表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/146

第41話 黒い噂の源流

リリアさんが解き明かした、

羊皮紙に隠された衝撃の事実。


禁制品の密輸。

そして、運送ギルドの幹部ゴードンによる不正な蓄財。


それは、俺たちの胸に、

怒りと共に、確かな希望の炎を灯した。

だが、ギドさんの言う通り、

これだけではゴードンという老獪な狐を

追い詰めるにはまだ足りない。

奴の尻尾を掴むには、もっと決定的な何かが必要だ。


「…リリアさん、本当にありがとう。

君がいなければ、この羊皮紙はただの紙切れだったかもしれない。

君の知識と粘り強さが、俺たちに道を示してくれた」


俺は、改めてリリアさんに感謝の言葉を伝えた。

彼女の薬草に関する深い知識が、

まさかこんな形で役立つとは、思いもよらなかった。

人は、見かけによらないものだ。


「いえ…私も、ケンタさんたちの役に立てて、

本当に嬉しいです…!

それに、リュウガさんのためにも、

早くこの街の悪い奴らをなんとかしないと!」

リリアさんは、頬を赤らめながらも、

きゅっと拳を握りしめ、誇らしげに微笑んだ。

その笑顔は、洞窟の薄暗がりの中で、

どんな宝石よりも力強く、そして美しく輝いて見えた。

彼女の優しさ、そして強さに、俺はまた心を打たれる。


「さて、問題はこれからだ。

どうやって、この『裏帳簿』の信憑性を高め、

ゴードンの悪事を白日の下に晒すかだな」

ギドさんが、ギアの修理の手を休めずに、

重々しく口を開いた。

その声には、いつもの厳しさに加え、

まるで難解なパズルに挑むような、

どこか楽しむような響きも混じっている。

この偏屈なドワーフも、どうやら本気で

この「戦い」に、そして俺たちの未来に

肩入れしてくれる気になったらしい。

これほど心強いことはない。


「この『裏帳簿』が本物だと証明し、

ゴードンの悪事を白日の下に晒すためには、

もっと具体的な証拠が必要になる。

例えば、密輸されている『禁制品』そのものや、

取引が行われている現場の写真…いや、この世界じゃ写実画か?

あるいは、この取引に直接関わっている人間の、

裏切りようのない証言…

そういったものが、喉から手が出るほど欲しいところだ」

ギドさんは、まるで軍師のように状況を分析する。


「禁制品の現物…取引現場…関係者の証言…ですか」

俺は、ギドさんの言葉を一つ一つ、

頭の中で反芻する。

どれも、言葉にするのは簡単だが、

実際に手に入れるのは至難の業だろう。

むしろ、下手に動けば、

ギルドの監視網に引っかかって証拠を隠滅されたり、

俺たち自身が袋のネズミにされたりする可能性の方が、

遥かに高い。

ゴードンは、それほど甘い相手ではないはずだ。


「リリアさん、その羊皮紙から、

取引が行われている具体的な場所や日時、

あるいは、関わっている可能性のある人物の名前なんかは

分からないだろうか?

どんな些細なことでもいいんだ」

俺は、最後の望みを託すように、リリアさんに尋ねた。


リリアさんは、再び羊皮紙に目を落とし、

小さな眉を寄せながら、

真剣な表情で慎重に文字を追っていく。

彼女の細い指が、怪しげな記述を一つ一つなぞっていく。


「うーん…場所や日時は、

やっぱり、かなり曖昧な書き方になっていますね…。

『月の満ち欠け』とか、『特定の祭りの前後』とか、

そういう、どうとでも取れるような記述が多いです。

これじゃあ、特定するのは難しいかも…」

リリアさんの声が、少しだけ曇る。


だが、彼女は諦めなかった。

「でも、いくつかの商人の名前や、

彼らが頻繁に出入りしていると思われる倉庫の場所なら、

もしかしたら見当がつくかもしれません…!

この羊皮紙には、同じ名前が何度も出てくるんです。

それに、この記号…これは、

リンドブルムの特定の地区を示す隠語かもしれません!」

リリアさんの目が、再びキラリと輝いた。


「商人の名前と、倉庫の場所か…!」

それは、暗闇の中に差し込んだ、一筋の光明かもしれない。

もし、その倉庫に禁制品が隠されていたり、

あるいは、そこが密輸の取引現場になっていたりすれば…

決定的な証拠を掴める可能性が出てくる!


