第12話 レベル1の試行錯誤と見えた道筋
隠しスキル『異世界物流システム Lv.1』の覚醒と、
ギドさん作の『ドラゴンギア Lv.1(試作型)』の入手。
俺たちの『ケンタ運送』(仮)は、
間違いなく新たなステージへと足を踏み入れた。
「よし、リュウガ!
今日から本格的にこいつを使いこなすぞ!」
翌朝、俺は意気揚々とリュウガに試作ギアを装着した。
腹の下に吊り下げられた鉄と網の荷物カゴは、
正直言って見た目は悪い。
だが、実用性は以前とは比べ物にならないはずだ。
さっそく、俺は意識を集中して、
スキルウィンドウを呼び出す。
目の前に半透明の画面がふわりと現れる。
まるでSF映画みたいだが、これが俺の新しい現実だ。
(ウィンドウ表示…よし。
まずは基本ステータス確認だな)
(ふむふむ…
今日のリュウガのコンディションは良好。
稼働可能時間は…連続飛行で3時間くらいか。
積載量は…カゴの強度的に、50kgくらいが安全圏だな)
まるでゲームの攻略情報みたいだが、
これは現実の仕事に直結する重要なデータだ。
特にリュウガの稼働時間が分かるのは大きい。
無理なスケジュールを組んで、
相棒を危険に晒すわけにはいかないからな。
ちょうどその時、
リリアさんが息を切らせて小屋にやってきた。
「ケンタさん!
新しい依頼です!
隣村のパン屋さんから、
今日のお昼までに特別な酵母を届けてほしいって!」
「酵母?
分かりました、すぐ行きます!」
依頼内容はシンプルだが、
酵母はデリケートな扱いが必要だ。
振動や温度変化に弱い。
(スキルウィンドウ、起動。
依頼内容入力…っと。
届け先:隣村パン屋、
荷物:酵母(壺入り)、
期限:今日の昼まで)
俺は頭の中で念じるようにして、
スキルに情報をインプットする。
すると、ウィンドウの内容が更新された。
(スキル確認…
推奨ルート表示。
天候:晴れ、風向き:弱い追い風。
積載物:一般貨物(要・衝撃注意)。
よし、Lv.1のカゴでも問題ないな。
距離は…中距離。
スピードは…高速で、と。
到着予測時刻:約30分後。
これなら余裕だ)
俺はスキルウィンドウで情報を確認しながら、
リリアさんから酵母の入った壺を受け取る。
「リリアさん、
この壺がカゴの中で動かないように、
布か何かで固定してもらえますか?」
「はい、分かりました!」
リリアさんに手伝ってもらい、
酵母の壺を布で包んで、
カゴの中で動かないようにしっかりと固定する。
腹部懸架式は、積み込み作業がしやすいのが利点だ。
「よし、準備完了!
リュウガ、頼むぞ!」
鞍に跨り、固定ベルトを締める。
リュウガは心得たとばかりに翼を広げ、
力強く飛び立った。
Lv.1とはいえ、
鞍があるだけで安定感が段違いだ。
風圧も軽減され、
以前のように必死にしがみつく必要はない。
これなら、もっと周囲の状況に気を配れる。
(スキルウィンドウ、ナビゲーションモード。
進行方向、高度、風速…
リアルタイムで表示されるのか。便利だな。
現実世界じゃ、最適なルート選びは
ドライバーの経験と勘によるところが大きかった。
もちろん、大手なんかは渋滞予測や天候、
他の荷物の配送状況まで全部計算に入れて、
リアルタイムで最適なルートを指示するシステムを
使ってたけど…。
このスキルは、まさにそれか!
しかも、この世界に合わせて自動で最適化してくれる。
渋滞はない代わりに、
危険な魔獣の生息エリアとか、
天候が荒れやすい空域とかを避けて、
一番安全で効率的な空のルートを選んでくれてるんだな。
これはすごい武器になるぞ。
推奨ルートから外れないように注意して…)
腹の下のカゴも、
思ったより揺れは少ない。
ギドさんの設計通り、
重心が安定しているのだろう。
これなら、酵母も無事に届けられそうだ。
予定通り、30分ほどで隣村に到着。
パン屋の主人に酵母を渡すと、
「おお、助かった!
