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07.釈迦の手のひらの上

「あー暇! スマホとかないのお~?」

「シャン=ペルデュまで4、5日かかる。我慢しろ」

「やだあ~」

 

 馬車で移動なんてお姫様みたい!

 って思ったのは最初の1時間くらいで、そのあとは田園を映すだけの窓にもうんざりしてきた。


「椅子かたーい、やることなーい」

「やることなあるぞ。次の標的の説明を聞け」

「難しい話きらーい」


 ベルベット張りだけど、馬車の振動を直接伝えるせいで落ち着けない椅子の上で寝っ転がる。

 脳のどこかで本当のラブカが【はしたない!】と言っているけど、あたしとアイリスくんしかいないから気にしない。


「シャン=ペルデュの周りには小国が点在している。そのうちのひとつのA王国に、革命軍が亡命している」


 あーあ、暇だなあ。

 前世ではこういう時スマホで乙女ゲーして遊んでたんだよね。

 「flos.」 まだクリアしてないルートいっぱいあるし、本物のソレイユちゃんにも会えたし、もう一度プレイしたいなあ。


「その者の名は【アンネロッテ・エーベルハルト・フォン・ローゼンハイム】。A国の公爵令嬢だが、留学として一時期王都とシャン=ペルデュに滞在していた時期があり、そこで革命軍に加わったという証拠がある」


 ソレイユちゃんのほかにも推し、いたんだよねー。

 騎士系のまじめくんキャラ、ジルバー・ディステル……ナントカカントカくん。

 武骨で無口だけど戦闘狂なとこもあって、あたし、健康的でお堅い感じの子が好きなんだよね。


「アンネロッテは【未来視】を持っているといい、幼い頃から神懸った聡明さがあったという。レベルも10歳になるころには50まで上げていたと」


 アイリスくんはなあー、なんか面白くないんだよね。

 無口っていうか暗いだけだし……話もつまんないし。


「【未来視】を持つ故か、あらゆる危機に対応できる。これまで幾人もの刺客を送ったがすべて排除されている。そこでお前には――」

「ふあーあ」


 あーあー、眠くなってきたな。

 なんかやいやい言ってるけど、あとでやることだけ教えてもらお。

 早く着かないかなあ。


 ――ガチャン

 

「へ?」


 そんなことを考えていると、首に何かを嵌められた。

 金属製のそれはチョーカーの様に首にぴったりくっついて、中に刻印されてる”ナニカ”のせいで力が思うように出ない。


「ちょっと! 何これ!?」

「説明はした。聞いていればわかるはずだが」


 聞くわけないじゃん! あんなつまんない話!

 と言ってやりたい口がうまく動かない、声帯をコントロールされている。

 いや、声帯だけじゃない、体内の魔力回路も何かに押し付けられているような圧迫感がある。


「それは封魔の首輪。封じるのは魔力だけだが、詠唱する声帯も封じることができる」

「うー!! ヴー!!!」

「お前は頭が悪いから、潜入先でうっかり秘密を洩らさないようにするためだ」

「えんうヴー!?」

「これは俺しか使えない……呪われた血がもたらす封魔術。これでお前は今、”釈迦の手のひらの上”というわけだ」

 

(釈迦いるの、この世界!?)


 と言いたい口も封じられてる。

 うーうー唸ってると、アイリスの野郎が苦笑してパチンと指を鳴らすと、術が解けたらしい。


「肉体の戦闘力は封じていない。緊急の場合はお前の力でどうにかするんだな」

「都合のいい……はあっ……魔法使いやがって……」

「これは対悪魔用の術だ。黒髪の呪われた王子たる俺にしか使えない」

「呪い~~??」


 対悪魔用って、あたしが悪魔ってこと!?

 ってことはこの世界で言う悪魔って日本? 地球? もーわけわかんない!

 

「ていうか、黒髪なんて珍しくもなんともないし!」

「……そうなのか?」

「ふつーもふつー! あたしだって前世黒髪だってば!」

「そうか……釈迦といい、お前といい、面白そうな世界だ」


 どういうわけか知らないけど、アイリスくんの声が少し優しくなる。

「この術は乱用しないと誓う」って言ってくれたから、勝手に人に術をかけたのはまあ、ちょっとだけ許してあげよう。

 首輪なしだと、たしかにあたし裏切るしね。

 

「で、なんだっけ?」

「はあ……まさか本当に聞いていないとは」

「難しい話なんて興味ないよ。何したらいいか、わかりやすく言ってよ」

「だから標的はアンネロッテ、やつは――」


 突然馬が叫ぶように鳴いた。

 馬車が急停車して、護衛の人が血相を変えて扉の向こうで叫んでる。

 

「殿下! 野盗です!!」

「わかった。俺が出る」


 そういうとアイリスくんは剣を握って表に出る。


「慣れてるねえ」

「シャン=ペルデュまでの道のりにはうじゃうじゃいる。幼い俺を追い払った父と母は、道中でこいつらに俺を殺して欲しかったのだろうよ」

「へー、じゃあ、もう無理だね」


 あたしは動きやすいようにスカートの裾を切り裂いて、同じように馬車から出る。

 やっと足を伸ばせて、固まってた体に血が通る感じがした。


「あたしがいるから」

「ふっ……では、お願いするとしようか」


 野盗は10人くらい? 物陰にも何人か隠れてるって、アイリスくんが後ろから教えてくれる。

 さて、ちょっと体を動かそうかな。

 

「好きに殺せ、殺戮令嬢!」

「はぁい♡」

 

 ***


 炎を纏い踊るように人を殺すラブカの姿はまさに悪魔だった。

 悪魔とは、この世界とは別の次元にいる存在。

 本人たちは転生者と名乗っている。

 高い知力を持ち、未来を読み、人心を知り尽くし、この世界の詳細な知識まで持つという。

 彼女たちは決まって「宿命(ルート)」があると言い、この世界のことは全て書物に記載されているとも言う。


「そして皆一様に【破滅につながるから】と、俺の元を離れていく。だからラブカ、貴様に頼るしかない」


「あははははは!!!」


 極悪令嬢の皮を被ったこの悪魔は幼稚で残虐で、欲望に忠実で契約がしやすい。

 この悪魔を逃せばもう、俺に手立てはない。

 なぜなら――


「アンネロッテもまた悪魔――お前と同じ転生者、らしいからな」

お読みいただきありがとうございます!

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