第18話 見えざる妨害と信用の天秤
リンドブルム運送ギルドの幹部、
ゴードンたちが残していった不気味な警告は、
現実のものとなり始めた。
それは、予想していたよりも陰湿で、
じわじわと俺たちの足元を掬おうとするようなやり方だった。
まず始まったのは、悪質な噂の流布だ。
「ドラゴン便とかいう新しい運び屋、
荷物を乱暴に扱ってるらしいぜ」
「届け先で法外な追加料金を請求されたって話だ」
「そもそも、あいつらがどうやって運んでるか誰も知らないんだろ?
怪しい薬でも使ってるんじゃないか?」
市場や酒場、
ギルドの掲示板などで、
根も葉もない噂が囁かれるようになった。
誰が流しているかは明白だ。
運送ギルドだろう。
「ケンタさん、大変です!
最近、『ドラゴン便は信用できない』って言う人が増えてきて…」
リリアさんが、心配そうに報告に来てくれる。
集荷ポイントでも、
依頼を躊躇するような人の姿が見られるようになったという。
「くそっ…!
あいつら、直接手を出せないからって、
陰でコソコソと…!」
俺は怒りに拳を握りしめた。
俺たちがどれだけ丁寧に、
誠実に仕事をしてきたか。
それをこんな形で貶められるのは、
我慢ならない。
だが、怒りに任せて行動するのは得策じゃない。
下手に反論すれば、
さらに噂を広げる口実を与えかねない。
それに、俺たちにはリュウガという、
絶対に知られてはならない秘密がある。
「落ち着け、俺…」
俺はスキルウィンドウを開き、
冷静に状況を分析しようと試みた。
(信用度:C。
悪評の影響で微減か…?
いや、まだ急激な低下は見られない。
リリアさんが集めてくれた顧客アンケートの『感謝の声』が、
ある程度、防波堤になってくれているのかもしれないな)
(ギルドの妨害パターン分析…
①悪評流布、
②依頼主への圧力、
③集荷ポイントへの嫌がらせ…
次は②か③が来る可能性が高いか)
次に起こったのは、
集荷ポイントへの嫌がらせだった。
朝、集荷ポイントである旧見張り小屋へ行くと、
入り口の前に大量の生ゴミがぶちまけられていた。
明らかに意図的なものだ。
鼻をつく悪臭に、俺は顔をしかめる。
「ひどい…誰がこんなことを…」
後から来たリリアさんも、言葉を失っていた。
俺は黙ってゴミを片付け始めた。
リリアさんも手伝ってくれる。
「大丈夫ですよ、ケンタさん。
私、負けませんから」
健気に振る舞う彼女の姿に、
俺は申し訳なさと、
そしてふつふつとした怒りを覚えた。
リリアさんまで巻き込んでしまっている…。
さらに数日後、
今度は依頼主への圧力が始まった。
「ケンタさん、すまないが、
今回の依頼はキャンセルさせてくれ…」
お得意様の一人である商人が、
申し訳なさそうに集荷ポイントへやってきた。
「ギルドのゴードンさんに釘を刺されてしまってな。
『ドラゴン便に仕事を頼むなら、
今後の取引を考えさせてもらう』と…。
逆らえんのだ、すまない…」
また一人、また一人と、
ギルドの圧力に屈して依頼を取り下げる顧客が現れ始めた。
俺たちの生命線である依頼が、確実に減ってきている。
これはまずい。
「どうすればいいんだ…」
夜、ボロ小屋で一人、俺は頭を抱えていた。
リュウガは俺の様子を心配そうに見ている。
(ギルドと正面から戦う?
いや、まだ力がない。
それに、リュウガの秘密がバレたら元も子もない)
(このまま耐え忍ぶ?
でも、依頼が減り続ければ、事業は立ち行かなくなる。
ダンジョン攻略の資金も貯まらない)
俺はギドさんの工房を訪ね、
相談してみた。
「ふん、ギルドの連中がちょっかいを出してきたか。
予想通りの展開だな」
ギドさんは、炉の火を見つめながら、
こともなげに言った。
「奴らは、自分たちの利権を守るためなら、
どんな汚い手でも使う。
だがな、小僧。
本物の仕事は、そんな小細工では揺るがんもんよ。
お前がやるべきことは一つだ。
依頼主の期待を超える仕事を、ただ黙々と続けろ。
信用というものは、そうやって積み上げていくしかない」
頑固なドワーフの言葉は、
シンプルだが重みがあった。
次に、リリアさんにも相談した。
「私も悔しいです…。
でも、ギドさんの言う通りかもしれません。
私たちにできるのは、一つ一つの依頼を大切にして、
ドラゴン便を信じてくれる人を増やしていくことだと思います」
彼女は健気に、そして力強く言った。
「それに、私、
集めたアンケートの『感謝の声』をまとめて、
ギルドの掲示板にこっそり貼り出してみようかと思うんです!
ギルドの悪評に対抗できるかもしれません!」
「えっ!?
そ、それはちょっと大胆すぎないか!?」
「大丈夫ですよ!
バレないようにやりますから!」
リリアさんの意外な行動力に驚きつつも、
その前向きな姿勢に、俺は少しだけ勇気づけられた。
そうだ、俺は一人じゃない。
リュウガがいる。
リリアさんがいる。
ギドさんもいる。
そして、俺たちの仕事を信じて、
依頼してくれる人たちがいる。
俺はスキルウィンドウを開き、
改めてステータスを確認する。
(信用度:C。
まだ、致命的な低下じゃない。
依頼数は減ったが、ゼロじゃない。
特に、一度俺たちのサービスを体験した人の
リピート率は高いはずだ)
(マイルストーン:『ギルドからの妨害発生』…
これも乗り越えるべき試練か)
「よし…」
俺は顔を上げた。
逃げるわけにはいかない。
ここで諦めたら、何も変わらない。
ギドさんの言う通り、今は耐える時だ。
一つ一つの依頼に、
これまで以上に丁寧に向き合おう。
顧客の期待を超えるサービスを提供し続けよう。
時間はかかるかもしれないが、
本物の価値は、必ず認められるはずだ。
そして、必ず『ドラゴンギア Lv.2』を完成させ、
ギルドの連中が何も言えなくなるくらいの
圧倒的な力を見せつけてやる!
俺はリュウガの鼻先を撫でた。
「リュウガ、もう少しだけ辛抱してくれ。
俺たちが、この状況をひっくり返してやるからな」
「グルゥ…」
リュウガは、俺の決意に応えるように、
力強く喉を鳴らした。
見えざる妨害との戦いは始まったばかりだ。
だが、俺たちの翼は、まだ折れてはいない。




