15話
月のウサギと機械時掛けの神71
ヘヴンズゲート計画
「話してもいい。だが、二人きりで、だ」
「分かりました」
木戸さんと父が居住エリアから出て行く。
「なんの話するんだろ」
「さあ」
夜。
「眠れないな」
一人起きてしまった僕はバベルの外に出た。
「いらっしゃいませー!」
コンビニに入り、適当に夜食を買う。
「ありがとうございました!」
歩きながら考える。
ヴォイドのこと。
棺のこと。
逢魔零のこと。
「夜道は危ないデスよ」
ポケットの中の携帯からリアが警告する。
「大丈夫だよ。ちょっとコンビニに行って帰るだけだから」
「大丈夫じゃないんだよね」
路地裏から片方だけ青い目をした集団が現れた。
「君たち、『青目』か?」
逃げる準備をしつつ、僕は聞いた。
「『青目』ではありません。王よ」
青い目の集団の中、体格のいい大男が応えた。
「王よ。我々は異端魔術という者です」
「プロト……マギカ?」
「新手の宗教勧誘じゃないんデスか?」
リアの入っている携帯を奴らに向ける。
「怪しいデスね。通報しますか?」
「待ってください王よ。我々民草の話を聞いてはくれませんか?」
「話、だけですよ」
「ここが我々プロトマギカの住処です」
連れて行かれたのはバベルから徒歩で五分くらいの場所にあるビルだった。
「なんかバベルそっくりだな」
「ええ、王よ。ここはエウレカ。バベルの次の拠点となるはずの秘密基地でした」
「けれど、王様がゲームをクリアしたから建設中止になったのを私たちプロトマギカが完成させたってわけ」
「あの、プロトマギカって『青目』とどう違うんですか?」
「それは……」
「それは私から話します」
鈴の鳴るような声がした。
そして、今まで見た中で一番美しい女性がこちらに近付いてきた。
「私の名はアリス。アリス・リーゲンデュフィ」
「アリスさん。ってことはヴォイドを吸収した最初の人……」
「話をする前にお友達には離れてもらいますね」
リアが沈黙した。
おそらく、何らかの力を使ったのだろう。
経験なら圧倒的に向こうが有利だ。
焦るな。
僕は戦いに来たんじゃない。
「それで、話というのは?」
「はい。私はこの世界の人間ではありません」
「あの、話が分からないんですが……」
「私は異世界から来ました。具体的には舞浜の存在した世界から」
「そんな、どうやって?」
「ヴォイドとあなた方が呼んでいる物質を使ってです。私がこの世界に来た時、隕石となって世界中に欠片が飛び散りました。けれど今。バベルに集まっています」
「僕にどうしろと?」
「私の願いを叶えてください」
月のウサギと機械時掛けの神72
願い
「私の願いを叶えてください」
アリスにそう言われた。
「願いってなんですか?」
「私を、元いた世界に返してください」
「どうやって?」
「バベルの、『赤目』の近くまで連れて行ってください」
というやり取りがあり、僕はバベル入り口にいる。
カードをカードリーダーに通し、地下へ向かう。
入り口には父がいた。
「アリス。戻ってきてくれたのか?」
「いいえ。私は私の世界に帰るために来たんです」
「残念だが、君に聞きたいことが出来た。帰すわけにはいかない」
「じゃあ、これでどうだ」
謎の声が聞こえ、爆発が起きた。
そして、誰かに手を引かれる。
「居住エリアはどっちだ?」
謎の男が聞く。
「右だけど」
「そうか」
「あなた、シドなの?」
アリスがそう質問する。
「ああ、俺は道化師。シドだ」
「やっぱり、会いに来てくれたのね」
「違う。約束を果たしに来ただけだ」
そう言っている間に居住エリアに着いた。
「ありがとう。逢魔集」
「短かい時間だったが、世話になったな」
アリスとシドが光の粒子へと変わっていく。
「プロトマギカのみんなのこと。よろしくね」
「えっ?!」
「彼らには私のヴォイドをコンタクトレンズに加工して渡してあるわ。魔術ではなく、科学でもなく。それが異端魔術」
「僕にどうしろと?」
