第95話 ステーションの成長と、次なる目標『深淵の水晶』
リンドブルムのドラゴンステーションは、
日増しにその活気を増し、
アースガルド大陸の物流と経済の中心として、
目覚ましい発展を遂げ始めていた。
リュウガが担う、ヴェリタスや王都への長距離幹線輸送。
ウィンドランナーたちが活躍する、近隣村落へのきめ細かい支線輸送。
そして、ピクシー・ドレイクたちが愛嬌を振りまきながら飛び回る、
リンドブルム市内の超短距離『ピクシー・エクスプレス』。
それぞれの翼が、それぞれの特性を活かし、
まるで美しいハーモニーを奏でるかのように、
効率的で、そして温かい物流ネットワークを
築き上げていた。
ステーションの倉庫には、
大陸各地から集められた様々な荷物が、
整然と、しかし活気に満ちて並べられている。
薬草、鉱石、織物、香辛料、書物、
そして、『コールドボックス・マークII改』によって運ばれてくる
新鮮な魚介類や乳製品、デリケートな果物…。
それらは、リリアさんと、
彼女が育てた若い事務スタッフたちの手によって、
迅速かつ正確に仕分けされ、
次の目的地へと送り出されていく。
ギドさんの鍛冶工房からは、
昼夜を問わず、金槌の音と炉の熱気が絶えることはない。
彼は、『ドラゴンギア Lv.2』のさらなる改良と、
そして、俺が夢見る『特殊コンテナ』の開発に、
寝る間も惜しんで没頭していた。
その目は、少年のようにキラキラと輝き、
まるで新しいおもちゃを与えられた子供のようだ。
頑固で偏屈なドワーフだが、
その心の奥底には、
誰よりも熱い職人の魂と、
そして俺たちへの深い愛情が宿っていることを、
俺は知っていた。
俺自身は、
『異世界物流システム Lv.2』を駆使し、
ステーション全体の運営管理と、
新たな輸送ルートの開拓、
そして、将来的な事業拡大のための戦略立案に
日々追われていた。
時には、リュウガと共に長距離輸送に出ることもあったが、
最近では、ウィンドランナーたちに任せられる仕事も増え、
少しずつだが、経営者としての側面に
力を注げるようになってきていた。
「ケンタさん、これ、見てください!
先月の収支報告書です!
ついに、黒字化を達成しましたよ!」
ある日、リリアさんが、
興奮した面持ちで一枚の羊皮紙を俺に見せてくれた。
そこには、これまでの赤字続きだった経営状態から一転、
確かな利益が計上されていることが記されていた。
「すごいじゃないか、リリアさん!
これも、君がしっかりと経理を管理してくれたおかげだよ」
俺は、リリアさんの頑張りを心から称えた。
「いえ、そんな…!
でも、これで、ギドさんの新しいコンテナ開発の資金も、
少しは目処が立ちますね!」
リリアさんは、嬉しそうに微笑んだ。
そう、俺たちの次なる目標は、
『深淵の水晶』を手に入れ、
ギドさんに究極の『コールドボックス・マークIII』と、
そして、真の『ドラゴンギア Lv.2』を完成させてもらうことだ。
それが実現すれば、
『ドラゴン便』は、
アースガルド大陸のどんな場所へも、
どんな荷物でも、
完璧な状態で届けることができるようになる。
それこそが、俺の目指す、
真の物流革命の姿だった。
王都の宮廷魔術師や、
ヴェリタスの商人マードック氏からもたらされた情報によれば、
その『深淵の水晶』は、
アースガルド大陸の南西の果て、
三方を海に囲まれた、
風光明媚な港町を中心とする
アクアティア公国近海の、
古代遺跡のさらに奥深くに眠っている可能性が高いという。
だが、そのアクアティア公国は、
近年、北西に位置する海洋大国
『ネプトゥーリア王国』からの強い圧力を受けており、
非常に不穏な空気に包まれているという情報も、
同時にもたらされていた。
ネプトゥーリアは、アクアティアの良港を狙い、
様々な揺さぶりをかけてきているらしい。
それは、単なる素材探しの冒険ではなく、
国家間の陰謀や、
新たな強大な敵との遭遇を予感させる、
危険な旅になるかもしれない。
「…ケンタさん」
リリアさんが、真剣な表情で俺の顔を見上げた。
「アクアティア公国への旅…
私も、一緒に行ってもいいですか…?」
その瞳には、不安と、
しかしそれ以上に、
ケンタと共に困難に立ち向かいたいという、
強い意志が宿っていた。
俺は、リリアさんのその真っ直ぐな瞳を見つめ返した。
彼女は、もう、
ただ守られるだけの存在ではない。
共に戦い、共に未来を切り開いていく、
かけがえのない仲間なのだ。
「ああ、もちろんだ、リリアさん。
君の力が必要だ。
それに、ギドさんも、
『最高の素材を手に入れるためには、
最高の目利きが必要だ』なんて言って、
一緒に行く気満々みたいだしな」
俺は、悪戯っぽく笑って言った。
「本当ですか!?
ありがとうございます、ケンタさん!」
リリアさんの顔が、
ぱあっと明るく輝いた。
リンドブルムのドラゴンステーションは、
今や、俺たちにとって、
かけがえのない故郷のような場所となっていた。
だが、俺たちの夢は、
この場所に留まることではない。
もっと広く、もっと遠くへ、
この翼で、新しい道を切り開いていくことだ。
俺は、事務所の窓から、
夕焼けに染まるリンドブルムの空を見上げた。
その空の向こうには、
まだ見ぬアクアティアの海と、
そして、俺たちの新たなる冒険が待っている。
『深淵の水晶』を手に入れ、
『ドラゴン便』を、
そしてこの世界の物流を、
さらなる高みへと導くために。
俺たちの、新たなる旅立ちの時は、
もう、すぐそこまで迫っていた。




