06.大大大大大好きな女の子
「では、その者の処遇は俺に任せてもらおう」
低く、だけど透き通るような声は、民衆の怒号の中にもよく響いた。
アイリスの野郎が断頭台へ上ると、民衆は呪われた証の黒髪に恐れ戦き、黙ってしまう。
「……アイリス殿下」
ソレイユちゃんだけは、アイリスの野郎の髪ではなく瞳を見て、静かに礼をしていた。
差別感がない人って素敵!
「素晴らしい正義感だ、ソル・アルトゥム近衛隊長。お前のことを誇りに思う」
「勝手な真似をいたしました」
「よい。だがここからは俺がこの者の処遇を請け負う」
「……かしこまりました」
「やだー、ソルくんー!!!」
あたしの言葉を無視して、あたしはソレイユちゃんの温かいおむねの中からアイリスの野郎の固い胸へ移動させられた。
お姫様抱っこで抱え上げられ、これからの処遇を改めて宣言される。
「この者は俺の領地へ移送する!」
呪われた髪色の王子・アイリスは王様とお妃さまに疎まれて辺境の地に放り出されたという。
あたしの王都追放は、不気味なくらいアイリスの野郎に都合がよく進んでいった。
民衆の歓声が上がる。
こうして、スーパーヒロイン・ソレイユこと【ソル・アルトゥム近衛隊長】により、極悪令嬢の処刑劇は哀れな平民令嬢の救出劇に変わったのだった。
◇ ◇ ◇
「まさか……全部アイリスくんの策だったってこと?」
「さあ? だが【好きな人】には会えただろう」
そしてあたしの追放劇はサクサクと進み、今は辺境の地への移送馬車。
囚人の移送馬車とはいえ、王子も同席するので馬車は超豪華、中も快適だった。
「会えた~~!! ソルくん超かっこいい……! しゅきしゅき!!」
「だが、残念なことに彼は女性に興味がなさそうだ。こういうきっかけでもなければ近づくことすら叶わないだろう」
女性に興味がないのは、ソレイユちゃんが女の子だからだと思うけど。
ゲームの「flos.」では【最も愛した人にだけ正体を明かす】って設定だったから、あたしも気を利かせて黙っておいた。
(筆頭攻略対象のアイリスですら知らないってことは、今はあたしだけの秘密なんだ……!)
大切な秘密の共有に、思わず笑顔になっちゃう。
今は別の土地に行っちゃうけど、きっとこの秘密があたしとソレイユちゃんを繋げてくれる。
「――ところで、俺の領地に移動するのには訳がある」
「偽装婚約と革命軍の討伐でしょ? わかってるって」
アイリスくんの会話って味気ないなあ。
すぐさま仕事モードになったアイリスくんにがっかりしながら、これからの説明を聞く。
「革命の火は辺境の地、シャン=ペルデュから上がった。俺が長らく過ごしてきた土地だ。他国と隣接しているため、革命軍が逃亡しやすく、なかなか尻尾を掴めないうちについに王都まで迫ってしまった」
「アイリスくん首謀者だと思われてるんじゃないの~?」
「ご明察。俺にも疑惑がかかっているので、まずはシャン=ペルデュに潜む革命軍を一掃する」
よくわかんないけど、シャン=ペルデュで革命軍をぶっ倒せばいいのね。
シャン=ペルデュかあ……ゲームじゃ最後の方に行く土地で、めっちゃ寒いんだよね。
「だがシャン=ペルデュは討伐の一歩目に過ぎない。最終目標は革命軍の首領の殺害だ」
「ふーん。誰なの?」
「お前は知らないだろうが。海峡を守護する辺境伯……その令嬢だ」
「女の子なんだ」
女の子が革命軍のボスやってるんだ、珍し―。
気合入ってていいね、なんてその時は呑気に思ってた。
「名前は、【ソレイユ・ド・ルクシオン伯爵令嬢】」
最終殺害目標が、あたしの大大大大大好きな女の子だって、知る前は。
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