第65話 決死の救援飛行
リンドブルムを襲った未曾有の大水害。
その爪痕は深く、
街と村々を結ぶ道は寸断され、
多くの人々が孤立し、助けを待っていた。
そんな絶望的な状況の中、
俺たち『ドラゴン便』は、
決死の救援活動を開始した。
「ケンタさん、これが救援物資のリストです!
食料、清潔な水、毛布、そして何よりも、
感染症を防ぐための薬と、怪我の手当てに必要な包帯…
できる限り集めました!」
リリアさんが、薬屋の地下倉庫から、
山のような物資を運び出しながら、
息を切らせて報告する。
その顔は疲労で青白いが、
瞳の奥には、使命感に燃える強い光が宿っていた。
「ありがとう、リリアさん!
これだけあれば、多くの人を助けられるはずだ!」
一方、ギドさんは、
徹夜で工房に籠り、
リュウガのための特別な救援装備を開発していた。
そして、夜明けと共に、
驚くべきものを完成させて俺たちの前に現れた。
「どうだ、小僧!
これぞ、ドワーフの技術の粋を集めた、
『緊急物資投下ユニット』だ!」
ギドさんが、誇らしげに胸を張って見せたのは、
リュウガの腹部に装着できる、
特殊な金属フレームと、丈夫な革袋で作られた、
複数のコンテナだった。
それぞれのコンテナには、
異なる種類の物資を分けて収納でき、
さらに、上空から狙った場所に正確に投下するための、
巧妙な仕掛けが施されているという。
「すごい…!
これなら、悪天候の中でも、
安全かつ確実に物資を届けられますね!」
俺は、その精巧な作りに目を見張った。
「フン、当たり前だ。
それと、リュウガの目元を保護するための、
特製の風防ゴーグルも作っておいた。
これなら、多少の雨風の中でも視界を確保できるはずだ」
ギドさんは、ぶっきらぼうに言いながらも、
その顔には、確かな自信が浮かんでいる。
「ギドさん…本当にありがとうございます!」
俺は、心の底から感謝した。
この頑固なドワーフの職人がいなければ、
俺たちの挑戦は、もっとずっと困難なものになっていただろう。
準備は整った。
俺は、改良された『ドラゴンギア Lv.2(試作品)』を身に着け、
リュウガの背に跨った。
リュウガも、ギドさん特製の風防ゴーグルを装着し、
腹部には『緊急物資投下ユニット』をしっかりと固定している。
その姿は、まるで戦場へ赴く騎士と軍馬のようだ。
「ケンタさん、リュウガさん、
どうか、ご無事で…!」
リリアさんが、涙を堪えながら俺たちを見送る。
「ああ、必ず戻ってくる!
そして、一人でも多くの人を助けてくる!」
俺は力強く頷き、リュウガに合図を送った。
「行くぞ、リュウガ!
リンドブルムの空へ!」
「グルルルルルァァァァァッ!!!」
リュウガは、天を衝く雄叫びと共に、
荒れ狂う風雨の中へと、力強く飛び立った!
眼下には、濁流に覆われた大地が広がり、
孤立した村々が、まるで小さな島のようだ。
その光景は、俺の胸を締め付ける。
(待ってろよ、みんな…!
必ず、助けに行くからな!)
スキルウィンドウのマップ機能と、
リリアさんが作成した被災状況のリストを頼りに、
俺たちは、まず最も被害の大きい村から順番に
救援物資を届けていく。
風は強く、雨は視界を遮る。
リュウガの翼は、何度も激しい突風に煽られ、
機体が大きく揺れる。
だが、リュウガは怯むことなく、
俺の指示に従い、巧みに風を避け、
雲の切れ間を縫うようにして飛行を続けた。
その背中は、頼もしく、そして温かい。
「よし、最初の村が見えてきたぞ、リュウガ!
高度を下げて、投下準備だ!」
村の上空に到達すると、
地上では、俺たちの姿に気づいた村人たちが、
驚きと、そして安堵の表情を浮かべて手を振っているのが見えた。
その中には、子供たちの姿も見える。
「今だ、リュウガ!
このコンテナを、広場の中央へ!」
俺の合図で、リュウガが腹部の投下ユニットを操作する。
食料と水が詰められたコンテナが、
正確に広場の中央へと投下された。
地上からは、歓声と感謝の声が聞こえてくる。
俺たちは、次々と孤立した村々を回り、
食料、水、毛布、そして何よりも貴重な医薬品を届け続けた。
時には、急病人をリュウガの背に乗せ、
リンドブルムの街の医者の元へと緊急輸送することもあった。
そして、そんな俺たちの救援活動を、
小さな翼で、健気に手伝ってくれる者たちがいた。
ピクシー・ドレイクたちだ。
彼らは、俺たちの周りを飛び回り、
孤立した村の正確な位置を知らせてくれたり、
あるいは、軽い薬草の包みなどを、
リュウガが入れないような狭い場所へ運んでくれたりした。
その小さな体で、一生懸命に働く彼らの姿は、
俺たちにとって、大きな勇気となった。
数日間にわたる、決死の救援飛行。
俺もリュウガも、疲労はピークに達していた。
だが、地上で助けを待つ人々のことを思うと、
休んでいる暇などなかった。
そして、ついに、
リンドブルム地方を覆っていた雨雲が切れ、
空には久しぶりに太陽の光が差し込んできた。
川の氾濫も徐々に収まり、
街道の復旧作業も少しずつ始まりつつあった。
俺たち『ドラゴン便』の献身的な活動は、
多くの人々の命を救い、
被害の拡大を食い止めることに貢献した。
リュウガの、そしてピクシー・ドレイクたちの空飛ぶ姿は、
リンドブルムの市民たちの脳裏に、
恐怖の対象としてではなく、
希望の象徴として、深く刻み込まれたのだ。
「ケンタさん…リュウガさん…
本当に、ありがとうございました…!」
救援活動を終え、
泥まみれで事務所に戻ってきた俺たちを、
リリアさんが、涙と笑顔で出迎えてくれた。
その隣では、ギドさんが、
満足そうに、しかし少し照れくさそうに頷いている。
リンドブルムの領主アルフォンス侯爵からも、
後日、正式な感謝状と、
これまでの功績を称える莫大な報奨金が贈られた。
そして、『ドラゴン便』は、
リンドブルムの民衆から、
「リンドブルムの守護竜」「空飛ぶ英雄」として、
かつてないほどの称賛と信頼を寄せられることになったのだ。
運送ギルドのゴードンが失脚し、
そして、この未曾有の天災を乗り越えたことで、
『ドラゴン便』の名声は、
リンドブルムにおいて、不動のものとなった。