これがないと今日のパンが焼けなかったんだ!
ありがとうよ、ケンタ運送!」と、
とても感謝された。
小屋に戻り、スキルウィンドウを確認する。
《依頼完了!
信用度 +2 / 報酬:銅貨 10枚獲得》
《リュウガの稼働時間 残り 約2時間》
《ドラゴンギア Lv.1 耐久度 99/100》
「おお…!
ちゃんと記録されてる!
耐久度まであるのか!」
使い捨てとはいえ、
ギアの状態が分かるのはありがたい。
無理な使い方をすれば、
すぐに壊れてしまうだろう。
その後も、俺はスキルとLv.1ギアを駆使して
依頼をこなしていった。
「この手紙を、至急、
山の向こうの砦まで!」
(スキル起動…
届け先:山脈砦、荷物:手紙、期限:明朝。
…距離・長距離だな。
推奨ルートは…山越えか。
天候は安定してるが、夜間飛行になる。
リュウガの稼働時間は…往復でギリギリだ。
休憩ポイントをマップにマークしておこう。
スピードは最高速指定)
「分かりました。
ただし、リュウガの休息のため、
少しお時間をいただきます」
俺は依頼主に説明し、
安全マージンを取ったスケジュールを組む。
「壊れやすいガラス細工を、
隣町の工房へ。
絶対に割らないでくれ!」
(スキル起動…
荷物:ガラス細工、超要衝撃注意!
これはヤバいな。
推奨ルートは…少し遠回りになるが、
気流の安定した谷間ルートを選択。
スピードは中速以下に抑える。
振動吸収のため、カゴの中にさらに緩衝材を追加しよう)
「お任せください。
最新の注意を払って運びます。
ただし、安全のため少しお時間をいただきます」
俺は荷物の特性に合わせた輸送プランを提示する。
「市場で仕入れた大量の薬草を、
リリアさんの店まで!」
(スキル起動…
荷物:薬草(大量)、積載量…55kgか。
Lv.1カゴの安全圏50kgをオーバーしてるな。
これは危険だ。
スピードは低速、高度も低めに。
最短ルートで、できるだけ飛行時間を短くしよう。
ギアの耐久度も注視しないと…)
「運びますが、
少し量を減らしていただくか、
あるいは2回に分けさせていただけますか?
安全のため、一度に運べる量には
限りがありまして…」
俺は正直にリスクを説明し、
代替案を提案する。
スキルのおかげで、
依頼を受ける前に輸送の可否やリスクを
判断できるようになった。
無理な依頼は断る勇気も必要だ。
リュウガのコンディションやギアの耐久度を常にチェックし、
安全第一で業務を行う。
まさに、前職で叩き込まれたリスクマネジメントそのものだ。
Lv.1の装備は、決して万能ではない。
積載量は限られるし、
カゴは網状だから雨が降れば荷物は濡れる。
特殊な温度管理もできない。
それでも、以前とは比べ物にならないほど、
できることの幅は広がった。
そして何より、
安定した飛行が可能になったことで、
俺自身の負担が減り、
より多くの依頼をこなせるようになった。
収入も少しずつだが着実に増え、
銅貨の袋がだんだんと重くなっていく。
「よし、この調子なら、
ダンジョン攻略の資金も、
思ったより早く貯まるかもしれないな」
夜、小屋で帳簿
(スキルウィンドウの記録を羊皮紙に書き写したもの)をつけながら、
俺は呟いた。
だが、同時に思う。
やはり、Lv.1はLv.1だ。
このままでは、いずれ限界が来る。
もっと重い荷物を、もっと遠くまで、
もっと安全に運ぶためには、
どうしても最高の素材で作られた
『ドラゴンギア Lv.2』が必要だ。
スキルウィンドウに表示される
『次のマイルストーン: 疾風の迷宮にて素材確保』の文字が、
俺の決意を鈍らせることはない。
「待ってろよ、
アダマンタイト…グリフォンの腱…!」
俺はリュウガの寝息が聞こえる森の方を見やり、
静かに拳を握りしめた。
レベル1の翼で経験を積み、
スキルで道筋を確認しながら、
俺たちの『ドラゴン便』は、
次なるステップへと着実に進み始めていた。




