表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

恋愛支援員とその主役

作者: 緋絽

どうも、緋絽です!

短編第2号!長いですが、どうぞ!

俺──吉川(よしかわ) (いつき)──の友達には好きな女子がいる。

友達の名前は木島(きじま) 悠哉(ゆうや)。バスケ部でクールだけど冷たいってわけじゃなくて、やる時はやる奴でノリもいい。めちゃくちゃかっこいいわけじゃないけど、容姿も爽やかでなかなかだ。つまり、そこそこモテるわけである。俺の自慢の友達だ。

そんな悠哉の好きな女子は、同じクラスの高山(たかやま) 希美(のぞみ)。言葉を取り繕わないで言うと、容姿はぶっちゃけ普通。笑うと可愛いぐらい。明るくていい子だけど、俺は特にビビッとこない。

悠哉と同じバスケ部で、一生懸命練習してるところを見て、こう、なんつーか、惚れちゃったらしい。うん。

ここで、問題が発生した。



高山には好きな男がいたのである。



これまた同じバスケ部の先輩で、男子の同学年の先輩からも後輩からも頼りにされる、まさに俺が見ても惚れるんじゃね?という完璧な先輩だった。

それでも俺は、あくまでも悠哉を推す。

友人が幸せになった方が嬉しいんです。

というわけで、脈がないわけじゃねーけど結構不毛な友人の恋を手伝うことにしたのだが…。




「………なぁ、お前何してんの?」

もう1人の友達の押部 泰介(おしなべ

たいすけ)が呆れた顔で悠哉を見た。

「いまだにしょっちゅー話しかけられる奴になってないって何だよ?」

泰介が悠哉の頭を小突く。

「やっぱり!?俺もそう思うんだわ!」

俺も同意して頷いた。

悠哉がうぐっ、と言葉を呑む。

「しょーがねーじゃん、タイミング合わねぇんだもん」

「タイミングなんか合わせてなんぼだろ!?つーか、タイミングって何よ?」

「いや、あるだろ?なんか、話しかけるタイミングって」

「いや、わかるけどな」

泰介が溜息を吐く。

「高山、友達とずっと一緒にいるからなぁ。なまじ、女子はトイレまで一緒に行くし」

「あー、そこに突然割り入るって相当勇気いるなー」

連れションしてどうすんの?個室に一緒に入るわけ?

「まぁでも、悠哉、今お前にそんなことを躊躇う余裕はないわけで。女子の会話に割り込むしかねーわけで」

泰介と一緒に悠哉を見る。

「このままじゃ、確実に勝ち目はねぇな」

「だな」

「うるせーよ!んなことぐらいわかってるわ!」

悠哉が肘を付いた手の平に顎を載せてそっぽを向く。

「元気ないんだろ?励ましたいんだろ?もう話しかけるしかねーじゃん」

「いや、でもいきなりはダメだ。突然“今日元気なくね?”とか言われても困るだろ?引くだろ?“何言ってんのこいつ”とか思うだろ?」

俺達の会話を聞いていた悠哉が突然声を大きくした。

「高山はっ!」

その声にクラスの視線が集まる。

やば。

高山をチラッと見ると首を傾げていた。しっかり自分の名前は聞こえていたらしい。

曖昧に笑って周りを誤魔化す。

悠哉の頭を叩く。

「いてっ」

「バカ!お前バカ!」

名前叫ぶとかバレるだろ!

「わ、悪い。でも高山は、そんなこと、思わない…と思う」

周りを気にして悠哉が声を潜めて言った。

思わず無言になる。

そして悠哉の頭を叩いた。

「いてっ」

「うるせーよ、ノロケんな!今そういうこと話してねーだろ!?高山を励ますにはどうしたらいいかっつってんだろ!?」

「そうだぞ悠哉!今だいぶ深刻なんだからな!」

泰介と一緒にギャンギャン騒ぐ。

「わ、悪い」

悠哉が頭を擦りながら言った。

「おい、樹。どうすっか?悠哉も悠哉だけど、俺らもそんなあの辺の女子のグループと仲良くねぇぞ?」

「そうなんだよなー。それにしたって俺達のどっちかが話しかけるわけにもいかねぇし」

悩んでいるとふと思い立った。

今度夏祭りあるじゃん!