「よし、まずはその情報を元に、

俺がリンドブルムの街で内偵を進めてみよう。

リュウガはまだ飛べないし、

ギドさんにはギアの修理と改良をお願いしたい。

リリアさんは…」


「私も行きます!」

俺の言葉を遮るように、

リリアさんが、強い意志を込めた声で言った。

その瞳には、もう迷いの色はない。

そこには、ただひたすらに、

仲間を助けたい、正義を貫きたいという、

純粋で真っ直ぐな想いが溢れていた。


「私だって、『ドラゴン便』の一員です!

ケンタさん一人に危険なことをさせるわけにはいきません!

それに、街の商人さんたちなら、

私の方が顔が利くかもしれませんし、

女性の方が警戒されにくい場面もあるかもしれませんから…!」

リリアさんは、少し早口になりながらも、

自分の役割を力強く主張した。


「リリアさん…でも、本当に危険なんだぞ…?」

俺は、彼女を危険な目に遭わせたくなかった。

この汚れ仕事は、俺一人が背負うべきだと思っていた。

だが、彼女の真剣な眼差しは、

俺のそんな甘い考えを、

優しく、しかし力強く押し返すようだった。


「…分かった。

だが、絶対に無理はしないこと。

少しでも危険を感じたら、すぐに俺に知らせるんだ。

いいな? これは命令だ」

俺は、彼女の覚悟を受け止めることにした。


「はい!」

リリアさんは、嬉しそうに、そして力強く頷いた。

その笑顔は、まるで雨上がりの虹のように、

俺の心を明るく照らしてくれた。


「フン、若いってのは、無鉄砲でいいな。

見てるこっちがヒヤヒヤするわい」

ギドさんが、呆れたような、

しかしどこか温かい、父親のような目つきで俺たちを見ていた。

「だが、小僧。

お前一人で、しかも嬢ちゃんを連れて街を嗅ぎ回るのは危険すぎる。

わしも、少しばかり『お目付け役』として

付き合ってやらんでもないぞ。

リュウガのギアの修理なんぞは、夜にでもできるわい。

昼間は、お前たちのサポートに回ってやる」


「えっ、ギドさんまで!?

本当にいいんですか!?」

俺は驚いてギドさんを見た。

この頑固で偏屈なドワーフが、

自ら危険な内偵に付き合ってくれるとは、

夢にも思っていなかった。

彼の工房での仕事は、山ほどあるはずなのに。


「勘違いするな、小僧。

わしは、お前たちがヘマをして、

ゴードンのクソ野郎に笑われるのが気に入らんだけだ。

それに、ドワーフの目は、

人間の目よりもずっと多くのものを見抜けるからのう。

怪しい動きや、隠されたものを見つけるのは得意なんでな」

ギドさんは、そう言ってニヤリと、

まるで悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

その笑顔は、いつもの偏屈なものとは違い、

どこか頼もしい、そして心強いものに見えた。


こうして、俺たち三人の、

新たな、そして危険な作戦が始まった。


リュウガは洞窟で傷を癒し、

その回復を待つ。


リリアさんは、羊皮紙のさらなる解読と、

薬屋の仕事を通じて、

街での情報収集(主に商人たちへの聞き込みや、

ギルドの噂の動向調査)を担当する。


そして俺は、ギドさんと共に、

リリアさんが特定した怪しい商人の動きや、

彼らが出入りする倉庫の周辺を、

慎重に、そして大胆に探ることにした。


運送ギルドの張り巡らされた監視の目を掻い潜りながらの、

危険な内偵。

それは、まるで薄氷を踏むような、

一瞬たりとも気の抜けない、

緊張感に満ちた日々だった。


だが、俺たちの心は、

不思議なほどに高揚していた。

恐怖よりも、使命感が勝っていた。

仲間がいる。

共に戦う仲間がいる。

その事実が、俺たちに無限の勇気を与えてくれる。


リンドブルムの街に渦巻く、

運送ギルドの黒い陰謀。

俺たちは、必ずその尻尾を掴み、

白日の下に引きずり出してみせる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