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第28話 ヴェリタスの商人と忍び寄る影

バルガスさんの牧場との契約で

リュウガの食費問題に光明が差し、

さらに商業都市ヴェリタスの商人、

マードック氏からの定期便契約の返事も上々。


俺たち『ドラゴン便』の未来は、

少しずつだが確実に明るい方向へと

進んでいるように思えた。


「ケンタさん、マードックさんからの手紙、

本当によかったですね!

これで『ドラゴン便』も安泰ですよ!」


数日後、集荷ポイントでリリアさんが

自分のことのように喜んでくれる。

彼女の笑顔は、俺にとって何よりのビタミン剤だ。


「ああ、本当に大きな一歩だよ。

マードックさんは近いうちにリンドブルムに来て、

直接契約を結びたいって言ってたからな。

その時に備えて、俺もちゃんとした契約書を

用意しておかないと」


(スキルウィンドウで契約書の雛形とか検索できないかな…

いや、さすがにそこまでは無理か。

でも、取引条件とか、免責事項とか、

前職の知識を総動員すれば、

それなりのものは作れるはずだ)


俺は頭の中で、

契約書の条項を組み立て始める。

異世界とはいえ、ビジネスはビジネス。

口約束だけでは後々トラブルになりかねない。


その数日後、約束通り、

ヴェリタスからマードック氏がリンドブルムを訪れた。

彼は数人の供回りを連れ、

立派な馬車で『ドラゴン便』のボロ小屋…

いや、事務所の前に現れた。


「おお、ここが噂の『ドラゴン便』の事務所か!

いやはや、話には聞いていたが、

なかなか…その、趣のある建物ですな!」


マードック氏は、恰幅の良い体に上等な絹の服をまとい、

いかにもやり手の商人といった風体だ。

だが、嫌味な感じはなく、

むしろ好奇心に満ちた目で事務所(ボロ小屋)を

見回している。


「マードックさん、ようこそリンドブルムへ!

遠路はるばるありがとうございます。

ささ、どうぞ中へ。

お茶くらいしかお出しできませんが」


俺はリリアさんと共にマードック氏を事務所へ招き入れた。

リリアさんが手際よく薬草茶を淹れてくれる。


「いやはや、ケンタ殿。

先日は本当に助かりましたぞ。

あの契約書が間に合わなければ、

我が商会は大きな損失を被るところでした。

改めて感謝申し上げる」


マードック氏は深々と頭を下げた。


「いえいえ、それが我々の仕事ですから。

それで、定期便の件ですが…」


俺は用意しておいた契約書の草案

(羊皮紙にびっしりと書き込んだものだ)を

マードック氏に提示した。


輸送する品目の詳細、

輸送頻度

(週に一度、特定の曜日にヴェリタスとリンドブルムを往復)、

料金体系

(基本料金+距離・重量に応じた加算、特急オプションなど)、

そして万が一の事故の場合の責任範囲など、

俺なりに考えられる限りの条件を盛り込んである。


マードック氏は、

俺が提示した契約書にじっくりと目を通し、

時折鋭い質問を投げかけてきた。


「ふむ…料金体系は明確で分かりやすい。

輸送頻度も妥当ですな。

ただ、この『不可抗力による遅延・損害の場合は免責』

という条項ですが、

具体的にはどのような場合を想定されておいでかな?」


「はい。例えば、予測不可能なほどの悪天候や、

大規模な自然災害、あるいは…

第三者による悪質な妨害行為などです。

もちろん、我々も最大限の努力はいたしますが、

どうしても避けられない事態もございますので」


俺は、運送ギルドの妨害を念頭に置きながら説明する。


「なるほど…確かに、この世界では何が起こるか分かりませんからな。

しかし、ケンタ殿。

あなたの『ドラゴン便』の最大の売りは、

その圧倒的な速さと確実性のはず。

その部分での信頼を、

どう担保してくださるおつもりかな?」


マードック氏の目は、商人のそれだ。

シビアな交渉になることは覚悟していた。


「おっしゃる通りです。

ですので、契約書には、

我々の過失による大幅な遅延や荷物の破損については、

全額返金、あるいは代替品の輸送費用を負担するという条項も

盛り込んでおります。

そして何より、我々は一度引き受けた依頼は、

必ずやり遂げるという信念を持っております」


俺はマードック氏の目をまっすぐに見つめて言った。


しばらくの沈黙の後、

マードック氏は満足そうに頷いた。


「…よろしいでしょう。

ケンタ殿の誠意と、その『翼』の力を信じましょう。

この契約、締結させていただきますぞ!」


「ありがとうございます!」


俺とマードック氏は、固い握手を交わした。

ついに、ヴェリタスとの定期便契約が成立したのだ!

