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第66話 英雄の帰還

リンドブルムを襲った未曾有の大水害。

その脅威が過ぎ去り、

街には少しずつ、

しかし確実に日常の光が戻りつつあった。


泥にまみれた家々を清掃する人々。

壊れた橋を修復する職人たち。

そして、畑に新たな種を蒔こうとする農夫たちの姿。

そのどれもが、

この街の力強い生命力を物語っているようだった。


そして、そんな復興の槌音と共に、

俺たち『ドラゴン便』の名は、

リンドブルムの英雄として、

人々の心に深く、温かく刻み込まれていた。


「ドラゴン便の旦那!

先日は本当にありがとうよ!

あんたたちがいなけりゃ、

うちの孫は助からなかったかもしれん!」


「ケンタさん! リュウガさん!

これ、うちで採れたばかりの野菜だけど、

よかったら食べてくれ!」


街を歩けば、

あちこちから感謝の言葉と、

温かい差し入れが届けられる。

その度に、俺は少し照れくさいような、

しかし胸の奥がじんわりと熱くなるような、

そんな気持ちになった。

リュウガも、以前のように人々から

恐れられることはなくなり、

子供たちが差し出す木の実を、

嬉しそうに鼻先で受け取るようになっていた。


リンドブルム領主アルフォンス侯爵からも、

改めて正式な感謝状と、

そして莫大な報奨金が贈られた。

それは、俺たちが想像していた以上の金額で、

『ドラゴンステーション』建設のための資金として、

これ以上ないほどの大きな助けとなった。

さらに、街の商人たちや、

俺たちが救援物資を届けた村々からも、

多くの寄付金が寄せられた。

それは、金銭的な価値以上に、

人々の温かい想いが詰まった、

かけがえのない宝物だった。


「ケンタさん…!

こんなにたくさんのご支援をいただけるなんて…

夢みたいです…!」

リリアさんは、事務所に届けられた寄付金の袋を前に、

感動で声を詰まらせていた。


「ああ…これも、

俺たちを信じてくれた人々と、

そして何より、

命懸けで頑張ってくれたリュウガと、

ピクシー・ドレイクたちのおかげだな」

俺は、隣で満足そうにしているリュウガの首筋を撫でた。

小さなピクシー・ドレイクたちも、

まるで自分たちの手柄のように、

誇らしげに俺たちの周りを飛び回っている。


「フン、まあ、たまには役に立つこともあるんだな、

お前たちも」

ギドさんは、ぶっきらぼうな口調ながらも、

その目には、確かな満足の色が浮かんでいた。


こうして、中断していた

『ドラゴンステーション』の建設作業は、

以前にも増して活気に満ちた形で再開された。


領主様から提供された、

丘の麓の広大な牧草地。

そこには、ギドさんの指揮のもと、

リンドブルム中から集まった腕利きの職人たちや、

そして、俺たちの活動に共感してくれた

多くのボランティアの市民たちが、

汗を流して働いていた。


リュウガ専用の巨大な厩舎の骨組みは、

みるみるうちに組み上がり、

ギドさんのための新しい鍛冶工房も、

その頑丈な石壁が天に向かって伸びていく。

荷物の仕分けと保管を行う倉庫エリアには、

効率的な動線を考慮した基礎が築かれ、

俺が夢見た物流拠点が、

少しずつ、しかし確実に形になっていく。


そして、そんな建設現場で、

ピクシー・ドレイクたちは、

もはや欠かせない小さな働き手となっていた。

彼らは、その小さな体と俊敏な動きを活かし、

職人たちの間を飛び回り、

道具を運んだり、伝言を伝えたり、

時には、高所での危険な作業を手伝ったりもした。

その姿は、まるで建設現場を舞う小さな妖精のようで、

作業員たちの心を和ませ、

そして、作業効率を格段に上げていた。


「いやあ、あのチビ竜たち、

本当に賢くて働き者だなあ!

あいつらがいなけりゃ、

この作業ももっと時間がかかってただろうよ!」

ドワーフの職人たちが、

ピクシー・ドレイクたちに果物を与えながら、

感心したように言った。


夜、建設現場を見下ろす丘の上で、

俺はリリアさんとギドさんと共に、

完成に近づきつつあるドラゴンステーションの

全体像を眺めていた。

松明の灯りに照らし出されたその姿は、

まだ骨組みだけではあるが、

それでも、俺たちの夢と希望が詰まった、

壮大な城のように見えた。


「ケンタさん…

本当に、すごいですね…。

私、ケンタさんが初めてこの話をしてくれた時、

正直、夢物語なんじゃないかって思ってました。

でも、こうして形になっていくのを見ると…

本当に、実現するんだなって…」

リリアさんの声は、感動で震えていた。

その瞳には、星空が映り込み、

キラキラと輝いている。


「フン、まだ始まったばかりだぞ、嬢ちゃん。

このステーションが本当に機能するかどうかは、

これからの俺たちの働きにかかっているんだからな。

だが…まあ、悪くない眺めだ」

ギドさんは、腕を組みながら、

満足そうに頷いた。


俺も、胸に込み上げてくる熱いものを感じていた。

社畜だった俺が、異世界に来て、

こんなにも素晴らしい仲間たちと出会い、

こんなにも大きな夢を追いかけることができるなんて…。

それは、まさに奇跡のようだった。


「ああ、まだ始まったばかりだ。

でも、俺たちなら、きっとできる。

このドラゴンステーションを、

アースガルド大陸一の物流拠点にしてみせる。

そして、この翼で、

もっとたくさんの人々に、

笑顔と幸せを届けるんだ」


俺は、夜空に輝く満月に向かって、

改めて、強く、強く誓った。

隣では、リリアさんとギドさんが、

そして、丘の麓の厩舎で静かに寝息を立てているリュウガが、

その誓いを、確かに聞いていてくれるような気がした。


リンドブルムの風が、

俺たちの熱い想いを乗せて、

未来へと吹き抜けていった。

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