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ねっむたい...

作者: 明日朝明日
掲載日:2026/02/14


私はずっと、ずうっと眠たい。


私は日に12時間は眠っている。


目覚ましを3つかけても起きることができず、お母さんに叩き起こされる生活を以前まで繰り返していた。


だというのに学校では、ほとんどの時間を机に突っ伏して眠って過ごし、先生たちからも呆れられている。


授業の内容は断片的にしか残っていない。残せない。黒板の文字は揺らいで、チョークの音も離れていって、気付けば夢の底に落ちていく。


「慢性疲労かもしれませんね」


医師はそう言ってカルテを閉じた。血液検査も脳波も、すべて異常はない。


「精神的な要因の可能性があります。最近、強いストレスがかかる出来事はありましたか?」


ストレス、ストレスとは。


私は首を振った。

私はストレスとは無縁だと思っていた。両親が亡くなった時、親友が転校した時、私は泣かなかった。ではなく、泣けなかった。


母が事故で死んだその日、私は夜ご飯を食べて、お風呂に入って、いつも通りに眠った。

父が病気で倒れた日もいつも通り眠った。葬式ではずっとぼーっとしていた。


親友の優くんが突然転校すると聞いた日も、いつも通り接していた記憶がある。


私はどこか変になっているのかもしれない。普通に生きて、普通であることを誇りにしていたのに。


それでも毎日は普通に過ぎていって、遅刻はせずに成績はそこそこをキープしている。


皆はよく寝る私を心配していたけれども、私は本当に平気で大丈夫だった。

 


そう思っていた。


そうしてある夜に私はふと思いついた。

枕元にカメラを置いてみよう。


眠っている間に自分がどうなっているのか確認したかった。もしかすると無呼吸症候群かもしれないし、夢遊病かもしれない。


スマホを三脚に固定して、録画を開始した。


翌朝、動画を再生した。


最初の数時間は、ただ寝返りを打っていた。


しかし、27時を過ぎた頃に、私は上体を起こした。全く記憶はなかった。


目は開いている。だが焦点が合っていない。




そして、泣き始めた。


声を押し殺すように、私は嗚咽していた。


お母さん

お父さん

優くん


ずっと、ずっと繰り返し呼んでいた。

両手で顔を覆った。涙が湧き出ていた。


私は動画を止めた。

受け入れられてなどいなかった。


私はずっと泣いていた。

眠っている間だけ泣いていた。





記憶が戻ってくる。


葬式の夜、布団に入った時に胸が張り裂けるように、貫かれるように痛んだ記憶。

優くんの空席を見た時に吐き気がして見ていられなくなった記憶。


でも私は、それらをすべて押し込んだ。


仕方ない

人は死ぬものだ

転校くらいよくあることだ


そう自分に言い聞かせて、感情を殺した。


私を壊さないために、目を瞑るために。


でもそう分かった時、不思議と安心した。


これで分かった。私はただ、整理のつかない悲しみを処理できていないだけだった。


そしてその夜も、私はカメラを回した。

壊れた私を見ることが使命だと感じた。







27時、私は立ち上がった。クローゼットを開けて、黒いパーカーを着た。


そして部屋を出た。


動画はそこで終わっていた。

バッテリーはそこで切れていた。



息を止めた。そんな記憶はない。でも、

玄関の微かな泥、靴底の土、指と爪の間の黒い何か。


どういうことか、まったく見当もつかない。

夢の欠片が蘇ってくる。


冷たい夜風、山道。そして引きずる感覚。






違う。そんなことは絶対に違う。


わたしは、わたしはそんなことしていない。


でもその日の昼にインターホンが鳴った。



警察だった。


「少しお話を」


近くの山で不審な穴が見つかった。誰かが何かを埋めていたと通報があった。


付近の防犯カメラには、黒いパーカーを着た私の姿が映っていた。


私は否定した。


「覚えていません」


本当に覚えていない。


だが山へ案内され、掘り返された土から出てきたものを見た時に、目の前が歪んで真っ暗になりそうだった。


母のネックレス、父の腕時計。


優くんのスニーカー、私がプレゼントしたもの。


そして腐敗臭。





思い出した。


あの日、私は母と台所で口論をした。些細なきっかけだった。そして激怒した私は怒りに任せて、


包丁を手に取った。


父は止めに入った。


優くんは、私が打ち明けたとき、通報しようとしていて、


石を手に取った。



いや、

これは事故で、仕方がなくて、私は悪くない。


震えながら言い聞かせた。


そして分解して、少しずつ山へ運んで、穴を掘って、別々の穴に埋めた。





理解した。


両親は事故で死んで、優くんは転校した。そう書き換えた。


眠るたびに私は泣いていた。


二人の私が泣いていた。

忘れようとする私、忘れまいとする私。


「あなたを、ご両親とご友人の殺害容疑で逮捕します」


私は抵抗しなかった。





パトカーの中。


また私は泣いていた。




そして、また眠たかった。

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