第75話 氷の迷宮と黒き刃の襲撃者
「くそっ!
こいつら、一体どこから現れたんだ!?」
俺は、黒い刃を振るう謎の襲撃者たちと
剣を交えながら、悪態をついた。
奴らの動きは、まるで影のように素早く、
そして的確だ。
一人一人の戦闘能力も、
これまでのチンピラや傭兵とは比較にならないほど高い。
何よりも不気味なのは、
奴らが一切言葉を発せず、
ただ機械のように、冷徹に俺たちを攻撃してくることだった。
「ケンタさん! 危ない!」
リリアさんの叫び声に、俺は咄嗟に身を屈めた!
頭上を、黒い刃が風を切って通り過ぎる!
危なかった…!
「嬢ちゃん! 下がってろ!
こいつらは、ただの盗賊じゃねえぞ!」
ギドさんが、金槌で敵の攻撃を弾き飛ばしながら叫ぶ!
その顔には、焦りの色が浮かんでいる。
彼ほどの歴戦の戦士ですら、
この敵には苦戦を強いられているようだ。
「グルルルルァァァァァッ!!」
リュウガも、その巨体と鋭い爪で応戦するが、
敵は巧みにその攻撃を避け、
リュウガの翼や足元を狙って、
執拗に斬りかかってくる!
翼の傷がまだ完全に癒えていないリュウガにとって、
この戦いはあまりにも不利だった。
(スキルウィンドウ!
敵の情報を!
…ダメだ! 『識別不能』の表示ばかりだ!
こいつら、何らかの魔法で自分の情報を隠蔽しているのか!?)
俺は、歯がゆさで唇を噛みしめた。
スキルが役に立たないとなると、
俺にできることは限られてくる。
「ピィィィィッ!」
その時、俺たちの周りを飛び回っていた
ピクシー・ドレイクたちが、
一斉に甲高い鳴き声を上げ、
襲撃者たちに向かって、
小さな光の玉のようなものを放ち始めた!
それは、大した威力はないものの、
敵の目を眩ませ、動きをわずかに鈍らせる効果があった。
「よし、チビすけたち、よくやった!」
俺は、ピクシー・ドレイクたちの思わぬ援護に勇気づけられ、
再び剣を構え直した!
「ギドさん!
このままじゃジリ貧です!
一度、洞窟の中に退いて体勢を立て直しましょう!」
俺は叫んだ。
この開けた場所では、数の上で不利な俺たちが圧倒的に不利だ。
洞窟の中の狭い通路なら、あるいは…。
「フン、小僧のくせに、なかなか良い判断だ!
よし、行くぞ!」
俺たちは、互いを庇い合いながら、
ゆっくりと後退を開始した。
襲撃者たちは、なおも執拗に追ってくる!
洞窟の内部は、
外から見た以上に複雑な迷路のようになっていた。
壁も床も天井も、全てが美しい氷でできており、
それが乱反射する光で、方向感覚が狂いそうだ。
だが、この複雑な地形が、
逆に俺たちにとっては有利に働くかもしれない。
「リュウガ!
この狭い通路なら、お前の巨体で敵の進路を塞げるはずだ!
俺とギドさんで、左右から挟み撃ちにする!」
「グルゥ!」
俺たちは、洞窟の奥へと進みながら、
襲撃者たちを迎え撃つための陣形を整える。
リリアさんは、後方で回復薬や支援の準備。
ピクシー・ドレイクたちは、
斥候として周囲の警戒にあたってくれている。
やがて、追ってきた襲撃者たちが、
氷の通路の向こうに姿を現した。
その数は、十数人。
先頭に立つのは、ひときわ体格が良く、
そして禍々しいオーラを放つ、
仮面をつけた男だった。
あいつが、この部隊のリーダーか…!
「…見つけたぞ、異分子どもめ。
お前たちが、この聖域を汚すことは許さん」
仮面の男が、初めて低い声で言った。
その声には、一切の感情が感じられない。
「聖域だと…?
お前たちこそ、何者なんだ!
なぜ俺たちを襲う!?」
俺は、剣先を男に向けながら叫んだ。
「我らは、『氷の守り手』。
この洞窟と、その奥に眠る『大いなる力』を、
古より守護する者たちだ。
お前たちのような余所者が、
安易に足を踏み入れて良い場所ではない」
大いなる力…?
それが、『永久氷石』のことなのか?
それとも、もっと別の何か…?
「俺たちは、ただ『永久氷石』を求めてここへ来ただけだ!
別に、この場所を荒らすつもりはない!」
「問答無用。
この地を汚す者は、全て排除する。
それが、我らの使命だ」
仮面の男は、冷たく言い放つと、
黒い刃を俺たちに向けた!
「くそっ、話が通じねえ!」
再び、激しい戦闘が始まった!
狭い氷の通路で、
剣と金槌、そして竜の爪牙が、
黒き刃と火花を散らす!
リリアさんの支援魔法(もし使える設定なら)や薬草が、
俺たちの傷を癒し、力を与えてくれる!
ピクシー・ドレイクたちの小さな光の玉が、
敵の目を眩ませ、動きを封じる!
だが、敵は手強かった。
特に、仮面の男の剣技は凄まじく、
ギドさんですら、押され気味だ。
リュウガも、翼の傷を庇いながらの戦いで、
思うように力を発揮できない。
(このままでは…!)
俺の心に、再び焦りが生まれる。
その時だった。
ガァァァン!!!
ギドさんの金槌が、
仮面の男の剣を、強引に弾き飛ばした!
その衝撃で、男の仮面が僅かにずれ、
その下から、信じられないものが覗いた!
「なっ…!?」
俺は、息を呑んだ。
それは、人間のものではなかった。
青白い肌、尖った耳、そして、
氷のように冷たい、赤い瞳…。
「こいつら…人間じゃないのか…!?」
仮面の男は、忌々しそうに仮面を直し、
さらに強力な魔力を放ち始めた!
洞窟全体が、ビリビリと震える!
「終わりだ、異分子どもめ。
ここで、氷の藻屑となるがいい!」
仮面の男が、黒い刃を振り上げた、その瞬間!
洞窟の奥から、
さらに強力な、そして神々しいほどの魔力が、
まるで奔流のように溢れ出してきた!
そして、声が響いた。
『…待ちなさい。
彼らは、まだ、敵と決まったわけではありません…』
その声は、
若く、清らかで、
しかしどこか儚げな、
女性の声だった…。
俺たちは、呆然と、
声のした洞窟の奥を見つめるしかなかった。
そこには、一体何が…?
そして、この声の主は…?
俺たちの、氷晶の洞窟での冒険は、
まだ始まったばかりだということを、
俺は、改めて痛感させられていた。




