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第33話 傷ついた翼とドワーフの怒り

リュウガの新しい隠れ家である洞窟で、

俺はリリアさんにもらった回復薬を使い、

リュウガと自身の傷の手当てを終えた。

幸い、どちらも命に別状はない。

だが、リュウガの翼に受けた矢傷は深く、

しばらくは全力で飛ぶのは難しいだろう。

俺の肩や腕の傷も、ズキズキとした痛みが引かない。


「くそっ…あの傭兵ども…!」


帰り荷のワインの瓶が数本割れてしまっていたのを確認し、

俺は改めて怒りが込み上げてくるのを感じた。

マードックさんには正直に報告し、弁償しなければならない。

信用問題に関わる。


(これが現代の物流なら、

輸送保険とか、代替品の手配とか、

もっとスムーズに対応できるんだろうが…

この世界では、全てが手探りだ)


俺は深い疲労を感じながらも、

リュウガに声をかけた。


「リュウガ、少し休んだら、ギドさんのところへ行こう。

今回のことを報告して、ギアの修理と、

今後の対策を相談しないと」


「グルゥ…」


リュウガは力なく頷いた。

よほど疲れているのだろう。

俺はリュウガの巨体にそっと寄り添い、

しばし目を閉じた。


数時間後、多少なりとも体力が回復した俺たちは、

人目を忍んでギドの工房へと向かった。

リュウガは翼の痛みを堪え、

できるだけ目立たないように低空を飛んでくれた。


工房の扉を叩くと、

中からギドさんの不機嫌そうな声が響いた。


「誰だ!

またお前か、小僧!

今度は何の用だ!」


ギィィ…と重い扉が開く。

俺たちの姿を認めたギドさんは、

最初こそいつものように眉をひそめていたが、

俺の腕の包帯と、

リュウガの翼に残る生々しい傷跡に気づくと、

その表情が一変した。


「…おい、小僧。

その怪我はどうした?

まさか…あの竜もやられたのか!?」


ギドさんの声には、

隠しきれない動揺と、怒りのようなものが混じっていた。


「はい…ヴェリタスからの帰り道で、

ワイバーン騎兵団に襲われました。

おそらく、運送ギルドが雇った傭兵です。

谷間で待ち伏せされて…」


俺は、狭谷での攻防の一部始終をギドさんに説明した。

出口での待ち伏せ、矢の雨、そして魔力で強化された投網。

最後に、ギドさんにもらった『竜呼びの笛』が

いかにして俺たちを救ったのかも。


俺の話を黙って聞いていたギドさんは、

やがて、わなわなと肩を震わせ始めた。


「…あのクソッタレどもめが…!!

そこまで汚い手を使いやがるとは…!

しかも、このわしが作った笛が、

そんなチンケな傭兵どもの耳を潰すのに役立っただと?

笑わせるな!」


ギドさんは、工房の金床を力任せに金槌で叩きつけた!

ガァァン! という凄まじい音が響き渡る。

その怒りは、ギルドへというよりも、

むしろ自分の作ったものが本来の目的以外で

使われたことへの職人としての矜持から来るもののように思えた。


「だが、小僧!

よくぞ生き残った!

そして、その竜もだ!

わしが手塩にかけて設計したギアが、

そう簡単に壊されてたまるか!」


ギドさんは、俺の肩をバンと叩き、

次にリュウガの傷ついた翼を、

意外なほど優しい手つきでそっと触れた。


「ふむ…矢傷か。

骨には達しておらんようだが、

しばらくは無理な飛行は禁物だ。

リリアの小娘に、特製の傷薬でも作らせるか…」


そして、俺が差し出した『ドラゴンギア Lv.1 改』の

損傷箇所を厳しい目つきで検分し始めた。

いくつかの部品は歪み、革のベルトも一部が切れかかっている。


「ちっ、やはり試作品は試作品か。

強度が足りん。

だが、今回の戦闘データは貴重だ。

次の改良に活かさせてもらう」


ギドさんはそう言うと、

工房の奥から羊皮紙と炭筆を取り出し、

何やら新しい設計図のようなものを描き始めた。

その目には、再び職人の炎が宿っている。


「ギドさん、あの…

マードックさんから預かったワインが、

何本か割れてしまったんです。

やはり、今の網カゴでは、

衝撃に弱い荷物は危険すぎます」


俺が報告すると、ギドさんは顔をしかめた。


「当たり前だ、小僧!

だから言っただろうが、

専用のコンテナが必要だと!

お前が持ってきたあの『箱ごと運ぶ』という発想は悪くない。

衝撃吸収材を仕込み、荷物を完全に固定できる、

頑丈な箱…いや、『輸送コンテナ』だ。

それがあれば、ワインの一本も割らずに済んだだろうよ」


「はい…分かっています。

ですが、そのためには『深淵の水晶』が…」


「分かっているなら、さっさと手に入れてこい!

と言いたいところだが…

今の状態のお前たちでは、

ダンジョンどころか、ゴブリンの巣にすら入れんだろうな」


ギドさんはため息をつき、

設計図から顔を上げた。


「いいか、小僧。

運送ギルドの連中は、一度お前たちの秘密を知った以上、

必ず次の手を打ってくる。

おそらく、もっと大規模に、もっと巧妙にな。

奴らが本気になれば、

このリンドブルムでお前たちが安全に活動できる場所など、

すぐになくなるぞ」


ギドさんの言葉は、

厳しい現実を突きつけていた。


「では、俺たちはどうすれば…?」


「まずは、その傷を完全に癒すことだ。

そして、リュウガの翼もだ。

その間、わしがギアの修理と、

お前が言っていた雨風を防ぐカバー、

それから竜の風防の開発を進めておく。

多少はマシなものができるはずだ」


「ありがとうございます、ギドさん…!」


「礼はいい。

だが、それだけでは根本的な解決にはならん。

お前たちには、もっと『力』が必要だ。

それは、装備の力であり、

お前自身の力であり、

そして…『仲間』の力だ」


ギドさんは、意味深な目で俺を見た。


その時、工房の扉が勢いよく開き、

リリアさんが息を切らせて飛び込んできた。


「ケンタさん!

ギドさん!

大変です!

街で…街で、運送ギルドのゴードンたちが、

『ドラゴン便は危険なドラゴンを使い、

街に災厄をもたらそうとしている悪党だ』って

触れ回っています!

衛兵たちも、何やら動き出しているみたいで…!」


リリアさんの報告に、

俺とギドさんの顔色が変わった。

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