11話
月のウサギと機械時掛けの神51
目を隠す能力
「ふぁあ〜、ヤバい、遅刻だ!」
急いで学校の制服に着替えようとしたところでここがカフェだったことを思い出す。
「そういえばアキハさんは?」
「俺ならここだよ」
フッととなりにアキハさんが現れる。
「『目を隠す』能力。存在感を完全に消して機械にも写らない」
「ああ、確かそんなことも言っていましたね」
「おや、驚くと思ったのに、意外だな〜」
「そりゃ、あんなことやこんなことで昨日は散々でしたから、耐性くらいつきますよ」
「それで、君の『世界を欺く』能力についてなんだが、君が寝ている間にフランに調べてもらった。どうやら君の能力は『世界を欺き、無かったことにしてしまう』能力らしい」
「ん〜、全然分かりません」
「例えばここにタバコがある」
アキハさんはポケットからタバコとライターを取り出した。
「タバコに火をつけるとタバコは燃える」
「はあ」
アキハさんはタバコを一服してから僕を指差した。
「タバコの燃焼を『無かったこと』にしなさい!」
「いや、無かったことにしなさいと言われても、やり方? 能力の使い方が分からないんですよ」
「だろうね」
下のカフェのドアに付いているベルが鳴る。
「帰ったぞ」
「黒ちゃんおかえりー」
下に居たのは昨日山田と名乗っていた長髪の男だ。
「ん、居たのか白崎真白」
「はい。山田さん?」
山田さんは名刺を取り出した。
そこには、
「完全犯罪クラブNo.3外神黒。『目を殺す』能力だ」
「黒ちゃんはねー、人の記憶を弄れるんだよ」
「……記憶を殺しているだけだ」
「へー、そんなこと出来るんだ」
「そう、ちなみに俺は会員No.4木戸秋葉だよ」
「キドって呼ぶなよ。怒るから」
「黒ちゃーん……」
アキハさんがポットを手に気配を消そうとしていた。
「アキハさん。それは流石にだめでしょ」
「お前、俺を殺す気か!」
「次に呼んだら、マジで殺るよ」
「そういえばフランは? また部屋にこもっているのか?」
「フランちゃん?」
キド……アキハさんが頷く。
「フランの『知る』能力は対象に接触しないと発動しない。車に乗る時、助手席のフランと触れただはろ」
「ああ、あの時……」
「で、戦いに向かない能力だからインターネットサーフィンをしているのさ」
「あの、一気に分からなくなったんですけど」
「いつもだよ。アキハの説明が説明になってないのは」
月のウサギと機械時掛けの神52
目を殺す能力
「おはよ〜」
「おはよ〜、白くん」
僕はあれからごく普通に学校に通っている。
外神さんの『目を殺す』能力のおかげで警察と学校のみんなはあの放送のことは忘れている。
「白くん。おーい、白くん!」
突然現実へ引き戻される。
「えっ!? なに?!」
「クラスの学園祭の実行委員でしょ。放課後話しがあるから集まってだって」
「うん。分かった。ありがと〜」
「それじゃ」
放課後。
「すみませーん。遅れました〜」
「またあなたですか。白崎真白!」
「いや。怒らなくてもいいじゃないですか〜」
「はぁ、馬の耳になんとやらですね」
「念仏?」
「とにかく! 実行委員会、始めます!」
一時間後。
「では、これにて終了します」
「はぁー、疲れた〜」
自販機でジュースを買い、飲む。
こんな暑い日はカゲロウが見えるかもしれない。
プルルル!
