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第93話 ステーション運営の課題とケンタの決断 ~「配車システム」の原型~

リリアさんとシルフィ、

そしてピクシー・ドレイク隊による、

霧笛の村への緊急医療品輸送は、

見事、大成功に終わった。


悪天候と険しい山道をものともせず、

彼女たちは、貴重な特効薬を、

まさに「風のように」村へと届け、

高熱に苦しんでいた子供たちの命を救ったのだ。


その知らせは、

すぐにリンドブルムの街中に広まり、

『ドラゴン便』の、そしてリリアさんの名は、

再び英雄譚として語り継がれることになった。

特に、小型のドラゴンたちが、

あんなにも困難な任務を成し遂げたという事実は、

人々に大きな驚きと感動を与えたようだ。


「ケンタさん!

見てください、これ!

霧笛の村の子供たちから、

リリアさんとシルフィちゃんに宛てた、

感謝のお手紙がたくさん届いたんですよ!」

数日後、リリアさんが、

嬉しそうに、そして少し照れくさそうに、

可愛らしい絵が描かれた羊皮紙の束を俺に見せてくれた。

そこには、子供たちの拙い文字で、

「ありがとう、リリアおねえちゃん!」

「シルフィちゃん、かっこよかった!」

といった、心温まるメッセージが綴られていた。


「すごいじゃないか、リリアさん!

君はもう、この街の小さな英雄だな!」

俺がそう言うと、

リリアさんは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

その姿が、また可愛らしい。


ウィンドランナーたちの活躍は、

それだけでは終わらなかった。

霧笛の村の一件をきっかけに、

これまで『ドラゴン便』の存在を知らなかったような、

山間部の小さな村々からも、

次々と輸送の依頼が舞い込むようになったのだ。

「薬を届けてほしい」

「手紙を届けてほしい」

「小さな農具の部品を運んでほしい」…

そのどれもが、リュウガが出動するほどではないが、

しかし、そこに住む人々にとっては、

生活に不可欠な、大切な荷物ばかりだった。


ウィンドランナーたちは、

その小さな翼と俊敏な動きを活かし、

これらの「きめ細かいニーズ」に、

見事に応えてみせた。

彼らは、リュウガでは入れないような狭い谷間や、

鬱蒼とした森の上を軽やかに飛び越え、

これまで物流から取り残されていたような辺鄙な場所へも、

確実に荷物を届けていったのだ。


『ドラゴン便』の輸送ネットワークは、

ウィンドランナーたちの加入によって、

まさに毛細血管のように、

アースガルド大陸の隅々へと広がり始めていた。


だが、その一方で、

新たな課題も、より深刻な形で俺たちの前に立ちはだかった。

それは、複数の種類のドラゴンたち(リュウガ、ウィンドランナー隊、そしてピクシー・ドレイク隊)の、

効率的な『運行管理』の問題だった。


依頼は、もはやリンドブルム市内や近郊の村だけではない。

ヴェリタスや王都への長距離幹線輸送。

山岳地帯や森林地帯への特殊輸送。

そして、リンドブルム市内での超短距離小口配送。

荷物の種類も、大きさも、重さも、緊急度も、

そして届け先の地理的条件も、全てがバラバラだ。


どのドラゴンに、どの荷物を割り当てるのが最適なのか?

どのルートで、どの順番で配達すれば、

最も効率よく、そして安全に届けられるのか?

それぞれのドラゴンのコンディションや、

ギアのメンテナンス状況、

そして、刻一刻と変化する天候や、

時には魔獣の出現情報なども考慮に入れなければならない。


(これは…まさに、俺が前職でやっていた

『配車業務』そのものじゃないか…!)