ニヤッと笑う。

「喜べ悠哉。お前にチャンスをやる」

「は?」

疑問符を浮かべている悠哉と泰介を置いて教室の前に移動する。

教卓の前に立って手を鳴らす。

クラスの視線が俺に集まった。

「ちゅーもーく!クラス全員参加可な!今度の夏祭り行ける人は一緒に行きましょー!」

俺の言葉にクラス全員がいいねーと騒いだ。

「いいかー、もっかい言うけどクラス全員参加可だからな!来たい奴は来い!できれば男子より女子!」

クラスが笑う。

これでよし。

高山のグループを見ると友達同士でどうするー?と話している。

あのグループはあんまり騒ぐタイプのグループじゃないからなー。来にくいかなー。

チラッと泰介を見る。

OKと指で合図してきた。

高山のグループに飛び込む。

「なー、行こーぜー?」

「わっ、吉川君っ」

「ガチで男子だけとか洒落になんねーから。なぁ、泰介?」

「そうそう。なぁ、悠哉?」

泰介に引っ張られてきた悠哉が口ごもる。

泰介が笑ったまま陰で悠哉の背中を叩いた。

「いて、あ、あぁ」

女子が期待を篭めて悠哉を見る。

おいおい、俺と泰介もいるよ?確かに悠哉が一番見目がいいけどさ!

悠哉が女子を見て(主に高山を)笑いかけた。

「行こうぜ」

女子がソッコーで頷く。

「わかった。行くー」

チラッと見ると高山も頷いていた。

これでよし!



夏祭り当日。

やって来た高山を見て悠哉が顔を背けた。

「おい、悠哉!露骨に顔背けんな、失礼な!」

小さい声で悠哉に囁く。

悠哉が口を押さえていた。若干顔が赤い。

まぁ、わからなくもねーけど。

女子ってマジで格好で印象が変わる。

高山は浴衣を着てきていた。黒の生地に大柄の花が映えていて、けっこう可愛い。アップにしてある髪もよし。

「女子ってこえー」

泰介が顔を引きつらせた。

俺はちょっと上の方にある悠哉の頭をそこらにあった棒でつつく。

「お前、マジ惚れだな」

「ほっといてくれ」

「いや、マジで今日の高山可愛いって。ちゃっちゃと声かけて、目指せ仲良し男子、あわよくば彼氏!」

「お前はー!」

「悠哉」

泰介が悠哉の肩を叩く。

「行くぞ」

「え…」

泰介が悠哉を引っ張って高山のグループに近づく。

俺もお騒ぎ要員としてついていく。

そりゃ自分の立場ぐらい理解してますよ。騒いでとにかく泰介から目線を逸らしゃいいんだ。

「ハーイ、女子達!楽しんでる!?」

「わっ、吉川君っ!」

「ばーか樹!来たばっかで楽しんでるも何もないだろ」

泰介が俺の道化にのって茶化す。

「あ、そっか。ところでさー」

その後もくだらないことを言いながら俺と泰介に注目を集める。

悠哉、ちゃんと高山に声掛けただろうか。俺と泰介がこんなに頑張ってるんだから、そうしてくれてなきゃ俺達が報われないぜ。

チラッと見ると高山と悠哉がなかなか雰囲気良さげに話していた。

その浴衣似合ってる、とか、ちゃんと言ってりゃいいけど。

その後もなんとか高山のグループと行動し、高山と話をさせた。

───ちなみに、夏祭りが混んでるのにかこつけて2人っきりにしたのは俺達マジでよくやったと思う。



悠哉を家に呼んで事の詳細を聞くことにした。

「で?で?高山となんか進展あったか?」

興味津々で泰介と一緒に身を乗り出す。

悠哉が困った顔で手を払った。

「ねぇよ。普通に話しただけだ」

「何!?普通だと!?」

「お前、普通ってどのくらいの普通だ!?“その浴衣似合ってる”、はいこれ!これぐらいは言ったよな!?」

泰介がかなり身を乗り出す。

悠哉が体を後ろに逸らして泰介から目を逸らす。

「い、一応、呟いては、みた。………………………き、聞こえてるかどうかは別として」

「「はぁっ!?」」

なんだそれ!

「そういうのは聞こえてなきゃ意味がないだろ!俺はな、悠哉!“君のことが好きだ!”ぐらい言ってるもんだと思ってたぜ!」

俺の言葉に悠哉と泰介が絶句する。

「「はぁ?」」

後々でようやく頭が俺の言葉を理解したのか、今度はでかい声で叫んだ。

「「はぁっ!?」」

「うるせーよ!2回も言ってんじゃねー!」

「いやいやいや、樹!今のはお前がおかしいって!」

泰介が慌てたように言う。

「なんでだよ」

「お、お前!何てこと言っ───」

顔を赤くして舌が回ってない悠哉を見て、パンと手を叩く。

泰介と悠哉がキョトンとした顔になった。

「だって、そうじゃん?悠哉、お前、はっきり言って高山の恋人候補の土台にも立ってねぇぞ?もっと言うと、お前の為に絡んでるぶん、俺達の方が近いから。一気に前線に躍り出るには強烈な一発をお見舞いしねぇと」

