10.A王国のAってアルストロメリアのAらしいよ
「A王国のAはアルストロメリアのAなんだ」
隣で踊る金髪の王子様が、得意げに教えてくれた。
小気味よい音楽がホールに響く。
2/4拍子で奏でられる音楽による舞踏会は、想像していた荘厳な【舞踏会】ってやつよりずっと激しくて楽しい!
タッタ、タッタ、と跳ねるようなリズムの曲の元、パートナーをくるくる入れ替える、カドリーユっていうスタイルらしい。
「そうなんだ! 知らなかった!」
「はは、正直だな。ボクに聞いてくれたら、何でも教えてあげるよ」
「うん! いっぱい教えて!」
博学を教えてくれた、今のパートナーは【フローライト王太子】。
金髪碧眼たれ目の可愛い男の子。
ちょっとプライド高そうなところも、王子様! って感じでかわいいかも。
「現女王はアネモネ。この国の王は戴冠時にAの名のつく花の名を賜る。故に通称、A王国」
また音が変わって、次はアイリスくんがパートナーになる。
アイリス君くんは……野盗退治の時はにっこりしてて可愛いなって思ったのに、もうむすっとしちゃってる。
「あ、じゃあアイリス君も王様なれるじゃん」
「アイリスの頭文字はIだ、この馬鹿」
お返事もかわいくなーい。
と思ったらまた音が変わる。
女の子同士で一列になって、男の子たちの列の前に立つ。
「……失礼ながら。殿下へのお言葉の使い方には気を付けたほうが良いかと思いますわ」
「ごめんねえ、アンネロッテちゃん」
隣に立っているのはアンネロッテちゃん。
銀髪の巻き髪で、ツンとした瞳が印象的な美少女。
で、今回の暗殺のターゲット。
あたしは、暗殺対象のアンネロッテちゃん・フローラくん……and more! という、超過激な面子でカドリーユを踊っていた。
◇ ◇ ◇
で、どうしてこうなったかというと――
【私は騎士。現在は革命軍・「灰の花々」の幹部――
命を受け、アイリス殿下のお命を狙うために潜伏しておりました】
【誰に命令されたの?】
【アンネロッテ・エーベルハルト・フォン・ローゼンハイム】
王都からアイリスくんの故郷・シャン=ペルデュに向かう道中に襲ってきた野盗に革命軍がいて、その命令をしたのがアンネロッテちゃんだから!
「アンネロッテは隣国・A王国の公爵令嬢。王太子・フローライトくんの婚約者であり、昨年まで留学として我がレ=ザン王国に滞在していた」
「そうそう。そこで婚約者いるのにアイリスくんに色目使って、ソルくんちゃんに成敗されて国外追放になる悪役令嬢だ!」
「色目を使われた記憶はないな。むしろ徹底して避けられていた気がするが……」
「そこはほら、破滅ルート回避ってやつ? だって、あたしと同じ転生者なんでしょ?」
「……ああ、本人がそう言っていた。元はニホンという国の民間人だったと」
日本! そこもあたしと同じ!
お友達になれたらよかったけど、アイリスくんの敵だから殺さないといけないんだよなあ。
で、アンネロッテちゃんは転生チート持ちで、詳細な未来視があって、子供のころからガチって鍛えててレベル50なんだって!
「子供のころから転生はいいなー! あたしも人生やり直したかった!」
「生まれたら一度きりの命だ。やり直しは無い」
「そりゃ、アイリスくんはそうだろうけどさ――」
「アイリス殿下、A王国の入国許可が下りました」
アイリスくんと話してると、オルタンシアくんが入ってくる。
オルタンシアくんとはあんまり話したことないけど、アイリスくんに幼少時代から仕えている宰相見習い。
怖ろしく目が効いて、ソレイユちゃんの男装を見破るんだよね。
でも今はまだソレイユちゃんがソルくんになってることも、革命軍であることもばれてない! あたしが守るよ、ソレイユちゃん!
(……ていうか、ソレイユちゃんって何で革命軍にいるんだっけ?)
あたしが知る限り、そんな話はなかったと思うんだけどなあ。
知らない隠しルートでそういう話があったのかも。
「アイリス殿下は、婚約者のラブカ嬢とお二人で留学という形になっております」
「フッ……良い意趣返しだ」
げえ、ほんとに婚約者になってるじゃん。
革命軍殺したらちゃんと離婚してくれるんだよねー?
「よし、ラブカ。どこまで話したか覚えているか?」
「全部忘れた」
「……そうか、じゃあまた1から教えてやろう」
「あー嘘嘘!! アンネロッテの中身の話までした!」
あたしを放って友達と話してるアイリスくんにムッとして適当な態度を取ると、アイリスくんは馬鹿真面目に1話直そうとする。
慌ててそれを止めると、アイリスくんは馬鹿にしたような笑顔で話を続けた。
「アンネロッテちゃんって外国人なんでしょ? なんでうちの国の革命に関わるの?」
「普通に考えれば武器の密輸や、革命後の政権への介入が狙いだろうが……転生者となると別の思惑があるかもしれんな」
「ふーん」
「それだけか……お前も転生者だろう。何か思い当たることはないか?」
「転生したら外国の革命に介入してまでやりたいことー? あるわけないじゃん。あたしただの学生だったんだよ」
「……それもそうだな。まあ、お前に学があるとは思えないが」
「うるさいな! 前世じゃ馬鹿も天才もみんな学校通えるの!」
アイリスくんは「いい国だな」なんて言って、また静かに笑った。
最近よく笑うよね、アイリスくん。
「とにかく、アンネロッテが革命軍と繋がっていることは事実だ。その狙いを見定め、始末する為にA王国へ向かう」
「はあーい」
「そう面倒くさがるな、ひとつだけお前が楽しめそうなことがあるぞ――」
◇ ◇ ◇
カドリーユの曲は、ころころと転調する。
またパートナーが変わって、新しい人が目の前に立つ。
「お手をどうぞ、レディ」
「あっ……」
差し出された手を、ドキドキしながら握る。
他の男の子に比べると少し小さい手は、とっても暖かくて、太陽みたいだった。
「よ、よろしくね……ソルくん」
A王国の舞踏会には――ソルくんもいた。
「学園も同じと聞いた。どうか、よろしくな」
「うん……!!」
【王都の偵察部隊として、ソル・アルトゥムもA王国に潜入する】
アイリスくんのしたり顔を思い出す。
アイリスくんはソルくんが革命軍のトップなことを知らないから、この采配が大やらかしだとは気づいてない。
でも、あたしには好都合――
「明日から、一緒に学園に通おうね!」
ドキドキワクワクの、学園編が始まるから!
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