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第76話 氷窟の奥、静寂の主

「…待ちなさい。

彼らは、まだ、敵と決まったわけではありません…」


洞窟の奥から響いてきた、

若く、清らかで、

しかしどこか儚げな女性の声。


その声は、

まるで凍てついた空気を溶かす陽光のように、

俺たちの間に張り詰めていた殺気を、

一瞬にして霧散させた。


黒い刃を振り上げていた仮面の男も、

その仲間たちも、

声がした方角へ向かって、

驚いたように、

そしてどこか畏敬の念を込めたように、

一斉に膝をついた。


「…巫女様…!

なぜ、このような者たちを…」

仮面の男が、戸惑いを隠せない声で呟く。


巫女…?

この洞窟の奥に、そんな存在が…?


俺とリリアさん、ギドさんは、

呆然としながらも、

警戒を解かずに声の主が現れるのを待った。

リュウガも、低い唸り声を収め、

黄金色の瞳で洞窟の奥をじっと見つめている。

ピクシー・ドレイクたちも、

不安そうに俺たちの周りを飛び回っていたが、

やがて静かに俺の肩やリュウガの頭の上にとまった。


やがて、洞窟の奥の暗闇から、

ゆっくりと、一人の女性が姿を現した。


その姿は、

まさに「氷の妖精」とでも言うべきものだった。


腰まで届く、銀色に輝く長い髪。

雪のように白い肌。

そして、まるで氷の結晶をそのまま嵌め込んだかのような、

透き通るほどに青い瞳。

身にまとっているのは、

氷の糸で織られたかのような、

薄青色の簡素なローブだけだ。

だが、その姿からは、

人間離れした神々しさと、

そして、触れれば消えてしまいそうなほどの儚さが漂っていた。


彼女こそが、この『氷晶の洞窟』の主、

そして『氷の守り手』たちが仕える巫女なのだろう。


「…遠方より、よくぞ参られました、旅の方々」

巫女は、俺たちに向かって、

鈴を転がすような、美しい声で言った。

その声には、不思議な力強さと、

そして深い慈愛が込められているように感じられた。


「私は、この『氷晶の洞窟』と、

その奥に眠る『星霜の氷晶せいそうのひょうしょう』を

古より守護する者。

名は、フィーリアと申します」


星霜の氷晶…?

それが、クロウが言っていた『永久氷石』の

本当の名前なのだろうか。

そして、彼女が、その守り手…。


「フィーリア様…

我々は、リンドブルムから参りました、

『ドラゴン便』と申します。

私はケンタ。こちらはリリア、そしてギド。

そして、俺の大切な相棒、リュウガです」

俺は、剣を鞘に収め、

できるだけ丁寧に、そして誠実に名乗った。


「ドラゴン便…

竜と共に空を駆ける、風の運び手ですのね。

その噂は、この氷の果てまで届いておりますわ」

フィーリアは、穏やかに微笑んだ。

その笑顔は、まるで凍てついた花が開くように、

儚く、そして美しかった。


「ですが、フィーリア様。

なぜ、あなたに仕えるこの者たちが、

我々を襲ったのですか?

我々は、ただ『星霜の氷晶』を求めて

ここへ来ただけです。

この地を荒らすつもりなど、毛頭ありません」

俺は、率直な疑問を口にした。


フィーリアは、悲しそうに目を伏せた。

「…彼らは、『氷の守り手』。

この聖域を、そして私を、

外部の脅威から守ることを使命としています。

近年、この洞窟の力を悪用しようとする者たちが

後を絶たないのです。

そのため、彼らも少しばかり過敏になっていたのでしょう。

どうか、お許しください」


彼女の言葉に、

仮面の男たちが、申し訳なさそうに頭を下げた。

どうやら、本当に誤解だったらしい。


「…分かりました。

ですが、我々も、

その『星霜の氷晶』を、

どうしても手に入れたい理由があるのです。

それは、多くの人々の生活を豊かにし、

そして、病に苦しむ人々を救うために、

どうしても必要な力なのです」

俺は、熱意を込めて訴えかけた。

『コールドボックス・マークIII』の構想と、

それが実現すれば、どれだけ多くの可能性が広がるかを、

必死で説明した。


フィーリアは、黙って俺の話に耳を傾けていた。

その青い瞳は、

俺の心の奥底まで見透かしているかのようだ。


やがて、彼女は静かに口を開いた。

「…あなたの言葉に、偽りはないようですね。

そして、その竜…リュウガと名付けましたか。

彼との間には、確かに、

言葉を超えた強い絆があるのを感じます」

フィーリアの視線が、リュウガへと注がれる。

リュウガも、彼女の視線を受け止め、

静かに、しかし力強く頷いた。


「ですが、『星霜の氷晶』は、

あまりにも強大な力を秘めた聖なる石。

それを、そう簡単にお渡しするわけにはいきません。

あなたたちに、その力を正しく使う資格があるのかどうか…

試させていただく必要があります」


試練…!

やはり、そう来たか。


「どんな試練でしょうか?

俺たちは、どんな困難にも立ち向かう覚悟です!」

俺は、迷いなく答えた。


フィーリアは、再び穏やかに微笑んだ。

「よろしいでしょう。

では、あなたたちに、三つの試練を課します。

知恵の試練、勇気の試練、そして…絆の試練。

それら全てを乗り越えた時、

私は、あなたたちに『星霜の氷晶』を託しましょう」


その言葉は、

まるで運命の宣告のように、

氷の洞窟に、静かに、しかし重く響き渡った。

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