携帯が鳴り出す。
「誰かな?」
『スナイパーに狙われています。物陰に逃げてください』
フランちゃんだった。
僕は言われた通りに物陰に隠れる。
『アキハと黒がスナイパーを無力化するまで待っていてください』
「フランちゃん。アキハさんも外神さんも危ないんじゃ……」
フッと、フランちゃんが笑う。
『目を殺す能力と目を隠す能力があるんです。大丈夫。あ、無力化したみたいです。もう出て来ていいですよ』
僕が校門を出ると、見覚えのある車が止まっていた。
「や、囮役ご苦労さま」
「やっぱり、僕。狙われているんですか」
僕の問いにアキハさんは答えず、代わりにカードを渡してきた。
「完全犯罪クラブNo.7……」
「そう、今日から君も完全犯罪クラブの仲間だ」
誘われるまま、車に乗り込む。
「実はちょっとした野暮用があってね」
「……暴力団組長の暗殺」
フランちゃんがボソッと恐ろしいことを言った。
「やだな〜、冗談ならもっとこう……」
カチャ。
「冗談じゃない」
フランちゃんは僕に突きつけた銃を下ろした。
「本当にやるんですか?」
「ああ、まあ見てな」
アキハさんの口調が変わる。
そして、車が着いたのは、
「暴力団の家」
巨大な豪邸だった。
フランちゃんはノートパソコンを取り出し、言った。
「わたしがハッキングして家の電気を消す。そのうちに……」
「ああ」
「しっかりついてこい、白」
アキハさんを先頭に暴力団のアジトへ乗り込む。
途中、組員に何度も会うが、組員はこちらに気付かない。
「『目を隠す』能力だ。触れられたりしない限り大丈夫だろう」
屋敷の奥、組長の寝室に入る。
そこには、スヤスヤと寝ている組長がいた。
「死ね」
パンッ!
外神さんが撃った一発の弾丸は、あっけなく組長を殺した。
「終了。さあ、帰るぞ」
「あ、はい」
そして僕の非日常が始まった。
月のウサギと機械時掛けの神53
自己紹介
カフェには僕を含めて五人の人と二台のノートパソコンがあった。
「じゃ、自己紹介でもしますか」
アキハさんがそう言う。
「じゃあ、まずは団長から」
ノートパソコンから機械の合成音のような声が聞こえた。
「完全犯罪クラブNo.1キリカ。『目を盗む』能力だ」
フランちゃんが手をあげる。
「完全犯罪クラブNo.2フランベルジェ。『知る』能力」
「完全犯罪クラブNo.3外神黒。『目を殺す』能力だ」
「完全犯罪クラブNo.4木戸秋葉。『目を隠す』能力です」
横にいた茶髪の女の子が手をあげる。
「完全犯罪クラブNo.5。秋瀬正臣。『目が冴える』能力だよ」
もう一台のノートパソコンに女の子の画像と音声が出る。
「完全犯罪クラブNo.6。リア『目を変える』能力デス」
みんなの視線が僕に向く。
「完全犯罪クラブNo.7。白崎真白『世界を欺く』能力です」
「じゃあ、自己紹介も済んだことだし、お茶にしようか」
アキハさんがお茶とお菓子を持ってきた。
「アールグレイだよ。味わって飲んでね」
「はい」
「わー、美味しそうなお菓子!」
「それは俺の分だ正臣!」
「楽しそうデスね」
「私はこれで失礼する」
キリカのノートパソコンが沈黙する。
「ほら、白くんも早く食べないと正臣と黒ちゃんに食べられちゃうよ」
「あ、はい」
「あと、ここでは敬語とかいいから、普通に黒ちゃんとか呼んでも黒ちゃん怒らないし、ね」
アキハさんが外神さんを見る。
「ああ、好きに呼べ」
「じゃあ黒さんで」
「いや、さんは要らない」
「じゃあ黒?」
「ああ、それでいい」
「白黒コンビだ〜!」
「正臣、てめぇ!」
「く、ふふふ」
僕は突然笑い出す。
「ごめんなさい。なんか家族といるみたいで」
「白くん家族いないの?」
「……白崎真白は一人暮らし」
「フランちゃん。それをどうして」
「ネットで市役所にアクセスした」
「それ違法なんじゃ……」
アキハさんが僕にお茶を出してくる。
「完全犯罪クラブでは、全ての非合法が許されます」
「まあ、悪には悪をってやつだな」
「そうそう、目には目を歯には歯を悪には悪をってね」
正臣の言葉が、どこか遠くに感じられた。
月のウサギと機械時掛けの神54
八人目
「弁当忘れちゃってさあ〜、ちょっと〜分けて」
「白くんまた〜」
「ごめーん」
僕の日常は変わらない。
