第89話 風の翼、ドラゴン便へ!
『癒しの竪琴』の奇跡的な音色によって、
長年閉ざされていたウィンドランナーの長老竜の心が、
ついに開かれた。
その日から、
俺たちとウィンドランナーたちとの間には、
少しずつだが、確かな信頼関係が芽生え始めていた。
ケンタは、リュウガと共に、
ウィンドランナーの若者たちと空を飛び、
互いの飛行技術を教え合ったり、
あるいは、風切り峠周辺の地理情報を交換したりした。
ウィンドランナーたちは、
リュウガの圧倒的なスピードとパワーに驚嘆し、
リュウガもまた、
ウィンドランナーたちの俊敏で小回りの利く飛行技術に
感心しているようだった。
リリアさんは、
薬草の知識を活かし、
ウィンドランナーたちの傷の手当てをしたり、
あるいは、彼らが好むという特殊な花の蜜を
集めてきては、おやつとして振る舞ったりした。
その優しさと献身的な姿は、
警戒心の強かったウィンドランナーたちの心を、
少しずつ溶かしていった。
ギドさんは、
ドワーフの鍛冶師としての知識と技術を活かし、
ウィンドランナーたちのねぐらである洞窟の
修繕を手伝ったり、
あるいは、彼らの鋭い爪や牙の手入れをしてやったりした。
最初は、その無骨な外見とぶっきらぼうな口調に
戸惑っていたウィンドランナーたちも、
ギドさんの確かな腕と、
その奥にある不器用な優しさに気づき始め、
次第に彼を信頼するようになっていった。
そして、数週間が過ぎた頃。
ウィンドランナーの長老竜が、
俺たちを再び、崖の上の大きな洞窟へと招いた。
「ケンタよ、リリアよ、そしてギドよ。
お前たちが、我らウィンドランナーに示してくれた真心と、
そして、その『ドラゴン便』という事業が持つ可能性、
この老いぼれにも、ようやく理解できた気がする」
長老竜は、以前よりもずっと穏やかな表情で言った。
その瞳には、もう人間への不信の色はなく、
代わりに、未来への確かな希望の光が宿っている。
「我らウィンドランナーは、
長年、この風切り峠に閉じこもり、
人間との関わりを避けて生きてきた。
だが、お前たちとの出会いが、
我らに、新たな道を示してくれたのかもしれん」
長老竜は、そこで一度言葉を切り、
俺たちの顔を一人一人、じっと見つめた。
「ケンタよ。
お前が目指す、アースガルド大陸の物流革命…
それは、確かに、この世界に大きな変化をもたらすだろう。
そして、その変化は、
我らドラゴンにとっても、
決して悪いものではないのかもしれない。
いや、むしろ、人間とドラゴンが真に共存し、
互いの力を認め合い、
共に未来を築いていくための、
大きな一歩となるのかもしれん」
長老竜の言葉は、
俺の胸を熱く打った。
これこそが、俺がずっと夢見ていたことなのだ。
「そこで、だ。
我らウィンドランナーの一族も、
お前たちの『ドラゴン便』に、
ささやかながら力を貸そうと思う。
この風切り峠で培った、我らの翼と知恵が、
お前たちの事業の役に立つのなら、
これ以上の喜びはない」
「長老殿…!
それは、本当ですか!?」
俺は、思わず叫んでいた。
信じられない!
ウィンドランナーたちが、
俺たちの仲間になってくれるというのか!?
「うむ。
ただし、我らはリュウガ殿のように、
常に人間の指示に従うわけではない。
我らは風の民。自由を愛する者たちだ。
あくまで、対等な協力者として、
お前たちの翼となることを誓おう」
「もちろんです!
それこそが、俺が望んでいた形です!」
俺は、深々と頭を下げた。
これ以上の申し出はない。
その夜、
風切り峠の頂上では、
ウィンドランナーの一族と、
俺たち『ドラゴン便』のメンバー、
そして、どこからか集まってきたピクシー・ドレイクたちが集い、
ささやかな、しかし心温まる誓いの儀式が執り行われた。
長老竜が、古の竜の言葉で、
人間とドラゴンの新たな時代の到来を宣言すると、
ウィンドランナーたちが、
一斉に祝福の咆哮を上げた!
その声は、風切り峠の風に乗り、
アースガルド大陸の隅々まで響き渡るかのようだった。
リュウガも、
新たな仲間たちの誕生を喜び、
力強いブレスを夜空へと放った!
その蒼白い炎は、
満月と星々を背景に、
美しく、そして力強く燃え盛った。
リリアさんは、
ウィンドランナーの子供たちに囲まれ、
楽しそうに竪琴を奏でている。
その音色は、
種族を超えた友情と、
未来への希望を奏でているようだった。
ギドさんも、
ドワーフ秘蔵のエールをウィンドランナーたちに振る舞い、
いつになく上機嫌で、
ドワーフの古い歌を歌っている。
その歌声は、お世辞にも上手いとは言えなかったが、
不思議と心に染みた。
俺は、その光景を、
胸がいっぱいになりながら見つめていた。
元・社畜だった俺が、
異世界に来て、
こんなにも素晴らしい仲間たちと出会い、
こんなにも大きな夢を追いかけることができるなんて…。
それは、まさに奇跡としか言いようがなかった。
ウィンドランナーという、
頼もしい新たな翼を得た『ドラゴン便』。
俺たちの未来は、
さらに大きく、そしてどこまでも高く、
羽ばたいていくことだろう。




