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第45話 掴んだ真実

満月の冷たい光を浴びながら、

俺たちは、息を切らしてリュウガの隠れ家である

崖下の洞窟へと転がり込んだ。


リュウガは、翼の傷がまだ完全に癒えていないにもかかわらず、

俺たちを乗せて全力で飛んでくれた。

その巨体は、洞窟の入り口で力なく横たわり、

ぜぇぜぇと苦しそうな息を繰り返している。

その姿を見るだけで、胸が張り裂けそうだった。


「リュウガ…!

よく頑張ってくれたな…!

本当に、ありがとう…!」


俺は、震える手でリュウガの鼻先を撫でた。

リリアさんも、すぐに駆け寄り、

持っていた薬草でリュウガの手当てを始める。

その瞳には、涙が滲んでいた。


「小僧!

嬢ちゃん!

まずはこれだ!」


ギドさんが、荒い息を整えながら、

俺が地下倉庫から奪い取った

『月の雫』の木箱と、金貨の袋を

洞窟の岩棚の上にドンと置いた。

その音は、静かな洞窟の中にやけに大きく響いた。


これが、俺たちが命懸けで手に入れた、

ゴードンの悪事を暴くための『戦利品』。


俺たちは、互いの顔を見合わせた。

恐怖と興奮、そして疲労が入り混じった、

複雑な表情。

だが、その瞳の奥には、

確かに、同じ目標を見据える強い光が宿っていた。


「…開けてみよう」


俺は、ゴクリと唾を飲み込み、

ゆっくりと木箱の蓋に手をかけた。

ギィィ…と、湿った木が軋む音がする。


中には、黒いビロードのような布に包まれた、

小さなガラスの小瓶が、

いくつも丁寧に並べられていた。

小瓶の中の液体は、

月明かりを受けて、妖しい紫色の光を放っている。

これが『月の雫』…。

リリアさんが羊皮紙の解読で突き止めた、

禁制品の一つ。

その美しさとは裏腹に、

どこか背徳的な、危険な香りが漂ってくる。


「…これが、奴らが裏で取引していた代物か。

見た目は美しいが、

とんでもない毒にも、あるいは強力な麻薬にもなると聞く。

こんなものを王都の貴族に流していたとは…

ゴードンの奴、許せん…!」

ギドさんが、吐き捨てるように言った。

その声には、抑えきれない怒りが込められている。


次に、金貨の袋だ。

革袋の口を開けると、

中からは、目も眩むような黄金色の輝きが溢れ出した。

金貨が、ぎっしりと詰まっている。

その量は、俺が王都への依頼で手に入れた報酬など、

比べ物にならないほど莫大だった。


「こんな大金を…

不正な取引で…」

リリアさんの声が、震えていた。

彼女の純粋な心にとって、

この現実はあまりにも醜悪すぎるのだろう。


「間違いない。

これは、ゴードンが長年にわたって蓄えてきた、

汚れた金の一部だ。

この木箱と金貨袋…

そして、俺たちが洞窟で見つけた裏帳簿。

これだけの証拠が揃えば、

いくらゴードンでも言い逃れはできまい」

俺は、確信を込めて言った。

だが、心のどこかで、まだ不安が燻っている。

相手は、リンドブルムの物流を牛耳る大物だ。

そう簡単に尻尾を掴ませるとは思えない。


「だが、問題は、

この証拠をどうやって使うか、だ」

ギドさんが、厳しい表情で言った。

「下手に動けば、奴らに感づかれて揉み消されるか、

最悪の場合、俺たちが口封じに遭う可能性もある。

ゴードンは、自分の地位と財産を守るためなら、

どんな汚い手でも使ってくるだろう」


ギドさんの言葉に、

洞窟の中は再び重い沈黙に包まれた。

掴んだ証拠は、確かに強力だ。

だが、それを振るう相手と方法を間違えれば、

俺たち自身が破滅する諸刃の剣にもなり得る。


「…領主様に、直接訴え出るのはどうでしょうか?」

リリアさんが、おずおずと口を開いた。

「リンドブルムの領主様は、

民のことを考えてくださる、公正な方だと聞いています。

これだけの証拠があれば、きっと…」


「甘いな、嬢ちゃん」

ギドさんが、リリアさんの言葉を遮った。

「領主様が公正な方だとしても、

その周りには、ギルドと繋がりのある貴族や役人が

いないとも限らん。

下手に情報を漏らせば、

証拠が握り潰されるのがオチだ」


「では…衛兵隊長に…?」


「それも危険だ。

リリアの報告では、衛兵の一部は

既にゴードンに買収されている疑いがあるんだろう?

誰が味方で、誰が敵か、

今の俺たちには分からない」

俺は、苦虫を噛み潰したような顔で言った。


八方塞がり。

まさに、そんな言葉が頭をよぎる。

せっかく掴んだ希望の光が、

再び闇に閉ざされそうになっていた。


その時、

俺の脳裏に、ある人物の顔が浮かんだ。

王都の、あの掴みどころのない、

しかし確かな力を持つ、宮廷魔術師。

そして、ヴェリタスの、

俺たちの力を信じてくれた、商人マードック氏。


彼らなら、あるいは…。


「…一つ、試してみたいことがある」

俺は、意を決して口を開いた。

「それは、大きな賭けになるかもしれない。

だが、このままリンドブルムで燻っていても、

事態は好転しないだろう」


俺は、二人に向き直り、

自分の考えを話し始めた。

それは、危険を伴う策だった。

だが、今の俺たちに残された、

唯一の活路かもしれない。


リリアさんとギドさんは、

黙って俺の話に耳を傾けていた。

その表情は真剣で、

俺の言葉の一つ一つを、

慎重に吟味しているようだった。


全て話し終えた後、

洞窟の中には、再び静寂が訪れた。

ただ、リュウガの穏やかな寝息と、

俺たちの、わずかに高鳴る心臓の音だけが響いている。


やがて、ギドさんが重々しく口を開いた。

「…フン。

確かに、無謀な賭けだ。

だが、面白い。

わしは、その賭けに乗ってやってもいいぞ、小僧」


「私も…ケンタさんの考えを信じます!

私にできることなら、何でも協力します!」

リリアさんも、力強く頷いた。


仲間たちの言葉に、

俺の胸は熱くなった。

一人じゃない。

この二人と、そしてリュウガがいれば、

どんな困難だって乗り越えられるはずだ。


「ありがとう、二人とも」

俺は、深々と頭を下げた。


東の空が、

わずかに白み始めていた。

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