「逢魔集。あなたは王様になりなさい。寄る辺なき彼らの光となりなさい」
「あの、ありがとうございました」
「ふふ、変な人……」
その言葉を最後に、二人は消えた。
父がやって来た。
「行ったのか?」
「はい、父さん。僕……」
「なにも言うな。今はな」
「……はい」
翌日。
「うーん。いい天気」
地下なので天気は分からないが、言ってみた。
「おはよう」
女の子に声をかけられる。
「えっと、正臣さんだよね」
「さん付けはいいよ。同性なんだし、気楽にいこう」
「あの……」
「なに?」
「僕、男の子ですよ」
月のウサギと機械時掛けの神73
バベル
朝。
「信じられる? 集が男の子だって!」
キリカが言う。
「確認したのか? 性別を」
「本人からの自己申告じゃだめですか?」
「まあ。本人が言うならそうじゃないのか?」
「なぜ疑問系……」
「それより、逢魔くん」
「はい?」
「学校はいいのか?」
「あっ、忘れてた!?」
慌てて準備をして学校に向かう。
学校は二限目が始まったところだった。
「はぁ、はぁ、やっと着いた」
「逢魔〜、男だって差別はしないぞ。二限目の体育はグラウンド10週だ」
「そんな……」
昼。
「それは災難でしたね」
天王寺さんにそう言われた。
「集、寮に戻る気はない?」
「うん。でもまた襲撃されたら怖いし、しばらくはバベルから通うよ」
「そう」
放課後。
「さぁ。文化祭の準備をしましょう」
桂さんの指示通り、みんながテキパキと動いている。
「逢魔くん。射的の看板を描いてください」
「僕は絵が下手だよ」
「逢魔くん。自分に決められた役割をするのもクラス委員の務めですよ」
「分かりました……」
「どっちがクラス委員か分からないね」
周がひどいことを言う。
数時間後。
「出来た」
出来た看板を桂さんに見せる。
「結構絵が上手いじゃありませんか」
「集って絵が掛けたんだ」
「ピカソのような絵を期待してましたのに」
サラッと暁にひどいことを言われた気がするが、スルーする。
「じゃあ、次、逢魔くんは男の子なんだからあっちの射的の台を作ってください」
「木工は苦手なんですけど……」
「つべこべ言わずにやってください」
「はーい」
木を切っている生徒のところへむかう。
「手伝うよ」
「ありがとう」
下校時刻。
僕を待っていたのは異端魔術のメンバーだった。
「王よ。お待ちしていました」
「えっ!?」
「荷物はすでにエウレカに運んであります」
「あの、状況がよく分からないんですけど」
月のウサギと機械時掛けの神74
プロトマギカ
「王よ。何かあれば我々に申しつけください」
大男が礼をして出て行く。
「なんなんだ」
「プロトマギカから正式に逢魔集の引き渡しの取引があったのデス。バベルとエウレカの拮抗した交渉のすえ、あなたの身柄はエウレカが保護することに決まったのデス」
「そう」
僕にあてがわれた部屋はバベルの部屋の倍はある。
調度品も豪華で使うのがためらわれるくらいだった。
「落ち着かないな」
「だよねー」
「うわっ!?」
何時の間にか後ろに女の子がいた。
「私たちプロトマギカは異端魔術を扱う者。気配を消すなんて力を使う必要すらないわ」
「そう、君の名前は?」
「岡絵里。よろしくね。王様」
「その王様ってなんなんだ」
「知らないの?」
岡は僕の胸に手を当てる。
「プロトマギカ。『コネクト』」
僕の胸に光る十字架のようなあざが浮かび上がる。
「やっぱり。スティグマを持っているじゃん」
「スティグマ?」
「王様の証。契約の証」
「意味が分からないんだけど」
「今はまだ分からなくていいよ」
岡はそう言って手を引っ込めた。
十字架のあざが消える。
「じゃあね。王様」
岡が部屋を出る。
「一体なんだったんだ……」
翌朝。
「王よ。朝食をご用意しました」
朝食は普通のご飯だった。
焼き魚とみそ汁、ごはん、おかず。
一汁三菜が揃った和風のご飯だった。