「───だからって、告白になるか!?」

「それ以外どうすんだよ。地道にやってったってお前のことだから下手したら卒業するまで見てるだけで終わったりするぞ」

うぐっと悠哉が息を詰まらせる。

どうやら図星だったらしい。

悠哉のことだから、今もなお、本当は見てるだけでいいとか思っているのだろう。

でも、それではいつか悔やむことになる。

元気がないのを励ましたいなら、すげぇ仲のいい男友達とか、彼氏とかにならなきゃ到底無理だ。

「あー、その手もあるなー」

泰介が頷いた。

「泰介…」

悠哉が縋るように泰介を見たが、肝心の泰介はどこ吹く風だ。

「悠哉、俺は樹の考えに賛成だけどそれが一番いいとは言わないぜ。お前にも心構えとかあるだろうし、本当に見てるだけでいいってんなら別にいい。お前の好きなようにしろよ」

でも、と一呼吸置く。

「それじゃ嫌だっていうなら俺らは手伝うこともやぶさかじゃない。むしろ、大歓迎」

「面白がってんだろ?」

悠哉が溜息を吐いた。

「そりゃもう。浮いた噂一つない悠哉君にようやく恋い焦がれる人ができたのだと思うとねぇ」

ニヤニヤと泰介が笑う。

俺もそれに習う。

「で、何話したんだ?」

「……最近、元気ないなって」

おぉ!そこはちゃんと言ったか!

「で?」

「最初は何でもないって言ってたんだけど。部活で、いつもより先輩に話しかけたりしてなかったの気づいてたから。………先輩のことかって聞いた」

「えぇ!?」

そ こ 行 っ た か !

「いきなり!?いきなりいったかそこ!」

突然そこ聞かれたらなんで知ってんのか俺だったらめちゃめちゃ気になるけど!

「い、いや待て樹。話を聞こう、話を」

泰介が汗を浮かべて言った。

「そ、そうだな。で?」

「…なんで知ってるのって聞かれたから、……見てたからって答えた」

そこまで聞いて、泰介と固まる。

なるほど。こいつ、素でモテ男をやれる奴なんだな。

キモイ外見の奴が言ったらストーカーの発言としか見られないが、悠哉ほどのイケメン具合なら不思議なことに、“君が気になってるんだ”と変換されるのだ。

さぞ高山はドキドキしただろう。

「……うん、そんで?」

「……先輩に告白したって。そんで、フられたって」

「「えぇ!?」」

今度はマジで驚愕した。

告白!とうとう高山が先輩に!すげぇな高山!

