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第42話 満月の密会

リュウガの傷が癒えるのを待つ数日間、

俺たちは、それぞれの戦いを始めていた。


それは、決して派手なものではない。

むしろ、息を潜め、

影のように動く、地道で、

そして危険な戦いだった。


リリアさんは、薬屋の仕事の合間を縫って、

街の隅々まで足を運び、

人々の声に耳を傾け続けた。


「ケンタさん、

やっぱりギルドの流した黒い噂は、

根強く残っています…。

『ドラゴン便は危険だ』

『いつ災いを呼ぶか分からない』って、

そう信じ込んでいる人も、まだ少なくありません」


夕暮れ時、

隠れ家の洞窟に戻ってきたリリアさんは、

疲れた顔で、しかしはっきりとした口調で報告する。

その瞳には、悔しさと、

それでも諦めないという強い意志が宿っていた。


「でも、嬉しいこともありました。

以前、ケンタさんが薬を届けた村の子供たちが、

『ドラゴン便の竜は、空飛ぶ英雄なんだ!』って、

目をキラキラさせて話しているのを聞いたんです。

その言葉を聞いた時、

なんだか、胸が熱くなりました…」


リリアさんの頬が、

夕焼けのようにほんのりと赤らむ。

その純粋な喜びが、

俺の荒んだ心に、温かい光を灯してくれる。


「それと…例の羊皮紙の解読ですが、

いくつか気になる記述を見つけました。

『赤獅子の杯亭』という酒場の名前と、

『満月の夜の裏取引』という言葉…

もしかしたら、これがゴードンたちの

密会の場所を示しているのかもしれません」


「赤獅子の杯亭…満月の夜…か。

ありがとう、リリアさん。

大きな手がかりだ」

俺は、リリアさんの小さな頭を優しく撫でた。

彼女の勇気と知恵が、

俺たちの道を照らしてくれる。


一方、ギドさんは、

リュウガの翼の治療を手伝いながら、

俺の『ドラゴンギア Lv.1 改』の

さらなる改良と、新たな装備の開発に没頭していた。


工房の炉の火は、

昼夜を問わず赤々と燃え盛り、

金槌の音が、リズミカルに、

しかし力強く響き渡る。


「小僧、お前が言っていた『投網対策』だ。

ギアの表面に、特殊な油を塗ってみた。

これで、多少は網が絡みつきにくくなるはずだ。

それと、リュウガの爪と牙の手入れもしておいたぞ。

いざという時のためにな。

ドワーフの研磨術は、世界一だからな!」


ギドさんは、ぶっきらぼうな口調で言いながらも、

その目には、確かな自信と、

そして俺たちへの深い信頼が宿っているように見えた。

この頑固なドワーフは、

もう俺たちにとって、

かけがえのない仲間の一人だった。


そして、俺は…。


リュウガの翼が完全に癒えるまでの間、

ギドさんと共に、

リンドブルムの街の裏通りや、

寂れた倉庫街を、

まるで影のように歩き回っていた。


リリアさんが解読してくれた羊皮紙の情報を元に、

ゴードンと繋がりのある怪しい商人たちの動きや、

彼らが出入りする倉庫の場所を、

慎重に、そして執拗に探る。


「ギドさん、あの倉庫…

リリアさんが言っていた、

『黒蛇商会』の紋章があります。

羊皮紙にも、何度か名前が出てきた商会です」


俺たちは、人気のない路地の影に身を潜め、

古びたレンガ造りの倉庫を監視する。

昼間は、普通の荷物の出し入れが行われているように見える。

だが、夜になると…。


「…おい、小僧。

見ろ、あれを」

ギドさんが、低い声で俺の肩を叩いた。


月明かりの下、

倉庫の裏口から、

フードを目深にかぶった数人の男たちが、

怪しげな木箱を運び出しているのが見えた。

その動きは、明らかに人目を忍ぶものであり、

木箱から漏れ出す微かな匂いは、

リリアさんが言っていた『禁制品』の可能性を

強く示唆していた。


「…間違いない。

あそこが、奴らの取引場所の一つだ」

俺は、息を殺して、

その光景を目に焼き付けた。

心臓が、ドクドクと高鳴る。


だが、決定的な証拠を掴むには、

まだ何かが足りない。

あの木箱の中身、

そして、取引相手の正体…。


俺たちは、その後も数日間にわたり、

危険を冒しながら内偵を続けた。

時には、ギルドの手先らしき男たちに

尾行されそうになりながらも、

ギドさんのドワーフならではの鋭い感覚と、

俺の社畜時代に培った(?)危機回避能力で、

なんとか窮地を切り抜けてきた。


そして、ついに、

その日がやってきた。


リリアさんが解読した羊皮紙に記されていた、

『満月の夜』。

そして、場所は『赤獅子の杯亭』の裏手にある、

今は使われていない古い地下倉庫。


「ケンタさん…ギドさん…

今夜、ここで間違いなく何かが起こります。

私の勘が、そう告げているんです…!」

リリアさんの声は、

緊張と期待で震えていた。


俺とギドさんも、

ゴクリと唾を飲み込み、

互いの顔を見合わせた。


これが、最後のチャンスになるかもしれない。

ゴードンの悪事を暴き、

『ドラゴン便』の未来を切り開くための、

最大の好機。


「よし、行こう」

俺は、腰に差したギドさん特製の剣の柄を、

強く握りしめた。

「今夜、全てを終わらせる」


リュウガは、まだ翼が本調子ではないため、

隠れ家で待機だ。

だが、俺たちの心は一つだった。


リンドブルムの街に、

再び不気味な満月が昇る。

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