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第56話 ヴェリタス定期便、順風満帆? ~新たなる船出と最初の課題~

リンドブルムに真の平和が訪れ、

運送ギルドの圧政から解放された街は、

まるで長い冬から目覚めたかのように、

日増しに活気を取り戻していた。


そして、俺たち『ドラゴン便』もまた、

新たなステージへと翼を広げようとしていた。


ヴェリタスの大商人、マードック氏との間で交わされた

独占的な定期輸送契約。

それは、俺たちの事業にとって、

まさに追い風となるものだった。


「ケンタさん、マードック様からの最初の正式な依頼リストです!

リンドブルムからは、やはり高品質な薬草と、

それからギルドが押さえていたせいで市場に出回らなかった

特産の『虹色鉱石』を大量に、とのことです!」


リリアさんが、少し興奮した面持ちで、

羊皮紙のリストを俺に手渡した。

その瞳は、新しい取引への期待でキラキラと輝いている。

彼女はもう、ただの薬屋の娘じゃない。

『ドラゴン便』の運営に不可欠な、

頼れるビジネスパートナーだ。


「虹色鉱石か…!

あれは確か、武具の装飾や、

特殊な染料の原料として高値で取引されるんだったな。

よし、これは大きな利益が見込めるぞ!」


俺は、リストに目を通しながら、

胸の高鳴りを抑えきれなかった。

これまでは、日々の依頼をこなすのに精一杯で、

まとまった利益を出すのは難しかった。

だが、このヴェリタスとの定期便が軌道に乗れば、

経営は格段に安定する。

そうなれば、ギドさんに依頼している

『ドラゴンギア Lv.2』の本格的な開発や、

いつかは実現させたい『特殊コンテナ』の製作も、

夢物語ではなくなるかもしれない。


「リュウガ、いよいよ俺たちの新しい仕事が始まるぞ!

お前も、この新しいギアの性能を存分に試せるな!」


俺は、事務所の隣に作られたリュウガ専用の厩舎で、

丹念に羽繕いをしている相棒に声をかけた。

ギドさんが、これまでの戦いのデータを元に

改良を重ねてくれた『ドラゴンギア Lv.2(試作品)』は、

以前のLv.1改とは比べ物にならないほど軽量で、

かつ頑丈な作りになっていた。

リュウガの体に完璧にフィットするように調整された鞍は、

長時間の飛行でも疲れにくく、

荷物カゴも、いくつかの種類が用意され、

積荷に合わせて付け替えられるようになっている。


「グルルゥ!」

(任せておけ!)

リュウガは、誇らしげに一声鳴き、

その瑠璃色の巨体をしなやかに動かした。

翼の傷も完全に癒え、

その瞳には、大空への渇望と、

俺への絶対的な信頼が満ち溢れている。


数日後、記念すべきヴェリタスへの第一回定期便の日がやってきた。


リンドブルムの集荷ポイントには、

早朝からマードック氏の依頼した薬草や虹色鉱石が

山と積まれている。

俺とリリアさん、そして手が空いた時にはギドさんも手伝って、

それらを種類別に仕分けし、

リュウガの新しい荷物カゴへと丁寧に積み込んでいく。


「それにしても、すごい量ですね、ケンタさん!

これだけの荷物を一度に運べるなんて、

リュウガさんと新しいギアのおかげですね!」

リリアさんが、額の汗を拭いながら感嘆の声を上げる。


「ああ、本当に助かるよ。

これまでの網カゴじゃ、こうはいかなかったからな」


積み込み作業を終え、

俺はリリアさんとギドさんに見送られ、

リュウガと共にヴェリタスへと飛び立った。

空は快晴、風も穏やか。

まさに、新しい船出にふさわしい日だった。


『ドラゴンギア Lv.2(試作品)』の性能は、

想像以上だった。

リュウガの動きはより軽快になり、

飛行速度も明らかに向上している。

何よりも、鞍の安定性と快適性が格段に増し、

俺自身の疲労も大幅に軽減された。

これなら、ヴェリタスまでの約150kmの距離も、

以前よりずっと楽に、そして安全に飛べるだろう。


スキルウィンドウのナビゲーションも、

新しいギアの性能に合わせて最適化されているようで、

より精密な飛行ルートと、

リアルタイムの気象情報を提供してくれる。

本当に頼りになる相棒だ。


順調な飛行を続け、

俺たちは予定よりも少し早くヴェリタスに到着した。

マードック氏の商館では、

彼自らが出迎え、

俺たちの迅速な仕事ぶりに改めて感嘆の声を上げた。


「素晴らしい!

