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第57話 ギドの工房と「ユニットロード」の夢

「規格化された…箱、だと?」


俺の提案に、

ギドさんは、長い顎髭を扱きながら、

訝しげに眉をひそめた。

そのドワーフ特有の鋭い目が、

俺の真意を探るように、じっとこちらを見据えている。


「はい。

今の網カゴだと、どうしても荷物の形や大きさによって

無駄なスペースができてしまうんです。

それに、壊れやすいものや、

特別な管理が必要なものを運ぶのにも限界があって…」


俺は、羊皮紙の上に、

前職で馴染みのあったパレットやコンテナの簡単な絵を描きながら、

『ユニットロードシステム』の概念を説明しようと試みた。


「例えば、こう…

ある程度の大きさの頑丈な『箱』をいくつか用意して、

その中に荷物を効率よく詰めるんです。

そして、その『箱』ごと、

リュウガの体にしっかりと固定して運ぶ。

そうすれば、積み下ろしの時間も短縮できるし、

荷物の破損も防げる。

それに、運ぶ荷物の種類に合わせて、

『箱』の仕様を変えることもできるはずです。

例えば、薬草専用の通気性の良い箱とか、

壊れやすい陶器を運ぶための衝撃吸収材が入った箱とか…」


俺は、前職で叩き込まれた物流の知識を、

この異世界のドワーフにも分かるように、

必死で言葉を選びながら説明した。

だが、ギドさんの表情は、依然として厳しいままだ。


「フン…つまり、

荷物をわざわざ一度箱に詰めてから、

さらにそれを竜に積むと、

そういう二度手間をしろというのか?

馬鹿馬鹿しい。

そんな面倒なことをするくらいなら、

最初から荷物を直接、

もっと上手に積み込む方法を考えた方がマシだろうが」


ギドさんは、俺のアイデアを

一蹴するように言った。

やはり、この頑固なドワーフに、

現代の物流システムを理解してもらうのは難しいのか…。


「で、でもギドさん!

それだけじゃないんです!

もし、その『箱』の大きさをある程度統一できれば…

例えば、リンドブルムとヴェリタスの間で、

同じ規格の『箱』を使い回すことができれば、

荷物の積み替えもスムーズになりますし、

倉庫での保管効率も格段に上がるはずです!

それに…」


俺は、さらに言葉を続けようとしたが、

それを遮るように、

工房の入り口から、リリアさんの声が聞こえた。


「ケンタさんの言う通りかもしれません、ギドさん!」


リリアさんが、

薬草の入った籠を片手に、

心配そうな顔で工房に入ってきた。

どうやら、俺とギドさんの白熱した議論が、

外まで聞こえていたらしい。


「リリアさん…」


「ごめんなさい、立ち聞きするつもりはなかったんですけど…

でも、私もケンタさんの『特別な箱』のアイデア、

すごく良いと思うんです!」

リリアさんは、俺の隣に立つと、

ギドさんに向かって、はっきりとした口調で言った。


「例えば、私が扱う薬草の中には、

光に当ててはいけないものや、

特定の湿度を保たないとすぐに薬効が落ちてしまうものが

たくさんあるんです。

今の網カゴでは、そういうデリケートな薬草を

遠くまで運ぶのは、とても難しい…。

でも、もし、そういう薬草専用の、

光を通さなくて、湿度も保てるような『箱』があったら…

どれだけ多くの人を助けられるか…!」

リリアさんの瞳は、

薬師としての使命感と、

そして新しい可能性への期待で、

キラキラと輝いていた。


ギドさんは、

リリアさんの真剣な言葉に、

しばらく黙って耳を傾けていた。

そして、ふぅ、と大きなため息をつくと、

再び俺が描いたコンテナのラフスケッチに目を落とした。


「…ふむ。

薬屋の嬢ちゃんの言うことにも、一理あるか。

確かに、特定の荷物を最適な状態で運ぶためには、

それ専用の『容器』が必要になるかもしれんな。

そして、その『容器』の大きさをある程度揃えておけば、

竜の体に固定する際の安定性も増すだろうし、

重心のバランスも取りやすくなるかもしれん…」


ギドさんの目が、

再び職人のそれへと変わっていく。

彼は、炭筆を手に取ると、

俺の描いた稚拙なスケッチの上に、

ドワーフならではの精密な線で、

何やら新しい構造を描き込み始めた。


「だがな、小僧。

お前が言うような、

軽くて丈夫で、しかも特殊な機能まで持った『箱』なんぞ、

そう簡単に作れるものではないぞ。

最高の素材と、最高の技術がなければ、

ただのガラクタにしかならん」


「はい、分かっています!

でも、ギドさんの技術があれば、きっと…!」


「フン、おだてても何も出んぞ。

だが…まあ、試してみる価値はあるかもしれんな。

特に、あの嬢ちゃんが言う『薬草専用の箱』とやらは、

面白そうだ。

わしのドワーフとしての血が、少しばかり騒ぎおるわい」


ギドさんは、そう言うと、

工房の奥から、古びた羊皮紙の束を取り出してきた。

それは、ドワーフ族に代々伝わる、

特殊な金属の精錬方法や、

魔力を帯びた素材の加工技術などが記された、

門外不出の秘伝書のようだった。


「いいか、小僧。

お前が夢見るような『万能コンテナ』を作るには、

まず、その核となる『フレーム構造』と、

そして、様々な機能を付加するための『モジュール機構』が

必要になるだろう。

フレームには、やはりアダマンタイト合金を使うのが理想だが…

あれは、そう簡単には手に入らん代物だ。

まずは、もっと手に入りやすい素材…

例えば、黒鉄鉱と硬化させた獣の骨を組み合わせた合金で、

試作品を作ってみるか…」


ギドさんは、

工房の炉に新たな薪をくべながら、

ブツブツと独り言のように呟き始めた。

その顔は、いつになく真剣で、

そして、どこか楽しそうにも見える。

新しい挑戦が、

この頑固なドワーフの職人魂に火をつけたのかもしれない。


「リリアさん、ありがとう。

君のおかげで、ギドさんも本気になってくれたみたいだ」

俺は、隣に立つリリアさんに、そっと感謝の言葉を伝えた。


「いえ…私、何も…。

でも、もし本当にそんな『特別な箱』ができたら、

もっとたくさんの人を助けられるようになりますね!

私、すごく楽しみです!」

リリアさんは、嬉しそうに微笑んだ。


こうして、

俺の現代知識と、リリアさんの薬師としての視点、

そしてギドさんのドワーフとしての技術が融合し、

異世界初の『輸送用ユニットロードコンテナ』開発への

第一歩が、静かに踏み出されたのだった。


それは、まだ小さな、小さな一歩かもしれない。

だが、この一歩が、

やがてアースガルド大陸の物流を根底から覆す

大きな革命へと繋がっていくことを、

この時の俺たちは、まだ知る由もなかった。


ギドの工房の炉の火が、

まるで未来を照らし出すかのように、

赤々と燃え盛っていた。



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