10話
月のウサギと機械時掛けの神46
日比谷刻
俺には二種類の記憶がある。
会長に女子の風呂を覗いたのがばれて怒られた月のウサギと機会時掛けの神の、ゲームの記憶。
そして、
「刻。どうした〜、暗い顔して」
「久保田、お前は少し遠慮とか配慮ってものをだな……」
「でも最近元気ないよな」
「あははは! 俺はこの通り元気だぜ!」
「ならいいけど」
「はぁー」
なにやってるんだろ、俺。
思えば月のウサギと機会時掛けの神をプレイしている時には感じたことのない虚しさを感じている。
「これが現実ってやつか……」
「おーい、日比谷。生徒会長が呼んでるぞー」
「うーい。今行く」
俺が生徒会室に入るとやつがいた。
「なんの用です。犬塚一果生徒会長さん」
「君に頼みがある」
犬塚が取り出したのは回収されたはずの月のウサギと機会時掛けの神のゲームソフトだった。
「もう一度僕らと一緒にプレイして欲しい」
「マジですか?」
「ああ、真剣だ」
犬塚と俺はにらみ合う。
と、
「別に君が真実を知りたくないならいいんだ」
「真実だと?」
「そう、このゲームの真実をね」
「でも、サービスは打ち切られていて、オンラインゲームのそれは使えないはずじゃ……」
「表向きはね」
「じゃあ……」
「ああ、まだゲームは続いている」
「いつ、プレイするんですか?」
「一ヶ月後。逢魔博士と話し合って決めた」
「わかりました。俺も行きます」
「うん、じゃあ、僕の用はそれだけだから」
「失礼しました」
生徒会室から出る。
「いきなりだったな」
まだゲームは続いている、か……
「フッ……」
また行けるのか、あの世界に……
鏡代女子校。
「あの、ミスコンってなんですか?」
僕の質問に安藤先生は、
「ミス鏡代コンテスト。鏡代に通う乙女たちの中から一番を決めるコンテストだ」
「はあ……」
「まあ気楽にやれ、どうせお前は男だってクラスにばれてるんだ。男のお前に投票するやつはいないだろうさ」
「はぁ」
「じゃ、頑張れよ」
「はぁー」
「刻は男子校で気楽でいいな」
月のウサギと機械時掛けの神47
ミスコン当日
「では、ミス鏡代コンテスト! 開始!」
「はぁ、どうして僕がこんなことに……」
僕は参加者の中ボーッと突っ立っていた。
「ではまず一回戦、手料理対決です。審査員は教師の方々です」
「はぁ、やるしかないか……」
横をみるとみんな凝った料理を作っている。
「僕は小さなパイでも焼こう……」
一時間後。
「一回戦、優勝は逢魔集選手です!」
「なぜ……?」
「教師の方々に聞いてみましょう」
「いや、満腹だったんだが、この小さなパイは満腹の私でも抵抗なく食べられたよ」
「小さなパイのサクサク感としっとりとしたクリームが絶妙でした」
「というわけで、一回戦の勝者は逢魔集選手でした」
控え室。
「なんで勝っちゃうんだろう……」
「まあ、奇跡ってやつね。大丈夫。二回戦は私が勝つから」
「周……」
「ほら、そんな泣きそうな顔しないの」
「では二回戦! 歌対決です!」
「げっ、歌対決なんて……」
「周?」
「集。私、実は音痴なの」
「大丈夫。精一杯歌えばきっと勝てるよ」
「うん。分かった」
「……僕は適当にバラードでも歌うかな」
一時間後。
「勝者、逢魔集選手!」
「なんで!」
「先生方に感想を聞きましょう」
「いやー、心にしみるいい曲でした」
「まさかこの年で涙するなんて思いませんでした」
「以上、先生方の感想でした」
「では、三回戦からは生徒も参加しての水着対決です!」
控え室。
「ねえ、周。僕辞退したいんだけど」
「出来ないルールでしょ」
一時間後。
「さあ、最後の大勝負! 水着対決です! さて、勝つのはだれなのか!」
「では、エントリーNo.1天川周さんの登場です」
一時間後。
「では、三回戦の優勝者は……」
「なんと」
ライトが僕を照らした。
「逢魔集選手です!」
「なんでだ〜!」
月のウサギと機械時掛けの神48
あなたはだれ?
