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第54話 戦いの後で…それぞれの想いと新たな芽生え

ゴードンの悪事が白日の下に晒され、

リンドブルム運送ギルドの圧政が終わった日。


それは、リンドブルムの街にとって、

まさに歴史的な一日となった。


戦いの後処理は、想像以上に大変だった。

負傷した市民や私兵たちの手当て、

ギルドの残党の捕縛、

そして何よりも、ゴードンが隠し持っていた

禁制品『月の雫』や不正な金品の押収と管理…。


俺たち『ドラゴン便』のメンバーも、

その処理に忙殺された。

リリアさんは、薬屋の知識と治癒魔法を活かし、

負傷者の手当てに奔走した。

その献身的な姿は、多くの市民の心を打ち、

彼女への感謝と尊敬の念を深めさせた。


ギドさんは、衛兵たちに協力し、

ギルドの倉庫に残された禁制品の鑑定や、

ゴードンの不正な取引の証拠固めに尽力した。

その専門知識と厳格な態度は、

衛兵たちからも一目置かれる存在となっていた。


そして、俺とリュウガは…。

リュウガは、翼の傷がまだ完全に癒えていないため、

隠れ家で静養していたが、

時折、俺を乗せてリンドブルムの空をゆっくりと飛び、

街の復興の様子を見守っていた。

その瑠璃色の巨体が空を舞う姿は、

もはや恐怖の対象ではなく、

リンドブルムの平和の象徴として、

市民たちから温かい目で見守られるようになっていた。


俺自身は、

ヴェリタス商業連合の使節団や、

リンドブルムの領主様との会談に臨み、

今回の事件の経緯や、

今後の『ドラゴン便』の運営について説明する日々が続いた。

慣れない公式の場でのやり取りは、

正直言って、ゴードンとの戦いよりも疲れるものだったが、

これも、俺たちがこの街で生きていくためには

必要なことなのだと、自分に言い聞かせた。


そんな慌ただしい日々が少し落ち着いたある夜、

俺は、リリアさんとギドさんと共に、

ボロ小屋…いや、今や『ドラゴン便』の正式な事務所となった

俺たちの拠点で、ささやかな祝杯を挙げていた。

テーブルの上には、リリアさんが腕によりをかけて作った

温かいシチューと、焼きたてのパン、

そして、ギドさんがどこからか持ってきた、

ドワーフ秘蔵の年代物のエールが並んでいる。


「…本当に、色々あったな」

俺は、エールの入った木製のジョッキを傾けながら、

しみじみと呟いた。

異世界に来てからの目まぐるしい日々が、

まるで走馬灯のように脳裏を駆け巡る。


「はい…でも、ケンタさんとリュウガさんが来てくれたおかげで、

この街は、きっと良い方向に変わっていくと思います」

リリアさんが、優しい笑顔で言った。

その頬は、エールのせいか、ほんのりと赤らんでいる。


「フン、まあ、小僧の無鉄砲な行動が、

結果的にゴードンの悪事を暴くきっかけになったのは事実だな。

褒めてやらんでもないぞ」

ギドさんが、ぶっきらぼうな口調ながらも、

どこか嬉しそうに言った。

その手には、既に空になったジョッキが握られている。

どうやら、ドワーフのエールは相当強いらしい。


俺たちは、戦いの思い出や、

これからの夢について、

夜が更けるのも忘れて語り合った。

笑い声が、小さな事務所に響き渡る。

それは、これまでの苦労が報われたような、

温かく、そして心地よい時間だった。


ふと、リリアさんが、

何かを思い詰めたような表情で、俺の顔をじっと見つめているのに気づいた。


「リリアさん? どうかしたのか?」


「あ…いえ、なんでもないんです…。

ただ…その…ケンタさん」

リリアさんの声が、少しだけ上ずる。

「今回の戦いで、ケンタさんが何度も私を助けてくれて…

その…すごく、頼もしいなって…思って…」

彼女は、そこまで言うと、

顔を真っ赤にして俯いてしまった。


その言葉と仕草に、

俺の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。

リリアさんの、俺に対する特別な感情。

それは、もう友情だけではない、

もっと温かく、そして切ない何か…。

俺もまた、彼女の献身と勇気に、

そしてその優しい笑顔に、

いつの間にか強く惹かれていたのだ。


だが、俺はまだ、その気持ちを言葉にすることができなかった。

俺たちは、まだ始まったばかりなのだ。

『ドラゴン便』の未来も、

そして、俺自身のこの世界での生き方も、

まだ何も定まっていない。

そんな俺が、彼女の純粋な想いに応える資格があるのだろうか…。


俺は、言葉に詰まりながらも、

リリアさんの小さな手を、そっと握りしめた。

「リリアさん…俺も、君がいてくれて本当に助かった。

ありがとう」

それだけ言うのが、精一杯だった。


リリアさんは、俺の手を握り返し、

小さく、しかし力強く頷いた。

その瞳には、確かな信頼と、

そして、未来への淡い期待が揺らめいていた。


ヴェリタスのマードック氏からは、

後日、正式な感謝状と共に、

多額の報奨金と、

そして『ドラゴン便』との独占的な輸送契約の申し出が届いた。

リンドブルムの領主様からも、

街の復興への貢献を称えられ、

『ドラゴン便』は、リンドブルムの公式な運送ギルドとして、

正式に認可されることになった。


『ドラゴン便』は、

リンドブルムの英雄として、

そして、新しい時代の物流の担い手として、

市民からの絶大な信頼と期待を一身に集めることになったのだ。


戦いは終わった。

だが、俺たちの物語は、まだ始まったばかりだ。

この仲間たちと共に、

そして、かけがえのない相棒リュウガと共に、

俺は、この異世界で、

新たな夢を追いかける決意を固めた。


リンドブルムの夜空に、

ひときわ美しい満月が輝いていた。

それは、まるで俺たちの未来を

祝福してくれているかのようだった。

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