「お前、慰めたのか?」

泰介がそろっと質問する。

悠哉は首を横に振った。

「できなかった。なんか、つけ込む気がして」

俺は泰介と顔を合わせて鼻で息を吐いた。

そうだろうな。こいつは、どんな時でも卑怯なことはしない。後々自分が苦しむことをわかってるから、尚更。

俺は俯いてしまった悠哉の肩をポンポンと叩いた。



翌日学校に行って、 正直ビビった。

女子社会なめてた。

───“皆の先輩”に告白した高山が、一部の女子達から陰口を叩かれ始めたのである。

どうして高山が先輩に告白したのが知れ渡っているのかはわからないが、真っ先に悠哉が先輩に聞いたので、少なくとも先輩からではない。

また陰口を叩かれて沈んでいる高山をその友達が慰めている。

「希美、気にすることないよー」

「自分ができないからって僻んでんだってー」

端から見てても相当傷ついてそうな高山を見て、まだ陰口を叩いている女子を悠哉が睨んだ。

そのまま怒鳴りそうな悠哉の肩を強く掴む。

「樹っ!離せっ!」

「ばっか行かせるわけねーだろ!?今お前が行ったら余計事態は悪化すんだよ!」

「でも…っ」

言われなくてもわかってるのだろう、それでも行かなくてはやってられないとでも言うように悠哉が拳を強く握った。

「高山の状況を悪化させたくないならお前は何もすんな。いいな?」

悠哉が奥歯を噛み締める。

その時、女子達の1人が明らかな悪意を持って高山にぶつかった。

「あ、ごめーん。気づかなかったー」

ひどー、と甲高い笑い声が響いた。

「うわー引くわー…」

思わず呟く。

「わ、私もごめん。気をつけてなかった…」

「だよねぇ!やっぱあんたが悪いっしょ!なんであたしが謝んなきゃいけないの!」

でかくて悪意のこもった笑い声が響いた。

うわ、ダメだ。俺こういうのマジ嫌い。

「謝ってくんない?」

「ちょ、ちょっと!希美は謝ったでしょっ」

「は!?あんなん謝ったうちに入らないっしょ!」

女子が笑う。いつもと変わらない笑い顔なのに、なんかブスに見える。

「───土下座は?」

「え?」

高山が絶句した。

俺達も絶句して───むかっ腹がたった。

「土下座しなっつってんの!」

その大声に高山が体を竦ませる。

俯いてしまった高山に言いたい。つーか言う。

高山が謝る筋合いなんかねぇ!

「ごめ…、でも、土下座、だけ、は…」

「は!?土下座やだとか意味わかんない!!悪いことしたら相応に謝る。これ社会の常識だからー!」

大声で相手を威嚇するような奴が俺は苦手だ。嫌悪を抱いていると言っても過言ではない。

泣きそうな高山を見て俺も泰介も頭に血が昇っていた。

だから、気にしてなかった。


悠哉のことを。


涙を零して床に膝を落とそうとしていた高山の腕を悠哉が掴んだ。

クラスの視線が悠哉に集まる。

「あっ!やべっ!」

泰介が焦った顔をした。

俺も焦る。

やーべー!何しでかす気だ、あいつ!

「木島く…」

高山が涙を零した顔を驚かせた。

「謝んなくていい」

「え?」

悠哉が高山をちゃんと立たせる。

そして自分の背中に隠した。

「悠哉っ」

俺の言葉も聞こえないくらい怒っているらしい、まったく俺達の方を見ない。

いや待てよ?逆に悠哉の言葉が抑止力になるか?

「お前ら今の顔、鏡で見てみろよ」

悠哉の声が低く教室内に響く。

「え…っ」

「俺だったら絶対そんな顔した女とつき合いたくないね」

カァと、女子の顔が赤くなる。

女子が反論する前に俺も言った。

「俺も無理ー。引くわー」

俺の言葉に、その女子が教室を飛び出していった。

その後悠哉は一度だけ高山を振り返って、俺達の所へ帰ってきた。

明日には、木島 悠哉が高山 希美を好きだという噂がたつかもしれないなーと、泰介と溜息を吐いた。


ところがどっこい、そんな噂はほとんど立たなかった。

なんで?と思ったら最後の俺の台詞がよかったらしい。他の男子もいらいらしてたようで、特に騒がれなかったようだ。

それからなんか高山と悠哉の様子が変わった。

高山が悠哉に話しかけるようになったのである。悠哉は特に変わってないのだが、表情が軟らかくなった。……気がする。

思わず笑ってしまう。

いい兆候じゃないっすか。

「樹?何笑ってんの?」

泰介が俺の顔を見て首を傾げた。

「んー?いや、このままいけばいいなってさ」

機嫌のいい俺を見て泰介が笑った。

俺と同じ気持ちらしい。

「そうだな」



悠哉が告白して高山と付き合いだしたのはまもなくだった。

高山はまだ先輩に少し未練があったのだが、悠哉はそれでもいいと言ったらしい。

悠哉と高山のカップルは見ていて微笑ましいくらいに仲がよく、かといってベタベタしているというわけではなく、とにかく鑑賞には適していた。

悠哉も高山も、幸せそうだった。



そんなある日。

部活の練習内の試合中の話だったらしい。

もう高山も悠哉をちゃんと好きになったんじゃね?という態度をとっていた時だった。

試合の最中に先輩と悠哉が接触し、2人して床に転んだ。

その時───高山は、真っ直ぐ先輩の方へ行ってしまったのだという。

ちゃんと後で悠哉の所にも来たのだが、悠哉が、きつかったらしい。


「別れたって…」

思わず絶句する。

俺の部屋のベッドで悠哉が枕をいじっている。

「なんでだよ?」

「高山は、悪くないんだ。俺が耐えられなかっただけで」

悠哉が笑う。

でも、笑ってない。

そういう顔、すんなよ。こういう時ぐらい、相手のせいにしていいんだ。男だからとか、女だからとか関係ない。男らしくなくったって、俺らは笑わないからさ。辛いときは男も女も平等にやってくるんだから。