「あなたはだれ?」
「俺は王様……いや、道化師だ」
「そう。あなたはまるで……」
「弁当忘れちゃってさあ〜、ちょっと〜分けて」
「白くんまた〜」
「ごめーん」
僕は白崎真白。髪が白いことを除けば、ごく普通の男の子だ。
「おかずもーらいっと」
クラスメイトたちからお弁当を分けてもらう。
「白くん。また弁当忘れたの?」
「あ、天月さん。おはよー。うん、弁当作るの忘れちゃってさぁー」
天月さんは弁当箱を取り出した。
「はぁ、全く白くんは私がいないと何にも出来ないよね」
「あははは〜 そうだね」
「笑い事じゃないって」
「ねぇ天月さあ、白くんって友達いないと思わない?」
「沙耶。あいつってクラスの人気者、ってかマスコットキャラクターじゃん。友達普通にいるし」
「でも特定の誰かと仲いいって話は聞かないけどな〜」
学食の厨房。
「お、デサート発見! いただき……」
バシン!
「あほか! ちゃんと注文しろ!」
「すみませーん」
屋上。
「今日も楽しかった〜」
屋上で寝転がる。
暖かい日差しで睡魔が襲ってきた。
「ふぁあ〜、寝よう」
いつも同じ夢を見る。
そこは、舞浜という超能力者を集めた学園都市で、僕はそこの生徒だった。
けど、いきなり人が消えた。
僕は散々探し回ったけれど、人がいない。
そんな、夢だ。
「……、くん……白……」
「ううん」
目を覚ますと天月さんがいた。
「白くんってまた屋上で寝てるし、早くしないと午後の授業に遅れるよ」
「はーい」
天月さんとクラスに戻る。
「では、学園祭の準備について話そうと思います」
担任の先生の話を聞き流し、僕は窓の外を眺める。
「雲が綺麗だな〜」
「白〜崎〜、そんなに学園祭の話がつまらないのか!」
担任の先生が怒る。
「いや〜、つまんなかったです。かなり」
「白崎! お前学園祭実行委員な。決定!」
「げ、先生ヒドイっです!」
「話をまともに聞かん報いだ」
「そんな〜、どう思うよ、クラスメイト諸君」
手を広げ、オーバーにがっくりと肩を落としてみる。
「白くんならいいんじゃない」
「賛成ー!」
「白くんガンバッ!」
クラスメイトの声援を受けて僕は、
「じゃあ、僕やりまーす!」
月のウサギと機械時掛けの神49
買い物
「じゃあ、各クラスの実行委員が集まりましたね」
「ふぁあ〜」
あくびをする。
昨日徹夜でゲームをしてたから、今日は特別眠いのだ。
「……白崎さん」
「ふぁい?」
「あなたは緊張感というものが足りません」
「ですよね〜」
「あなたに言ってるんです!」
そんなこんなで、放課後。
「白くんお使い頼まれてくれる〜」
「いいよ〜、なにかな?」
時同さんから、メモを手渡される。
「花火にデコレーション用の飾り、……学園祭の分?」
「そう、今クラスでヒマな人いなくてさ。お願い!」
「OK。じゃー行ってきまーす」
学校を出る。
向かった先は、この街で一番デカい商店街だ。
「領収書を忘れずに、か……」
商店街で花火とデコレーション用の飾りを買う。
「うん、こんなもんかな?」
買い物を終えて商店街を出る。
『目標を発見しました』
『はい、予定通り始末します』
「あー、疲れたー」
結局注文だけして帰ったものが大半なので、荷物は少ない。
「にしても……」
パンッ!
僕が首を傾げた、その空間に弾丸が通る。
「えっ?!」
後ろを見るとフードを深くかぶった人が拳銃を構えているのが見えた。
「ッ!?」
慌てて逃げ出す。
相手は拳銃を持っている。
迂闊に近寄るとマズいってか、撃たれる。
「どいて下さーい」
人混みを抜ける。
そして走る。
走る。
「はぁ、はぁ、逃げきったか?」
パンッ!
