11.わぁいゾロ目のレベル22だ!
「アゼリア学園は、我が国が誇る歴史ある魔法学園です。
この素晴らしい学園に生徒として入学できたことは、A王国の王族として最も名誉なことです」
フローライト君の新入生代表挨拶が会場に響く。
王族による代表挨拶に、会場の他の生徒たちも背筋をピンと伸ばして真面目に聞いている。
でもあたしは――
【ターゲットはアンネロッテ。突如革命軍に近づき、知識や物資や金銭を提供している】
「様々な国から優秀な子女が集まるこの学園。
王族であれ、平民であれ、生徒としてこの学び舎に立つ時、我々はすべてただの“学ぶ者”です」
【公爵令嬢の身だ。ひとりの判断で行っていることはあり得ない。まずはアンネロッテの周辺を洗いだす。それまで殺すなよ】
「フローライトくんの挨拶」と【アイリスくんの脳みそ直撃通信】のサラウンド攻撃で吐きそうだった。
(え、なに、なにしたらいいんだっけ? アンネロッテちゃん殺せばいい?)
耳から脳から好き勝手話しかけられるとわけわかんないよ~。
脳が処理できないし、アイリス君は怒ってるしで、どんどん気持ち悪くなっていく。
【話を聞いていないのか、馬鹿が! まずはアンネロッテの味方を探し出す! お前はその魅了魔法を使ってあいつを探れ――】
(あいつ?)
「新入生代表。フローライト・ノクティス・アルストロメリア」
あー、王太子のフローライトくん。
あれ、アンネロッテちゃんじゃなくていいの?
なんでだっけ? もーわけわかんないよー!
「ううっ」
前世では真面目に聞いたことのない入学式の挨拶を聞いて、アイリスの野郎の長い説教を聞いて、脳が混乱する。
多すぎる情報に頭がくらくらしたとき、後ろの席の子がハンカチを差し出してくれた。
「やさしー、ありが……」
誰だかわからないけどありがとー、と言おうとした時、その子の姿が視界に映る。
桃色の髪、青い瞳、男の子みたいな短髪がかわいくて、でも優しいお花のような匂いの子――
「ソル……くん……」
「長旅の後の式は疲れてしまうな」
ソルくんだー!!!
男どもの声を聞いてゲロがでそうな苦しみが、一瞬で引いていくのがわかる。
「あああああありがとう……! 洗って返すから、あ、明日会いに行っていいかな?」
「明日に限らずいつでもどうぞ。同じレ=ザン王国からの留学生だ。遠慮は不要」
「う、うん! あ、でも邪魔にならないようにするね……いっぱい話したくなっちゃうから」
「はは。じゃあ、今日の夜なんかどうだ?」
ぎゃっ! デートだ!!
フラグが立った! デートだ!?
デート、デート、デート、デート、夜、デート……
「はわ……はわわわ……」
「お二人とも。式の最中ですわよ」
もちろん行くよ! と答える前に、女の子の冷たい声が割って入る。
それは隣に座っていたアンネロッテちゃんだった。
「ああ。すまない、アンネロッテ嬢」
「それにソル殿。ラブカ嬢には婚約者のいらっしゃる身。軽率な発言は控えるべきでは?」
「はは。アンネロッテ嬢は手厳しい」
てめえなにソルくんに説教かましてんだ!?
あたしが悪かったとしても、ソルくんに話しかけた時点であたしはアンネロッテちゃんがめっちゃ嫌いになっていた。
アンネロッテちゃんのツンとしました顔も、何でもわかってますって顔も、クールでかわいいと思うのに。
「……自分のお立場をよく考える事ね」
ソルくんに向ける敵意みたいなものが、あたしにははっきりとわかる。
(あれ、でも革命軍のボスはソルくんで、アンネロッテちゃんは革命軍にお金を流してるんだよね? なんで仲悪いんだろう)
「これより、入学時レベル測定を開始します」
足りない頭でちょっとだけ重大なヒントをつかんだ気がしたけど、校内のアナウンスでふわっと消えてしまった。
◇ ◇ ◇
「この魔水晶に手をかざすとレベルと属性に応じた反応を返す。属性は火水土風、そして稀に光と闇が現れる――」
すごーい、ゲームで見た!