これは、『ドラゴン便』にとって、

まさに歴史的な瞬間だった。


契約が無事にまとまり、

マードック氏が上機嫌で事務所を後にしようとした時だった。


「ところでケンタ殿、

一つお聞きしてもよろしいかな?」


「はい、何でしょう?」


「あなたのその『翼』…

噂では、伝説の竜を使っているとかいないとか…。

もしそれが真実なら、一度でいいから、

その姿を拝見したいものですな。

もちろん、無理強いはしませんが」


マードック氏の目が、

子供のような好奇心でキラキラと輝いている。


(やはり、そこが気になるか…)


俺は一瞬言葉に詰まったが、

正直に話すわけにはいかない。


「それは…申し訳ありませんが、

企業秘密ということで。

我々の輸送手段は、お客様の荷物を安全かつ迅速に

お届けするためのものであり、

見世物ではございませんので」


俺は丁重に、しかしきっぱりと断った。


「はっはっは!

そうですな、失礼いたしました。

いや、ただの興味本位です。

気にしないでくだされ」


マードック氏は気を悪くした様子もなく、

豪快に笑って馬車に乗り込み、

ヴェリタスへと帰っていった。


「やったな、ケンタ!

これで大きな仕事が一つ決まったぞ!」


マードック氏を見送った後、

俺はリリアさんと共に喜びを分かち合った。


「はい!

本当にすごいです!

これで『ドラゴン便』も、

もっともっと有名になりますね!」


リリアさんの笑顔が眩しい。


だが、そんな俺たちの喜びの裏で、

運送ギルドの影は確実に忍び寄っていた。


その日の夕暮れ時、

俺が牧場での仕事を終えてリュウガと共に

森の隠れ家へ戻ろうとした時だった。


「グルルル…ッ!」


リュウガが突然、低い唸り声を上げ、

森の一点を鋭く睨みつけた。


「どうした、リュウガ?

何かいるのか?」


俺も警戒し、剣の柄に手をかける。


茂みがガサガサと揺れ、

そこから一人の男が姿を現した。

見覚えのある顔…

先日、集荷ポイントでリリアさんに

しつこく話しかけてきた、あの目の鋭い男だ!


男は俺と、そして俺の隣にいるリュウガの巨体を見て、

一瞬息を呑んだようだったが、

すぐに歪んだ笑みを浮かべた。


「…やはりな。

噂は本当だったか。

『ドラゴン便』の秘密は、

巨大なドラゴンだったとはな…!」


男の手には、スケッチブックのようなものと

炭筆が握られている。

リュウガの姿を写生でもしていたのか!?


「貴様…!

何者だ!?」


俺は怒鳴りながら男に詰め寄ろうとする。


「フン、名乗る必要もあるまい。

だが、これでようやくゴードン様にも

良い報告ができるというものだ」


男はそう言うと、素早い動きで森の奥へと逃げていった。


「待て!」


追いかけようとしたが、男の足は速く、

あっという間に見失ってしまった。


「くそっ…!

やられた…!」


俺は地面を蹴りつけ、

悔しさに奥歯を噛みしめた。


リュウガの存在が、

ついに運送ギルドに知られてしまった。

これは、まずい。

非常にまずい状況だ。


ゴードンたちが、

この情報をどう利用してくるか分からない。

リュウガを直接狙ってくる可能性だってある。


「リリアさんやギドさんにも知らせないと…!」


俺はリュウガに跨り、

急いでリンドブルムの街へと引き返した。


ヴェリタスとの契約成立という大きな光のすぐそばに、

運送ギルドという濃い影が、

確実に迫ってきていた。


俺たちの本当の戦いは、

これからなのかもしれない。

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