ケンタ殿、そしてリュウガ殿!

これほどの量の荷物を、

これほど早く、そして正確に届けていただけるとは!

我が商会の未来は、ますます明るいですぞ!」

マードック氏は、上機嫌で俺たちの労をねぎらってくれた。


そして、彼は、

リンドブルムへの帰り荷として、

ヴェリタス特産の高級ワインや、

希少な香辛料、

そしてリンドブルムでは手に入りにくい書物などを、

リュウガの荷物カゴに満載してくれた。


「帰りも空荷では、効率が悪うございましょう?

これらの品々は、リンドブルムでも必ずや

喜ばれるはずです。

売れ行きが良ければ、

これも定期的な取引とさせていただきたいですな」

マードック氏の商才には、本当に頭が下がる。

帰り荷の確保は、物流コストを削減し、

収益性を高める上で非常に重要なのだ。

俺が説明するまでもなく、

彼はそのことを完璧に理解していた。


「ありがとうございます、マードックさん!

必ず、大切にお届けします!」


俺は、再びリュウガの背に跨り、

今度はヴェリタスからの荷物を積んで、

リンドブルムへの帰路についた。

行きも帰りも荷物で満載。

これぞ、理想的な物流の形だ。


だが、ここで新たな課題が顔を出した。


帰り荷は、多種多様な品物で構成されていた。

壊れやすいワインの瓶、

香りが命の香辛料の袋、

そして、様々な大きさや形の書物…。

それらを、限られたスペースの荷物カゴに、

いかに効率よく、そして安全に積み込むか。

それが、想像以上に難しい作業だったのだ。


(くそっ…ワインの瓶が、どうしても他の荷物と干渉して、

スペースに無駄ができてしまう…!

香辛料の袋は、潰れないように上に積みたいが、

そうすると安定性が悪くなる…!)


俺は、荷物カゴの前でうんうん唸りながら、

何度も積み直しを繰り返した。

前職で、トラックの荷台にパズルのように荷物を積み上げていた

ベテランドライバーたちの技術を思い出す。

彼らは、荷物の形状、重さ、強度、そして配達順まで考慮して、

まさに神業のような積み込みを行っていた。

あれは、長年の経験と勘の賜物だ。


(そうだ…現代の物流では、

荷物を同じ大きさの箱やパレットにまとめて、

それをユニットとして扱うことで、

積み込みや荷役の効率を格段に上げていた。

『ユニットロードシステム』ってやつだ。

あれがあれば、こんなに苦労しなくても済むのに…)


今のリュウガの荷物カゴは、

まだ汎用的な網カゴタイプが主流だ。

これでは、どうしてもデッドスペースが生まれてしまうし、

荷物同士がぶつかり合って破損するリスクも高い。


「やっぱり、荷物の種類や大きさに合わせて、

規格化された専用の『箱』…

コンテナみたいなものが必要だな…」


俺は、夕焼けに染まる空を見上げながら、

深くため息をついた。

『ドラゴン便』の未来のためには、

まだまだ解決しなければならない課題が山積している。


リリアさんは、

俺がヴェリタスから持ち帰った、

見たこともない美しい装飾が施された書物や、

エキゾチックな香りのする香辛料、

そして甘美な味わいのワインに、

目をキラキラと輝かせていた。


「すごいですね、ケンタさん!

こんなに素敵なものが、

これからはリンドブルムでも手に入るようになるんですね!

きっと、街のみんなも喜びますよ!」

彼女の言葉は、俺の心を少しだけ軽くしてくれた。


そうだ、俺たちがやっていることは、

ただ物を運ぶだけじゃない。

文化を運び、人々の生活を豊かにし、

そして、笑顔を届ける仕事なんだ。


そのためにも、

俺は、この異世界で、

最高の物流システムを構築してみせる。


「なあ、ギドさん…」

その夜、俺は工房で設計図とにらめっこしているギドさんに、

ヴェリタスでの出来事と、

積載効率の問題について話した。

そして、俺が考えている

「荷物をユニット化して運ぶための、規格化された箱」

のアイデアを伝えた。


「もっと荷物を効率的に積めて、

しかも安全に運べるような、

そんな都合のいい『箱』みたいなものは、

作れませんかね…?」


俺の言葉に、

ギドさんは、ピタリと手を止め、

鋭い目で俺の顔をじっと見つめた。

その瞳の奥には、

いつものように、

職人としての探究心と、

そして新たな挑戦への興味が、

静かに燃え始めているように見えた。

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