表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/146

第91話  小さな翼の大きな力 ~ドラゴンステーション始動~

風切り峠から、

希望に満ちた若いウィンドランナーたちが

『ドラゴン便』の新たな翼として仲間入りしてから、

数週間が過ぎた。


彼らの加入は、

リンドブルムのドラゴンステーションに、

そして俺たちの輸送業務に、

まさに革命的な変化をもたらし始めていた。

まるで、止まっていた歯車が、

一気に噛み合って動き出したかのような、

そんな目覚ましい変化だった。


「シルフィちゃん、今日の配達は、

隣村の薬草問屋さんへの、この小さな薬箱と、

それから、山向こうの鍛冶屋さんへの、

この設計図の羊皮紙ね!

風が強いから、気をつけて飛んでね!」


リリアさんが、

ひときわ小柄で人懐っこいウィンドランナーのシルフィに、

まるで妹に言い聞かせるように優しく声をかけながら、

ギドさん特製の、小型で軽量な配達ポーチを手渡している。

シルフィは、「ピャウ!」と嬉しそうに、そして誇らしげに一声鳴くと、

器用にポーチを受け取り、

風のように軽やかに空へと舞い上がった。

その小さな、しかし力強い翼が、

朝日を浴びてキラキラと虹色に輝いている。

見ているだけで、胸が躍るような光景だ。


ウィンドランナーたちは、

リュウガの圧倒的なパワーと航続距離とは異なる、

その俊敏性と小回りの利く飛行能力を最大限に活かし、

これまでリュウガでは対応しきれなかった、

リンドブルム近郊の村々へのきめ細かい「小口配送」や、

山岳地帯の狭い谷間、あるいは鬱蒼とした森林地帯といった、

リュウガでは進入が難しかった場所への「特殊輸送」で、

目覚ましい活躍を見せていた。


「ケンタさん、ウィンドランナーさんたちのおかげで、

本当に助かっています!

以前は、リュウガさんが一度にたくさんの荷物を

遠くまで運んだ後、

細かい配達は私やピクシー・ドレイクさんたちが

手分けして行っていたので、どうしても時間がかかってしまって…。

それに、お客さんをお待たせすることも多かったですし…」


リリアさんが、

ドラゴンステーションの受付カウンターの向こうで、

目を輝かせながら報告してくれた。

彼女の周りでは、

ピクシー・ドレイクたちが、

まるで小さな事務員のように、

依頼の羊皮紙を運んだり、

仕分けされた小荷物にリボンをつけたりと、

ちょこまかと、しかし一生懸命に手伝っている。

その光景は、微笑ましくもあり、

そして、俺が夢見た新しい物流の形が、

少しずつ現実になっていることを実感させてくれた。


「でも、今は、リュウガさんがドラゴンステーションに

ヴェリタスや王都からの大きな荷物を運び込んでくれれば、

あとはウィンドランナーさんたちが、

それぞれの村や町へ、

あっという間に届けてくれますから!

まるで、大きな川から小さな小川へ水が流れるように、

荷物がスムーズに動いている感じなんです!」

リリアさんの言葉は、的確だった。


(そうだ…これこそが、

俺がいた現代の物流でいうところの、

『ハブ・アンド・スポーク』システムだ…!)

俺は、胸の中で、静かな興奮を抑えきれなかった。


ドラゴンステーションを、

大陸各地からの荷物が集まる『ハブ拠点』とし、

そこから、リュウガのような大型ドラゴンが

都市間の長距離・大口輸送…つまり『幹線輸送』を担う。

そして、ステーションに集められた荷物を、

ウィンドランナーやピクシー・ドレイクのような

小型の翼たちが、

各地域の村々や、個々のお客さんの元へと届ける

『支線輸送(フィーダー輸送)』や

『ラストワンマイル配送』を分担する。


この体制が確立できれば、

アースガルド大陸の物流効率は、

まさに桁違いに向上するはずだ!

これまで物が届かなかった場所へも、

必要なものを、必要な時に届けられるようになる。

それは、人々の生活を、

そしてこの世界の経済を、

根底から変える力を持っているはずだ。


「フン、あのチビウィンドランナーたちのことだ

最初はただの風任せな、危なっかしい飛び方しかできんかったが、

リュウガの旦那の堂々たる飛行を見て、

そして小僧の訳の分からん指示

(スキルウィンドウの最適ルート指示のことだ。ギドさんにはまだ内緒にしている)

に従って飛んでいるうちに、

なかなかどうして、統率の取れた、

見事な編隊飛行ができるようになってきたじゃないか」


工房で、新しい小型コンテナの試作品を

熱心に製作していたギドさんも、

窓からウィンドランナーたちの飛行訓練の様子を眺めながら、

満足そうに、しかし少しだけぶっきらぼうに言った。


「わしが作った『ドラゴンギア・ミニ』

(ウィンドランナー専用の小型軽量鞍とハーネスだ)も、

奴らの俊敏な動きを邪魔することなく、

荷物の安全な運搬に、しっかりと役立っておるようだしな。

次は、あの嬢ちゃん(リリアのことだ)が言っていた、

薬草専用の、通気性と湿度管理ができる小型コンテナと、

それから、壊れやすいガラス細工なんかを運ぶための、

衝撃吸収材を内蔵したコンテナの開発に取り掛かるつもりだ。

ドワーフの技術の粋を見せてやるわい」


ギドさんが開発してくれた、

ウィンドランナーたちの小さな体に合わせた

様々な種類の小型コンテナは、

彼らの輸送能力を最大限に引き出し、

そして運ぶ荷物の種類を格段に増やす上で、

欠かせないものとなっていた。

手紙や書類専用の薄型ポーチ、

薬瓶を一本ずつ安全に固定できる専用ケース、

そして、複数の小さな荷物をまとめて運べる、

仕切り付きの軽量ボックスなど、

そのバリエーションは、

リリアさんの市場調査の報告と、

俺の現代知識の提案を元に、

日に日に増えていた。


ドラゴンステーションは、

まさに、アースガルド大陸の物流革命の

発信基地として、

力強く、そして賑やかに、

その最初の産声を上げたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