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第49話 束の間の休息

リンドブルムの空に、

朝日が完全に昇りきった。

その力強い光は、

俺たちの隠れ家である洞窟の入り口まで差し込み、

昨夜の死闘の痕跡と、

俺たちの疲労困憊の姿を容赦なく照らし出す。


「…とにかく、中へ入ろう。

いつまでもこんなところにいたら、

またギルドの連中に見つからないとも限らない」


俺は、まだ小さく震えているリリアさんの肩を抱き、

そして、額の汗を革の手甲で拭うギドさんに声をかけた。

リュウガは、俺たちの会話を理解したのか、

ゆっくりと、しかし確かな足取りで洞窟の奥へと進んでいく。

その翼は、まだ痛々しい。


洞窟の中は、

外の喧騒とは打って変わって、

ひんやりとした静寂に包まれていた。

俺たちは、岩壁に背を預け、

どさりと、まるで糸が切れた人形のように座り込んだ。

全身の力が抜け、

どっと疲労感が押し寄せてくる。


「リリアさん、本当に…よくやってくれた。

怖かっただろう…?」

俺は、隣に座るリリアさんの顔を覗き込んだ。

彼女の頬は汚れ、目元には涙の跡が残っている。

だが、その瞳の奥には、

恐怖を乗り越えた者だけが持つ、

凛とした強さが宿っていた。


「…はい。少しだけ…。

でも、ギドさんが一緒だったから、

それに、ケンタさんとリュウガさんが

待っていてくれるって思ったら、

頑張れました…!」

リリアさんは、そう言って、

はにかむように微笑んだ。

その笑顔が、俺の心をどれだけ救ってくれたことか。


「フン、嬢ちゃんは、わしが思っていたよりも

ずっと肝が据わっておるわい。

あの状況で、よくぞ冷静に笛を吹いたもんだ。

あれがなければ、今頃どうなっていたことか…」

ギドさんが、ぶっきらぼうな口調ながらも、

リリアさんの勇気を称えるように言った。

彼の言葉には、偽らざる賞賛の色が滲んでいる。


「いえ…私も、必死で…。

ケンタさんたちが作ってくれた、

あの笛のおかげです…!」

リリアさんの頬が、再び赤く染まる。


俺たちは、しばし言葉もなく、

互いの無事を確かめ合うように、

穏やかな時間を過ごした。

昨夜の死闘が、まるで遠い昔のことのように感じられる。

だが、それは束の間の休息に過ぎないことを、

俺たちは皆、分かっていた。


「…さて、と」

やがて、ギドさんが重々しく口を開いた。

「証拠の品は、無事にあのマルコとかいう商人に託せたようだが、

それがヴェリタスのマードック殿の元へ無事に届き、

そして、彼が俺たちの期待通りに動いてくれるかどうか…

それは、まだ分からんぞ」


ギドさんの言葉は、

俺たちを再び厳しい現実へと引き戻した。

そうだ、俺たちの戦いは、まだ何も終わっていない。

むしろ、これからが本当の始まりなのだ。


「はい…マルコさんは、

『必ず届ける』と約束してくださいました。

とても信頼できる方だと、私は信じています。

それに、マードック様も、

ケンタさんのことを高く評価していらっしゃいましたから、

きっと、私たちの力になってくれるはずです…!」

リリアさんが、祈るように言った。

その言葉には、彼女の純粋な信頼が込められている。


「ああ、俺もそう信じたい。

だが、相手はリンドブルム運送ギルドだ。

ゴードンは、俺たちが何かを掴んだと感づいているはずだ。

必ず、次の手を打ってくるだろう。

おそらく、これまで以上に強硬な手段でな」

俺は、厳しい表情で続けた。

昨夜の襲撃は、奴らの本気度を物語っていた。


「奴らが次に狙うのは、間違いなくリュウガだ。

俺たちの『ドラゴン便』の力の源泉であり、

そして、ギルドにとっては最大の脅威でもあるからな。

この隠れ家も、いつまで安全か分からない」


「グルルゥ…」

俺の言葉に、リュウガが不安そうに喉を鳴らした。

その黄金色の瞳が、俺をじっと見つめている。


「大丈夫だ、リュウガ。

俺たちが、必ずお前を守る」

俺は、リュウガの大きな頭を優しく撫でた。


「小僧の言う通りだ」

ギドさんが、力強く頷いた。

「リュウガの翼が完全に癒えるまで、

そして、ヴェリタスからの何らかの知らせが届くまでは、

俺たちはここに潜み、力を蓄える必要がある。

わしは、その間に、

お前たちのギアをさらに強化し、

この洞窟の防御も完璧なものにしておく。

ドワーフの技術の粋を見せてやるわい」

ギドさんの目には、

不屈の闘志と、職人としての誇りが燃えていた。


「私は…私にできることをします!

リュウガさんの傷の手当てはもちろん、

街の様子も、もっと慎重に探ってきます。

ギルドの動きや、市民の皆さんの声…

どんな小さな情報でも、

きっと私たちの役に立つはずですから」

リリアさんも、決意を新たにした表情で言った。

彼女の献身的なサポートがなければ、

俺たちはここまで来られなかっただろう。


そして、俺は…。


「俺は、スキルウィンドウの情報を徹底的に分析し、

ギルドの次の手を予測する。

そして、マードックさんや宮廷魔術師への連絡手段を確保し、

いつでも行動できるように準備しておく。

それと…リュウガ、お前には早く元気になってもらわないと困るぞ。

この戦いが終わったら、

また一緒に、リンドブルムの空を自由に飛び回るんだからな」


俺の言葉に、

リュウガは、嬉しそうに「グルルゥ!」と一声鳴いた。

その声には、いつものような力強さが戻りつつあるように感じられた。


俺たちは、再び顔を見合わせた。

言葉は少なくとも、

その瞳には、同じ未来を見据える、

揺るぎない決意が宿っていた。


掴んだ証拠は、まだ小さな欠片かもしれない。

だが、それは確かに、

俺たちの手の中にある、希望の光だ。


この光を絶やさぬよう、

仲間たちと共に、

そして何よりも、

かけがえのない相棒リュウガと共に、

俺たちは、この困難な状況を、

必ずや乗り越えてみせる。


リンドブルムの空に輝く太陽のように、

俺たちの未来も、

きっと明るく照らし出されるはずだと、

俺は強く、強く信じていた。

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