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第19話 逆風の中の誠実さと次なる一手

リンドブルム運送ギルドからの陰湿な嫌がらせは、

その後も執拗に続いた。


集荷ポイントへのゴミの投棄は日常茶飯事となり、

悪質な噂は尾ひれをつけて街に広まっていった。

依頼主への圧力も続き、

『ドラゴン便』の看板を見て眉をひそめる者や、

遠巻きに噂話をする者たちの姿が目立つようになった。

以前のような活気は、少しずつ失われつつあった。


「くそっ、今日もキャンセルか…」


朝、集荷ポイントでリリアさんから報告を受け、

俺は何度目か分からない悪態をついた。

ギルドの圧力に屈し、

依頼を取り下げる顧客が後を絶たないのだ。

収入は減り、

ダンジョン攻略のための資金集めは思うように進まない。


だが、ここで腐っていても始まらない。

ギドさんの言葉と、

リリアさんの前向きな姿勢を思い出す。


「俺たちがやるべきことは、変わらない。

一つ一つの依頼に、誠実に応えるだけだ」


俺は自分に言い聞かせ、

気持ちを切り替えた。


幸い、全ての顧客がギルドの圧力に

屈したわけではなかった。

俺たちの速さと確実性を一度体験し、

その価値を認めてくれた人々は、

ギルドの妨害にもかかわらず、

『ドラゴン便』を使い続けてくれたのだ。


「ケンタさん、頼む!

この薬を、どうしても今日中に

山の向こうの村まで届けてほしいんだ!

娘が…娘が危ないんだ!」


ある日、血相を変えた男性が集荷ポイントに駆け込んできた。

他の運送屋には全て断られたという。

その目には、藁にもすがるような切実な光が宿っていた。


「お任せください!」


俺は依頼を引き受け、

すぐにリュウガの元へ走った。

スキルウィンドウで最短かつ安全なルートを確認し、

薬を衝撃から守るために、ありったけの緩衝材で包み、

荷物カゴへ慎重に固定する。


(スキル:目的地、山岳地帯奥地。

距離ランクC。

荷物:緊急薬品。

天候:午後から山は荒れる予報。

急がなければ!)


リュウガは俺の焦りを察したのか、

いつも以上に力強く、そして迅速に空を駆けた。

Lv.1のギアでは心許ないが、

俺はリュウガを信じ、風を読み、最短ルートを指示する。

山岳地帯の不安定な気流を避け、

魔獣の目撃情報がある空域を迂回しながら、

全速力で目的地を目指す。


幸い、天候が悪化する前に村へ到着し、

薬を無事に届けることができた。

依頼主の男性は、

涙を流して何度も俺に頭を下げた。

「ありがとう、本当にありがとう…

君たちがいなければ、娘は…」

その言葉が、俺の疲れた心に温かく染みた。


報酬は、通常の料金に加えて、

感謝の印として多額の銀貨が渡された。

だが、それ以上に、

人の命を繋ぐ手助けができたという事実が、

俺にとっては何物にも代えがたい喜びだった。


一方、リリアさんも黙ってはいなかった。


彼女は、これまでに集めた顧客からの感謝の言葉や、

『ドラゴン便』を利用して助かったというエピソードを

まとめた小さな手紙を作り、

それを街の広場やギルドの掲示板に、

人目につかないように、しかし確実に貼り出し始めたのだ。


『ドラゴン便さんのおかげで、

遠くに住む孫の誕生日に贈り物を届けられました』


『他のギルドでは一週間かかると言われた薬を、

半日で届けてくれました』


『料金は少し高いけど、

あの速さと確実さは本物です』


最初は小さな囁きだったが、

リリアさんの地道な「反撃」は、

少しずつ効果を現し始めていた。

ギルドが流す悪評に対して、

「いや、ドラゴン便はそんな悪くないぞ」

「俺はすごく助かったけどな」という声が、

ぽつぽつと上がり始めたのだ。


もちろん、ギルドの妨害が止んだわけではない。

だが、俺たちの誠実な仕事ぶりと、

リリアさんの勇気ある行動が、

逆風の中でも確かな信用を築き始めていることを実感できた。


「よし、この調子だ。

俺たちは俺たちのやり方で、

信用を積み重ねていこう」


俺はリリアさんと共に、

決意を新たにした。


そして、地道な依頼遂行と並行して、

俺は『疾風の迷宮』攻略への準備も着実に進めていた。


スキルウィンドウのマップ機能で、

風裂き山脈周辺の地形を入念に調査し、

迷宮へのアプローチルートを検討する。

素材情報で、ターゲットとなるモンスター

(グリフォンなど)の弱点や行動パターンを予習する。


ギドさんの工房にも足繁く通い、

ダンジョン攻略用に作ってもらっている俺自身の装備

(剣と革鎧の改良版)の進捗を確認する。


「フン、小僧、少しはマシな顔つきになってきたな。

だが、油断するなよ。

迷宮は生半可な覚悟で挑む場所ではないぞ」


ギドさんは相変わらず口は悪いが、

その言葉には俺への期待のようなものが

滲んでいる気がした。


資金も、少しずつだが目標額に近づいてきている。

高額な緊急依頼や、

ヴェリタスとの定期便(まだ細々としているが)の収入が大きい。


そんなある日、

リリアさんが一枚の依頼書を持って、

興奮した様子で小屋にやってきた。


「ケンタさん!

すごい依頼が来ました!

王都の宮廷魔術師様からです!」


「王都の!?

宮廷魔術師!?」


俺は驚いて依頼書を受け取った。

そこには、極めて希少でデリケートな魔法素材を、

王都まで極秘かつ迅速に運んでほしい、

という内容が記されていた。

報酬は、これまでの依頼とは比較にならないほどの高額だ。


「これは…大きなチャンスかもしれない」


しかし、同時に大きなリスクも伴うだろう。

王都、宮廷魔術師…

下手をすれば、国家レベルの厄介ごとに

巻き込まれる可能性もある。

そして、ギルドの妨害もさらに激しくなるかもしれない。


俺はスキルウィンドウを開き、

依頼内容とリスクを分析する。


(目的地:王都。

距離ランクS。

荷物:特殊魔法素材(詳細不明・超厳重注意)。

期限:3日以内。

報酬:金貨4枚…!?

これは破格だ…)


(リスク分析:

輸送自体の難易度は高い。

ギルドによる妨害の可能性大。

王宮関係者との接触による予期せぬトラブル…)


受けるべきか、断るべきか…?


俺はリュウガの穏やかな寝息を聞きながら、

難しい決断を迫られていた。

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