───押し殺さないでくれよ、なぁ。

「最近、自分から手繋いでくれたりとか、遊びに誘ってくれたりとかしてくれてて。あーもう、マジ幸せとか思ってたんだけど」

悠哉が立てた膝の上に置いた腕に顔を埋めた。

「ゆ…」

泰介が声をかけようとして口ごもる。

悠哉が顔を埋めたまま笑い声をたてた。

「俺、手当てしようとする高山に、言っちゃったんだよ。半分本気だったけど、冗談のつもりで“俺はしてくれねーの?”って。そしたら…」

一旦言葉を切る。

「………泣きそうな顔で、ごめん、って。……そんなん、どうすりゃいいんだよ」

悠哉が腕を強く掴んだ。

「…………一気に、持ってかれるのは、俺が辛い」

ガツンと頭を殴られた気がした。

こいつ、すげぇ傷ついてる。

どうすりゃいいのかは俺も泰介もわからなくて、その日悠哉は、無理してるのが丸わかりの笑顔で帰っていった。



高山と悠哉は、話さなくなった。

俺も泰介も、わざわざ 悠哉につらい思いはさせたくないから、高山が近くに来そうな時は適当に理由つけて悠哉を離していた。

男らしくないとか、女の子相手にヒデェとか、言いたければ言えばいい。傷つくのは男だって同じなんだ。

そんな時のこと。

俺はトイレに行っていて、移動教室だったため悠哉と泰介は先に行っていた。つまり、俺は1人。

「吉川君」

振り返ると高山だった。

思わずギョッとする。

「あー、高山…」

高山がちょっと気まずそうに笑った。

「……どうか、した?」

やば。今、ちょっとキツい言い方になったかもしれない。

焦って、笑い顔がぎこちなくなる。

「ごめんね。でも、吉川君に言わなきゃって」

「何を?」

「……私から、木島君を離そうとしてるでしょ?」

思わずギクッと体が強ばる。

さすがに気付くか。

「正直に言う。その通りっす」

両手を顔の横まで上げて降参のポーズをとる。

「私が近くに行くと、木島君にいい気持ちにさせないことは、わかってるの。…でも、一回でいいから」

高山が泣きそうな顔で笑った。

「…木島君と話をさせて?言いたいことが、たくさんあるの」

その時、ふと気づいた。

高山って、別れること躊躇わなかったのかな。俺ら、そのこと考えたっけ?

「その前に、一個」

「え?」

「悠哉に対して、ちゃんと気持ち返してた?罪悪感とか、……高山が好きだった人のことを忘れるためにとかじゃなく、無理矢理悠哉を好きなふりしたり、してないよな?」

少しでも悩んだら、断ろうと思っていた。

でも。

「してないよ。ちゃんと、好きだった」

俺は高山を見て笑う。

「放課後、屋上で待ってて」



悠哉を屋上に連れてった後、泰介が俺に溜息を吐いた。

「突然“悠哉と高山に話さす”とか言い出すなよ…」

「悪い。でも、いいじゃん。俺らさ、よくよく考えてみれば悠哉の気持ちばっかりで、高山がどう思ってるか考えたことないんだよな」

教室の窓辺に腰掛けて泰介に笑ってみせる。

泰介が目を瞬かせた。

「確かになぁ」

「いや、それが悪いとは思ってねーよ?俺ら悠哉大好きだし。むしろ当然だとさえ思ってる。実際、最初悠哉の話聞いた時、高山に腹立ったもん。『彼氏は悠哉だろ!』って」

「ああ…」

泰介も身に覚えがあるのか目を逸らす。

「でもしょーがない。もうここまでくると単純に高山の好みだから。悠哉もかっこいいんだけどな!」

そこは一歩も譲らない。

「先輩もかっこいいしなぁ」

泰介が目を遠くして言った。

「悠哉もかっこいい!」

「そりゃそうだ!」

2人で大声をあげたら通りかかった先生に変な目で見られた。

「…俺らって、過保護…」

泰介が苦笑した。



翌日、悠哉は憑き物が落ちたような顔をしていた。

「いいことあったか?」

「うん、ちょっと」

悠哉が笑う。ちゃんと笑ってる。

「そっか」

泰介が悠哉の肩を叩いた。

「あ、そういや」

俺を高山から離してくれてたろ、と悠哉が言った。

あらー、こいつにもバレてたの?

「おかげでちょっと助かった。サンキュ」

ちょっと、照れる。

俺と泰介は顔を見あわせて、苦笑した。


この他にも短編いくつか書いてます。

リレー小説や個人の小説もupしてるので、よろしくお願いしまーす!m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして、blazeblueと申します。 うまく伝えられないのですが、このお話がすごく好きだったので感想を書かせていただきます。 最初は悠哉くんにイライラしたのですが、確かに手を出せな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