俺は、事務所の壁一面に貼られた

アースガルド大陸の巨大な地図と、

そこに無数の線で書き込まれた飛行ルート、

そして、それぞれのドラゴンたちの稼働状況を示す

羊皮紙のメモの山を前に、

再び頭を抱えていた。


『異世界物流システム Lv.2』は、

確かに、個々の飛行ルートの提案や、

危険予測といった面では非常に役立つ。

だが、複数のドラゴンと、

多様な依頼を組み合わせた、

複雑な「運行計画」を立案するには、

まだ機能が追いついていないようだった。


「ケンタさん、また難しい顔をして…

何か悩み事ですか?」

リリアさんが、心配そうに声をかけてくる。


「ああ、リリアさん…。

実は、依頼が増えてきたのは嬉しいんだけど、

どのドラゴンにどの仕事を任せるか、

その割り振りが、だんだん難しくなってきてね…。

それぞれのドラゴンの得意なことや、

その日の体調、それに荷物の種類や届け先のことを

全部考えて、一番いい組み合わせを見つけるのが、

なかなか大変なんだ」

俺は、正直に悩みを打ち明けた。


「なるほど…

確かに、リュウガさんとウィンドランナーさんたちでは、

運べるものも、得意な場所も違いますものね…。

それに、ピクシー・ドレイクさんたちは、

あまり遠くへは行けないですし…」

リリアさんも、真剣な表情で頷く。


「そうだろ?

これを、毎日、全ての依頼について、

俺一人の頭で考えて決めるのは、

そろそろ限界かもしれない…」

俺は、深いため息をついた。


その時だった。

工房で何やらゴソゴソと作業をしていたギドさんが、

大きな木の板と、

たくさんの色とりどりの木製の駒のようなものを抱えて、

事務所に入ってきた。


「フン、小僧。

お前がそんな情けない顔をしているだろうと思ってな。

ドワーフの知恵を貸してやろう」

ギドさんは、そう言うと、

事務所の壁に、その大きな木の板をドンと立てかけた。

板には、リンドブルムを中心とした、

かなり詳細な周辺地域の地図が描かれており、

その上には、無数の小さな穴が開けられている。


「これは…?」

俺とリリアさんは、顔を見合わせた。


「『運行管理盤』とでも名付けておくか」

ギドさんは、得意げに顎髭を撫でた。

「この色付きの駒は、それぞれのドラゴンを表しておる。

瑠璃色はリュウガ、青緑はウィンドランナー、

そして、この小さな虹色のやつがピクシー・ドレイクだ。

依頼が入ったら、その届け先の場所に、

荷物の種類と緊急度を書いた札を立てる。

そして、どのドラゴンにその荷物を運ばせるか、

この駒を動かして、視覚的に計画を立てるのじゃ」


それは、現代の物流センターで使われている

「ディスパッチボード」の、

まさにアナログ版、異世界バージョンだった!

それぞれのドラゴンの現在の状況(飛行中、休息中、整備中など)も、

駒の色や形で区別できるようになっている。


「す、すごい…!

ギドさん、これなら、

誰にでも一目で運行状況が分かりますね!」

リリアさんが、感嘆の声を上げる。


「ああ、これなら、

俺の頭の中だけで考えていたことが、

ちゃんと『見える化』できる!

それぞれのドラゴンの負荷状況も把握しやすいし、

急な依頼変更にも対応しやすくなるはずだ!

ギドさん、あんた、やっぱり天才だよ!」

俺も、興奮してギドさんの肩を叩いた。


「フン、これくらい、ドワーフの知恵にかかれば造作もないわい。

だがな、小僧。

この盤をどう使いこなすかは、お前たちの腕次第だぞ。

ただの飾りにならんように、せいぜい頭を使うんだな」

ギドさんは、ぶっきらぼうに言いながらも、

その目は、どこか誇らしげに輝いていた。


こうして、俺たち『ドラゴン便』の事務所には、

ギドさん特製の『運行管理盤』が設置された。

それは、まだアナログで、手作業の部分も多いが、

確実に、俺たちが目指す

「異世界版・物流DXデジタル・トランスフォーメーション」の

第一歩となるものだった。


リリアさんは、この運行管理盤の操作をすぐに覚え、

持ち前の几帳面さと記憶力を活かして、

見事にドラゴンたちの「配車」をこなし始めた。

彼女は、もはや単なる受付嬢ではなく、

『ドラゴン便』の心臓部を担う、

優秀なディスパッチャーへと成長しつつあったのだ。



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