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ベレー帽を被って
「あ、えっと」
まただ。
知らないのに知っている。
「あー、その。なんだ」
向こうは向こうで気まずそうだ。
言いたいことを飲み込んでいる感じ。
つまりは気を使われている。
「えっと」
私は私で、同じことしか言えない。
人として終わっている気がした。
「あーもうっ!」
ガシガシと頭をかいて、その反動でベレー帽は落ちた。
ポイッと何かを投げられた。
ふんわりとした軌道だから掴むのは容易だった。
「わ、わわ」
それでも不意の出来事で何とかキャッチすることが出来た。
受け取ることに気を付けていたら、ベレー帽の彼女は猛ダッシュして私から逃げる様に離れていった。
残されたのは私と謎のフラスコとベレー帽。
「不思議なことばかり起きる」
なんだか疲れてしまった。
私は今度こそ帰ることにした。ベレー帽を被って。