第55話 未来への翼
運送ギルドのゴードンが失脚し、
その悪事が白日の下に晒されたことで、
街の空気は一変した。
これまでの重苦しい雰囲気は消え去り、
市場には活気が戻り、
人々の顔にも笑顔が増えたように感じる。
俺たち『ドラゴン便』は、
リンドブルムの英雄として、
そして新しい時代の物流の旗手として、
市民たちから絶大な信頼と期待を寄せられるようになった。
事務所には、ひっきりなしに依頼が舞い込み、
俺とリュウガ、そしてリリアさんは、
嬉しい悲鳴を上げる毎日だった。
「ケンタさん、今日の依頼リストです!
ヴェリタスへの定期便の荷物も、
もう集荷ポイントに届いていますよ!」
リリアさんが、朝一番、
元気いっぱいの笑顔で事務所に駆け込んでくる。
彼女は、もうすっかり『ドラゴン便』の
看板娘兼、敏腕マネージャーだ。
「ありがとう、リリアさん。
本当に助かるよ。
リュウガの調子も、もうすっかり良さそうだし、
今日も一日、頑張りますか!」
「グルルゥ!」
(任せとけ!)
事務所の隣に作られた、
リュウガ専用の広い厩舎(ギドさん特製だ)から、
相棒の力強い声が聞こえてくる。
翼の傷も完全に癒え、
その瑠璃色の鱗は、朝日を浴びてキラキラと輝いている。
俺は、ヴェリタスのマードック氏や、
リンドブルム領主から贈られた報奨金を元手に、
ボロ小屋だった事務所を改築し、
ささやかながらも、ちゃんとした事務所兼住居を構えた。
集荷ポイントも、以前の古い見張り小屋から、
もう少し広く、荷物の管理がしやすい場所へと移転した。
だが、俺たちの夢は、
まだ始まったばかりだ。
「ギドさん、例のブツの進捗はどうですか?」
ある日の午後、俺はギドさんの工房を訪ねた。
工房の中は、相変わらず炉の熱気と、
金属を打つ甲高い音で満ちている。
「フン、小僧か。
まあ、見ていけ。
お前が待ち望んでいた、
『ドラゴンギア Lv.2』の試作品だ」
ギドさんが、誇らしげに指差した先には、
これまでのLv.1改とは比較にならないほど、
洗練され、そして頑丈そうな、
新しいドラゴンの鞍とハーネスが鎮座していた!
素材は、アダマンタイト合金とグリフォンの腱、
そしてミスリル銀。
俺が『疾風の迷宮』で命懸けで手に入れた素材と、
ゴードンから押収した金品の一部を換金して購入した、
最高級の素材が惜しげもなく使われている。
「すごい…!
これが、Lv.2…!」
俺は、息を呑んでそのギアを見つめた。
軽量でありながら、圧倒的な強度を誇り、
リュウガの体に完璧にフィットするように設計されている。
鞍の座り心地も格段に向上し、
長時間の飛行でも疲れにくい工夫が凝らされていた。
荷物カゴも、複数の種類が用意され、
運ぶ荷物に合わせて簡単に付け替えられるようになっている。
「どうだ、小僧。
これなら、お前たちの『ドラゴン便』も、
さらに高く、遠くへ飛べるだろうよ。
ただし、これを完全に使いこなすには、
乗り手であるお前自身の技量も、
さらに磨く必要があるがな」
ギドさんは、満足そうに顎髭を扱いた。
「ありがとうございます、ギドさん!
これなら、どんな依頼だってこなせます!」
俺は、心の底から感謝の言葉を述べた。
だが、ギドさんは首を横に振った。
「いや、まだ完成ではない。
真の『ドラゴンギア Lv.2』を完成させるためには、
そして、お前が夢見る『特殊コンテナ』…
例えば、荷物を冷やしたり温めたりできる箱を作るためには、
どうしても、あの『深淵の水晶』が必要になる」
深淵の水晶…。
それは、疾風の迷宮よりもさらに危険な場所に眠るとされる、
幻の素材。
「分かっています。
必ず、手に入れてみせます。
リュウガと、この新しいギアがあれば、きっと…!」
俺は、固い決意を込めて言った。
リンドブルムに平和が戻り、
『ドラゴン便』の事業も軌道に乗り始めた。
だが、俺たちの冒険は、まだ終わらない。
アースガルド大陸の広大な物流網を構築するという、
壮大な夢の実現のためには、
まだまだ乗り越えなければならない壁がたくさんあるのだ。
俺は、工房の窓から、
青く澄み渡ったリンドブルムの空を見上げた。
その空の向こうには、
まだ見ぬ世界と、新たな挑戦が待っている。
「待ってろよ、アースガルド…!
俺とリュウガの翼が、
お前たちの空を、自由に変えてみせる!」
新たなギアを手に、
そして、かけがえのない仲間たちとの絆を胸に、
俺たちの『ドラゴン便』は、
未来へと続く、新たなる空路へと、
今、力強く飛び立とうとしていた。