「今日は卵焼きかぁ〜」
クラスメイトにおかずを分けてもらい、屋上で食べる。
「今日も平和だな〜」
「まーた屋上にいる。屋上好きなの?」
天月さんが弁当箱を手にやってくる。
「おかずもーらいっと」
ハシでつかんだのは野菜炒めだった。
「私のおかず、全部野菜だから」
「そんなぁ〜」
「白くんはおかずが偏りすぎなのよ。もっと野菜取りなさい野菜を」
「えぇ〜」
「露骨に嫌そうな顔しないの」
「じゃあ僕はこれで〜」
「逃げるな!」
ガシッとえり首を掴まれる。
「白くんはメインのおかずばっかり強奪しています」
「ギクッ?!」
「肉ばっかりで野菜が足りないの。野菜を食べなさい」
「ドッペルゲンガー?」
「えぇ、あの白崎真白はドッペルゲンガーの可能性がある」
「フランちゃん、非科学的だよ」
「『目を隠す』能力を持っているアキハには言われたくない」
放課後。
校門の所に見覚えのある車が止まっていた。
「やあ、白くん」
「アキハさん? 何の用ですか?」
「完全犯罪クラブについて、説明しようと思ってね」
車が着いたのはカフェだった。
「このカフェの名前はフロリアっていうんだ」
「へぇ〜」
「白くんコーヒー、砂糖なしで飲める派かな?」
「はい」
アキハさんがいれてくれたコーヒーを飲みながら話を聞く。
「完全犯罪クラブは国、防衛省のバックアップを受けた組織なんだ」
「へぇ〜、すごいですね」
「俺たちの仕事は誰にも気付かれずターゲットを殺したり、守ったりすることなんだ」
「誰にも気付かれず……ですか」
「ああ、そういえば今日は八人目の完全犯罪クラブ団員がくるんだっけ」
チリン。
ドアに付けられた鈴が鳴る。
「あの、ここが完全犯罪クラブの拠点ですか?」
「ああ、よろしく。長瀬湊さん」
「よろしくお願いします。『目を醒ます』能力。長瀬湊です」
「白くんも挨拶して」
「白崎真白です。『世界を欺く』能力です」
「よろしく、白崎さん」
「白でいいよ。よろしく、長瀬」
月のウサギと機械時掛けの神55
目を醒ます能力
「キリカが君に会いたいそうだ」
「えっ!?」
僕がカフェ『フロリア』に通うようになって一週間。
突然アキハにそう言われた。
「キリカってあの機械の合成音みたいな声でしゃべっていた人ですよね」
ああまでするから、てっきり人に会いたくないのかと思ったけど。
「君の学園、学園祭するみたいだね」
「はい。そうですけど?」
「キリカは学園祭で会うってさ。白くんの顔は知っているから向こうから声をかけてくれる」
「はぁ」
学園祭当日。
その日は、暑い夏の日だった。
長い長い、八月二十日が始まったのは。
「……眠い」
「白くん徹夜〜?」
時同さんが話しかけてくる。
「うん、ちょっとね〜」
キリカさんの待ち合わせまであと三時間。
「そういや、白くんヒマ?」
「いや〜、ヒマじゃないよ。ほら、実行委員の仕事があってさ〜」
「そうなんだ。じゃあまたあとで」
そう言うと時同さんは走って行ってしまった。
「少年。きみが白崎真白か?」
「はい。そうですよ〜」
声をかけたのはいかにもといった剣道少女だった。
「私の名前は剣籐霧華。改めて紹介する。完全犯罪クラブNo.1『目を盗む』能力だ」
「へぇ〜、キリカさんって女の人だったんだ。意外だな〜」
「あぁ、そして、」
キリカがポケットからスマートフォンを取り出す。
「完全犯罪クラブNo.6。リア『目を変える』能力デス」
「リアさんはもしかして……」
「そうデス。プログラムのようなものデス」
「ちょっと遅れました」
はぁはぁ、と肩で息をしているのは、意外にも長瀬だった。
「やぁ、長瀬湊。早速だが、白崎真白の『目を醒まして』あげてくれ」
「はいはいっと」
長瀬は僕の目を見る。
「私の『目を醒ます』能力は既に発動している能力を取り消す能力です」
「はぁ……」
「じゃあ、『目を醒ます』よ?」
「はい」
途端に辺りの景色が廃墟へと変わる。
そして、
「やっと気付いたか。白崎真白」
「みたいですね」
僕とキリカ、長瀬以外の人が消えていた。
「えっ……!?」
「長瀬。説明してやれ」
「え〜、めんどくさいです」
「では私が説明しマス」
「あの〜、どういう状況?」
僕の問いにキリカは、
「君の目が醒めたんだよ」




