋だから」
確かにベッドが三段ある。
珍しい。
「で、もうひとりのルームメイトは?」
「来たぞ」
月のウサギと機械時掛けの神104
来たぞ
「来たぞ」
恭弥が言う。
「こんばんは〜、です」
小学生、もしくは中学生にしか見えない女の子がやってきた。
「能見僕だ。集と同じクラスなんだが、明日から転校してくることになる」
「なぜ男子寮に?」
「こいつは見た目がこれだからな。いろいろと面倒なんだよ」
「ちなみに二人はどういった関係なの?」
能見は言った。
「今日、電車で来たんですけど、高校生だって言っても信じてもらえなくて。小学生用の切符しか買えなくて」
「俺が代わりに二人分買ったってわけだ」
「今日知り合ったんだ」
「下手に女子寮に入れるよりもこっちの方が面倒が見やすいからな」
「なるほど」
「納得しないでくださいです!」
「集の荷物を開けるついでだ。能見のも開けよう」
「そうですね」
「自分であけられますです」
荷物を解くのは苦労した。
そして、やっと荷物を解き終えたときには午前零時を過ぎていた。
「終わったな」