「本当はもっとフルコースや満漢全席にしたかったのですが、岡がこの方がいいと言ったもので」
「うん。美味しいよ。ありがとう」
「ありがたき幸せ」
「あのー、もっとフレンドリーに出来ませんか?」
「はぁ、ですがあなたは王。敬意を払うべき……」
「いーじゃん。本人も堅苦しいのはいやみたいだし」
「岡……絵里」
「あの。岡さんみたいに接してくれると嬉しいです」
「分かりました、王よ」
食事が終わり、僕は大男に車を運転してもらって学校に着いた。
「では。帰りも待っていますので」
「ありがとうございます。でも文化祭の買い出しとかあるので結構です」
「そうですか。では気を付けて」
「逢魔くん。今日は車で登校なんですね」
「天王寺さん。おはよう」
「おはようございます」
月のウサギと機械時掛けの神75
王様
「おい、聞いているのか白崎真白」
「聞いてるよ〜、安心院さん」
僕、白崎真白は今、安心院さんという人と一緒に流浪の旅をしている。
僕は彼女について安心院さんという名前以外知らないし、知る必要もないと思っている。
「白崎真白。海が綺麗だぞ」
「ですね〜」
適当にあいづちをうつ。
「安心院さん。あなたは一体何をしたいの?」
「ふふん。私は魔法使いだからな。やることがたくさんあるのだよ」
「じゃあ何かしたらいいんじゃないかな?」
「いや、私の一番大事なことは白崎真白のレベルアップだからな」
「レベルアップ?」
「時間制限なしの『目を逸らす』能力を君が使えるようにしてあげるぞ」
「そう……」
「そろそろかな?」
「何が?」
ヘリがやって来た。
そして……
鏡代学園。
「へぇ〜、紗江さんってマンガとか好きだったんだ〜」
「うん。バトルものが好きかな」
「例えば?」
「最近やっているアニメとかだと……」
文化祭まで残り三日。
そして今日、転校生として紗江がやって来た。
「そういや無人島に連れて行かれた時にも、爆弾のことをすぐに把握してたな……」
マンガ脳ってやつなのか?
しかし、
「転校生多いよね」
周も同意して言う。
「そうだね。それに月島さんも紗江さんも一日でクラスに馴染んじゃったもんね」
某所。
「いやはや、まさか殺されるとは思ってなかったな」
青い目の青年は言う。
「端末の一人が逢魔集にやられちゃってさ。聞いてる?」
「ああ」
同じく青い目をした少女が応える。
「アヒル(The Duck)ドードー鳥 (The Dodo)インコ (The Lory)ワシの子 (The Eaglet)年よりのカニ (The Old Crab) 若いカニ (The Young Crab)年よりのカササギ (The Old Magpie)トカゲのビル (Bill the Lizard)子犬 (The Puppy)芋虫 (The Caterpillar)ハト (The Pigeon)魚の従卒 (The Fish-Footman)カエルの従卒 (The Frog-Footman)公爵夫人 (The Duchess)赤ん坊 (The Baby)料理女 (The Cook)トランプの2番、5番、7番 (Two, Five & Seven)ハートの王様 (The King of Hearts)ハートの女王様 (The Queen of Hearts)ハートのジャック (The Knave of Hearts) グリフォン (The Gryphon)代用海ガメ(The Mock Turtle) を逢魔集の殺害に向かわせた」
「それって、僕ら七卿以外の全戦力だよね」
「『青目』としてカギであるアリスを殺すには充分すぎる戦力だ」
「一ついいかな」
青い目の老人が言う。
「ヤマネ。いたんですか?」
「わしはチェシャー猫みたいに現れたり消えたりできんよ」
「そうだね」
金髪に青い目の少年が応える。
「チェシャー猫。いたのか」
「うん」
「君を殺してくれる相手は見つかったかい?」
「いや〜、見つからないな」
「それでは見物に行くか」
「「鏡代学園へ」」