乙女ゲーム「flos.」は中高一貫のコレージュって制度の学校が舞台だった。
男子校なんだけど、ソレイユちゃんは男装してソルくんとして中途入学して、身分を隠した恋愛を楽しむんだよね。
そこでもレベル測定の儀式があって、ソレイユちゃんの初期属性も決められた(後でどうせ光属性に目覚めるんだけどね)
今は学校が違う。共学だからアンネロッテちゃんもあたしもいる。
でもソルくんもアイリスくんも、アイリスくんの補佐のオルタンシアくんもいる。
(まるで、ゲーム後の世界をプレイしているみたい)
***
「平均はレベル30ほどだ。では、まずはディオール」
「はーい」
あたしは壇上に呼び出され、水晶の前に立つ。
「ラブカ嬢……! あの平民上がりの」
「炎の魔法を得意とされるとか……魔力だけならレ=ザン随一と」
「しかし雪のような白銀の髪だと聞いていたが……」
【アンネロッテは10歳の時にはレベル50になっていた。暗殺を狙うのであれば、それ以上は欲しいところだ】
(みんなうるさいなあ)
ラブカは本当に有名な存在らしく、あたしの姿を見てみんなひそひそと噂話をしている。
――ひとり、いらん命令を出してくる奴がいるけど
「ラブカ・ディオール、火属性。レベル――22!」
「わーいゾロ目!」
ぶいぶい、とピースサインを出してアイリスくんに見せつける。
【50には程遠いじゃないか、馬鹿が!】
【知らないよ。ラブカが強くてもあたし魔法はトーシロだもん】
他の子たちは平均レベル30のハードルを下回ったあたしに変なプレッシャーが消えたようで、ほっと息をなでおろす声が聞こえた。
その後もレベル20代の子が続出するが、あたしと似たり寄ったりなので、会場全体が生ぬるい空気になっていく。
「フローライト・ノクティス・アルストロメリア、土属性。レベル――40!」
「オルタンシア・フォンテーヌ、水属性。レベル――38!」
そんな空気をじわじわ変えていくのが、フローライトくんとオルタンシアくんだった。
平均30の壁を大幅に超える彼を見て、弛緩していた空気がピリリと張り詰める。
「アイリス・ノワール・レ=ザン、水属性。レベル――なっ……71!」
そして、アイリスくんが前人未到の70越えを達成した時、会場は大いに沸いた。
「すげえ……これが呪われた王子」
「悪魔の子だからか……?」
沸いた、というか好き勝手騒ぎ出した。
アイリス君はどれだけ好成績を出しても、その黒髪が全て邪魔をする。
すごい理由も、がんばる理由も、全部外見のせいになる。
「すばらしいです! アイリス殿下!」
そんな中、たったひとりソルくんだけはぱちぱちと拍手をしてアイリスくんを称えた。
「日々の鍛錬の賜物ですね」
「ソル。ここは学園だ。アイリスと呼ぶように」
「かしこまりました。アイリス様」
優しい~、好き!!!
なんて、ソルくんを情熱的に見つめているのはあたしだけじゃなかった。
ソルくんの温かい声援で、周りの空気も暖かいものに変わっていく。
「素晴らしいです」
「ご教授願います」
なんて、手のひら返したようなお接待にかわっていった。
アイリスくんは、むすっとしたままだったけど。
「アンネロッテ・エーベルハルト・フォン・ローゼンハイム、闇属性。レベルは……」
そうこうしている間に、アンネロッテちゃんのレベル測定も終わったらしい。
(アンネロッテちゃんが大体レベル50らしいから、アイリスくんがいれば瞬殺よゆーかな)
レベル測定は、暗殺目的でやってきたあたしには好都合な強さの指標だった。
アンネロッテちゃんのレベルは大体聞いているし、相手の強さがわかれば暗殺計画が立てやすいね。
――パリィン!!!!
そんなことを考えていたら、水晶の割れる音がしてあたりに悲鳴が響く。
教官が、絞り出すように叫んだ。
「れ、レベル……99!!」
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