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第2話:砂塵の遺跡と刻限の試練

朝の陽光がギルドの窓から差し込み、埃がキラキラと舞っていた。俺、リオン・ヴェイルは、ギルドの掲示板の前で立ち尽くしていた。昨日、影の森での死闘を終え、頭に生えるキノコのスキル――エレナが言うところの「菌王の祝福」――に少し慣れてきたところだ。数秒の無敵状態をどう活かすか。それが俺の冒険の鍵だと、昨夜の酒場で肝に銘じた。

掲示板に貼られた新しい依頼が、俺の目を引いた。「砂塵の遺跡:失われた刻の鍵の回収」。報酬は影の森の依頼の倍。だが、危険度も桁違いだ。砂塵の遺跡は、大陸南部の砂漠地帯に眠る古代の迷宮。そこに棲む魔獣や罠は、ベテラン冒険者でも命を落とすと言われる。依頼の詳細には、「刻の鍵」を守る「砂の守護者」の存在が記されていた。どうやら、単なる魔獣退治ではないらしい。

「リオン、また無茶な依頼に目をつけたの?」背後から声。振り返ると、エレナが腕を組んで立っていた。革鎧に身を包み、腰には細身の剣。彼女は俺より三つ年上で、ギルドでも一目置かれる存在だ。「影の森で生き延びたからって、調子に乗らない方がいいわよ。」

「調子に乗ってるわけじゃねえよ。報酬がいいんだ。借金もあるしな。」俺は笑って誤魔化した。実際、冒険者としての装備や生活費で、借金が膨らんでいた。エレナはため息をつき、こう言った。「なら、私も行く。遺跡は一人じゃ無理よ。パーティー組むわ。」

こうして、俺とエレナは砂塵の遺跡に向かうことになった。ギルドで馬車を借り、砂漠を三日かけて進む。道中、エレナが教えてくれた。「砂塵の遺跡は、時間を操る古代の魔術が封じられた場所。『刻の鍵』は、その魔術の核らしい。けど、守護者は時間そのものを歪める力を持つって噂よ。キノコのスキル、頼りになるといいけどね。」

砂漠の熱風が頬を焼く中、遺跡の入り口に到着。巨大な石造りの門が、砂に半ば埋もれている。門には奇妙な紋様が刻まれ、触れると微かに振動した。エレナが剣を抜き、俺も腰の剣を握る。額に熱を感じたが、まだキノコは生えていない。どうやら、スキルの発動には何か条件があるらしい。戦闘の緊張感か、危機的な状況か?

遺跡内部は、驚くほど涼しかった。石壁には青白い光を放つ結晶が埋め込まれ、薄暗い通路を照らす。だが、足を踏み入れると、異変が起きた。空気が揺らぎ、俺とエレナの周囲で時間がスローモーションのように遅くなる。「これは……時間の歪み!」エレナが叫ぶ。彼女の声も、低く引き伸ばされたように聞こえる。

通路の奥から、砂の塊のような魔獣が現れた。「砂蠍」。体長二メートル、尾の毒針は一撃で人間を死に至らしめる。しかも、時間の歪みで動きが遅くなる中、奴だけは普通に動く。エレナが剣を振るうが、刃が空を切る。砂蠍の尾が俺を狙う。避けられない!

その瞬間、額が熱くなり、キノコが芽吹いた。赤い傘がぷっくりと膨らむ。俺は反射的に摘み取り、口に放り込む。甘酸っぱい汁が喉を滑り、黄金の光が体を包む。無敵状態だ! 時間の歪みが消え、俺の動きが通常に戻る。いや、それ以上だ。体が軽い!

「リオン、今よ!」エレナの声。俺は砂蠍に突進し、体当たり。一撃で奴の甲殻が砕け、砂の粒となって崩れる。だが、光が消える。約五秒。無敵時間は変わらない。砂蠍は複数匹現れ、次々に襲いかかる。エレナが剣で応戦し、俺は次のキノコを待つ。額を触ると、小さな芽が再び生え始めていた。再生には数分かかるらしい。

「リオン、キノコのタイミングを計りなさい! 無駄撃ち厳禁よ!」エレナが叫びながら、砂蠍の尾を斬り落とす。彼女の動きは流れるようで、さすがベテランだ。俺は頷き、遺跡の奥へ進む。通路を抜けると、広大な円形の部屋。中央に浮かぶ青い宝玉――それが「刻の鍵」だ。だが、その周囲を巨大な影が取り巻く。砂の守護者。体は砂でできた巨人の形、両手に持つ槍は光を反射して鋭い。

守護者が動き出すと、部屋全体が時間の歪みに包まれた。エレナの動きが止まり、俺も体が重い。守護者の槍が振り下ろされる。額にキノコが生える感覚。俺は摘んで食べ、光る。無敵状態で突進し、守護者の胸に体当たり。砂が爆発的に飛び散るが、奴は再生する。「くそ、倒しきれねえ!」

エレナが叫ぶ。「リオン、鍵を狙え! 守護者は鍵と繋がってる!」俺は理解した。守護者を倒すには、鍵を破壊するか奪うかだ。だが、鍵は浮遊し、触手のような砂の鎖で守られている。次のキノコが生えるまで、俺はエレナと協力して守護者の攻撃をしのぐ。彼女の剣が砂の鎖を斬り、俺は隙を突いて鍵に近づく。

額に熱。キノコが生えた! 俺は食べ、光る。五秒の無敵。鍵に向かって全力で突進。砂の鎖が俺を絡め取ろうとするが、無敵状態では効かない。鍵に体当たりすると、青い光が爆発し、守護者が悲鳴を上げて崩れる。時間の歪みが消え、エレナが息をつく。

「やったな、リオン!」彼女が笑う。俺は鍵を手に持ち、ずっしりとした重さを感じた。これが大陸の運命を変えるかもしれない魔術の鍵。だが、遺跡が揺れ始めた。崩落の予兆だ。「まずい、脱出するぞ!」エレナと俺は全速力で出口へ走る。砂蠍の群れが追いすがるが、エレナの剣と俺のキノコスキルで突破。キノコの再生が早くなっている気がする。戦闘の頻度で成長してるのか?

遺跡を脱出し、砂漠の夜空の下で息をつく。鍵をギルドに持ち帰れば、依頼完了だ。馬車の中で、エレナが言う。「リオン、あのスキル、使い方次第で化けるわよ。けど、時間制限がネックね。次はもっと戦略的に動かないと。」

俺は頷き、額を触った。まだキノコは生えていないが、微かな熱を感じる。「数秒をどう活かすか、か。もっと鍛えないとな。」

ギルドに戻ると、鍵の回収は大成功と称賛された。報酬で借金の一部を返し、俺は次の依頼を探す。掲示板に、「魔王の影:北部山脈の調査」とあった。どうやら、魔王の復活が近いらしい。俺のキノコスキルは、そんな大舞台で通用するのか?

その夜、宿のベッドで、俺は夢を見た。頭に巨大なキノコが生え、黄金の光で大陸を照らす俺の姿。そして、遠くに暗い影。魔王か? 目覚めた時、額に小さな芽が。冒険はまだ始まったばかりだ。

(つづく)


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