第60話 動き出す未来図 ~ドラゴンステーション建設への第一歩~
ピクシー・ドレイクたちとの出会いは、
俺の心に、新たな希望の種を蒔いた。
リュウガだけに頼るのではなく、
様々な能力を持つドラゴンたちと協力し、
それぞれの得意分野を活かした、
よりきめ細やかで、効率的な輸送サービスを提供する。
それは、『ドラゴン便』の可能性を
無限に広げる夢物語のように思えた。
だが、その夢を実現するためには、
乗り越えなければならない大きな壁があった。
それは、複数のドラゴンを安全に管理し、
彼らが安心して集い、休息し、
そしてそれぞれの能力を最大限に発揮できるための、
専用の「拠点」の確保だ。
今の俺たちの事務所(という名のボロ小屋改築版)と、
集荷ポイント(旧見張り小屋)は、
増え続ける荷物で、もはやパンク寸前だった。
薬草、鉱石、食料品、織物、書物、そして生活雑貨…。
ありとあらゆる種類の荷物が、
仕分けもままならない状態で、ごちゃ混ぜに置かれている。
これでは、荷物の取り違えや破損のリスクも高まるし、
何より作業効率が悪すぎる。
リュウガの休息場所も問題だった。
今の隠れ家である崖下の洞窟は、
人目につかないという点では申し分ないが、
やはり手狭で、
リュウガが翼を広げて十分に羽を休めるには
窮屈すぎる。
それに、ギアのメンテナンスを行うにも、
十分なスペースと設備がない。
もし、ピクシー・ドレイクたちが仲間になってくれるとしても、
彼らが安心して過ごせる場所を用意してやらなければならない。
「やっぱり、ちゃんとした『拠点』が必要だな…」
俺は、前職で何度も訪れた、
巨大な「物流センター」や「配送ターミナル」の光景を
脳裏に思い浮かべていた。
広大な敷地に建てられた、機能的な倉庫。
荷物の種類や行き先に応じて効率的に仕分けされるシステム。
何十台ものトラックが整然と出入りするプラットフォーム。
そして、ドライバーたちが休息を取るための快適な休憩施設…。
(そうだ…
荷物を安全に、効率よく集め、
仕分けし、一時保管し、
そして、アースガルド大陸の各地へ、
最適なタイミングで送り出すための、
専用の拠点…)
(そこには、リュウガが安心して休息し、
思う存分翼を広げられる、広大な厩舎と訓練場が必要だ。
ピクシー・ドレイクたちのような小型のドラゴンたちが、
安全に集える小さな森や、水場もあるといいかもしれない。
ギドさんが、最高の技術でギアを整備し、
新しい装備を開発できる、本格的な鍛冶工房もいる。
リリアさんが、お客さんの依頼を笑顔で受け付け、
荷物の情報を的確に管理できる、
明るくて機能的なオフィスも作りたい。
そして、遠方から来た商人や、
俺たち自身の仲間たちが、
安心して体を休められる、ささやかな宿泊施設も…)
俺の頭の中で、
壮大な構想が、
まるで設計図のように組み上がっていく。
その名も…
「…『ドラゴンステーション』だ!」
俺は、思わず声を上げていた。
それは、単なる荷捌き場ではない。
『ドラゴン便』の心臓部であり、
アースガルド大陸の物流革命の拠点となる、
まさに夢の物流ターミナルだ!
多種多様なドラゴンたちが集い、
それぞれの能力を活かして働く、
前代未聞の物流ハブ!
「リリアさん! ギドさん!
ちょっと聞いてもらいたいことがあるんだ!」
俺は、興奮を抑えきれないまま、
事務所で帳簿付けをしていたリリアさんと、
工房で新しいコンテナの試作品に取り組んでいたギドさんを
呼び集めた。
そして、俺が思い描いた
「ドラゴンステーション」の構想を、
ピクシー・ドレイクたちとの出会いの話も交えながら、
熱っぽく語り始めた。
最初は、俺のあまりにも突拍子もない話に、
ぽかんとした顔で聞いていたリリアさんとギドさんだったが、
俺の言葉に込められた熱意と、
その構想の壮大さ、
そして何よりも、その実現の可能性を感じ取ったのか、
次第にその表情は真剣なものへと変わっていった。
「…すごい…!
ケンタさん、そんなことを考えていたんですね…!
色々なドラゴンさんたちが一緒に働く場所…
なんだか、想像するだけでワクワクします!」
リリアさんの瞳は、
憧れと興奮で、星のようにキラキラと輝いている。
彼女の優しい心は、
きっとドラゴンたちともすぐに打ち解けられるだろう。
「フン…小僧、
また途方もないことを考えおって…。
だが…面白い!
その『ドラゴンステーション』とやら、
わしのドワーフとしての技術の全てを注ぎ込んで、
この世で最も堅牢で、最も機能的な拠点にしてやるわい!
大小様々な竜どもが、安全に、そして快適に過ごせるような、
最高のねぐらと工房を作って見せようぞ!」
ギドさんの顔には、
いつもの不機嫌さは微塵もなく、
代わりに、新たな挑戦への燃えるような闘志が漲っていた。
彼の職人魂が、再び熱く燃え上がったのだ。
俺たちの夢が、
また一つ、大きく、そして確かに動き出そうとしていた。
「よし、次のステップだ」
俺は、仲間たちの力強い言葉に勇気づけられ、
新たな決意を固めた。
「この計画を実現するためには、
まず、リンドブルムの領主様の許可と、
そして、このステーションを建設するための
広大な土地が必要になる。
明日、俺が直接、領主様の元へ出向き、
この計画を説明し、協力を願い出てみるつもりだ」
「ケンタさん…!
領主様に、ですか…?」
リリアさんの顔に、緊張の色が浮かぶ。
無理もない。
俺たちのような、まだ実績も少ない若者が、
いきなり領主に直談判しようというのだから。
「ああ。無謀かもしれない。
だが、俺たちの『ドラゴン便』が、
そしてこの『ドラゴンステーション』が、
リンドブルムの未来にとって、
どれほど重要で、どれほどの可能性を秘めているか、
それを熱意をもって伝えれば、
きっと理解してくれるはずだ。
俺は、そう信じている」
俺の言葉に、
リリアさんとギドさんは、
力強く頷いてくれた。
「ケンタさんなら、きっとできます!
私、応援しています!
もし、小型のドラゴンさんたちがお手伝いしてくれるなら、
私、お世話係とか、やってみたいです!」
リリアさんの目は、もう未来を見据えている。
「フン、せいぜい頑張るんだな、小僧。
だが、あまり無茶な要求をして、
領主様の機嫌を損ねるんじゃないぞ。
まあ、お前さんのその熱意なら、
石頭の貴族でも動かせるかもしれんがな」
ギドさんは、いつものように憎まれ口を叩きながらも、
その声には確かな期待が込められていた。
仲間たちの言葉を胸に、
俺は、翌日、リンドブルムの領主の館へと
向かう決意を固めた。