足元に弾丸がのめり込む。
フードの人が遠くから走ってくるのが見えた。
「くっ、そー!」
やみくもに走る。
右。
右。
左に曲がる。
とにかく走る。
走って、逃げる。
「ここ、まで、来れば……」
気がついたら学校に来ていた。
学校なら教師も居るし、とりあえず安全だろう。
「すみませーん。実は僕狙われてて」
「白くん、なんの冗談?」
「あ、時同さん。はい、注文の領収書」
「ありがとう。で、だれに狙われてるって?」
「フードの人なんだけど……」
教室に備え付けのテレビにノイズが走る。
「ん?」
テレビの映像はどこかのビルの屋上みたいだった。
『……人を、待っているんです』
「この声、白くん?」
「うん。確かに僕の声だ」
テレビから聞こえてきたのは明らかに僕の声だった。
『助けてくれ……』
男の声が混ざる。
『嫌だね』
ズブッと、なにか刃物が刺さったような音がした。
『あ、がぁあああ!』
男は断末魔を残しながら、倒れた。
カメラが落ち、画面が乱れる。
『お前は……』
『白の王、白崎真白』
「白くん、だよね」
「うん。カメラに写ってたのは確かに僕……」
「どういうこと?」
「さ、さあ?」
途端に教室に教師が押し寄せてきた。
「白崎真白! ちょっとついて来てもらおうか!」
月のウサギと機械時掛けの神50
牢獄
「だーかーら、何かの間違いですって!」
「……言い訳は裁判で聞く」
僕、白崎真白はただいま警察の牢の中にいる。
どうしてそうなったのか、僕には分からない。
確かにテレビに写ってたのは僕だけど、僕にそんな記憶はない。
というか、あの場所も、カメラの男の人も、僕は知らない。
「……面会だ」
警察の人に連れられて向かったのは囚人と会う時のような小さい部屋だった。
ガラス越し、長髪の男は言った。
「弁護士の山田と言います」
「はぁ、どうも」
山田さんが顔をガラスに近付けたので、僕もガラスに近付く。
「……あと一分三十秒後に電気が切れる。そうしたらこの端末の指示通りに動け」
スッと、ガラスの下のスペースからスマートフォンを渡される。
「では、まず、あなたの罪についてですが」
あと一分。
「……で、つまりあなたには殺人罪が適応されているわけで」
あと三十秒。
「つまり、あなたはこのままだと死刑です」
ゼロ。
「電気が、消えた!?」
「走れ!」
僕はドアを開け、走る。
『次の曲がり角を右です』
「了解」
スマートフォンから聞こえる声の指示に従って動く。
そして、
『ゴールです』
「ゴール……」
僕は警察署の裏側に来ていた。
そして、車が僕の前に止まった。
「乗れ! 白崎真白」
「はい」
言われた通りに車に乗る。
「あの。あなたたちは一体?」
運転手が言う。
「俺ら、俺らは……」
スパンッ!
丸めた週刊誌で運転手を叩いたのは幼い女の子だった。
「基地に着くまで秘密ってわたし言ったよ!」
「へいへい」
車はカフェの前に止まった。
運転手が降り、茶目っ気たっぷりに言った。
「ようこそ。完全犯罪クラブへ」
「……いや、僕の聞き間違いかな? あの、いや、ていうか……」
「ん、なにかな?」
「もう一度教えてもらえますか。その、チーム名的なものを」
「ああ、完全犯罪クラブさ」
「なんでだ……」
「ん、どうしたの? 君も一杯飲んでいきなよ」
「は、はい」
カフェの中は普通だった。
「へー、結構趣味がいいね〜」
「白崎真白、白くんって呼んだ方がいいかな?」
「はい。で、完全犯罪クラブってなんですか?」
運転手の人にいれてもらったコーヒーを飲み、聞く。
「俺らは『異常』を持っている。俺の『目を隠す』能力。そこに居るフランの『知る』能力。そして君の『世界を欺く』能力といったふうに」
「へー、僕ってそんな力があるんだ〜以外だな〜」
「アキハ、こいつ絶対分かってない」
「だろうね。まあ、おいおい話すとして、白くん。今日は泊まっていきなさい。二階は普通の家だから」
「はい。分かりました〜っと、」
「なに?」
僕はとなりに座っている幼い女の子に向かって言った。
「よろしくね、フランちゃん」




