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2話 抱擁と挑戦

「んで、今日はどういう用件で? もしかしてあたしと契約しにきたのか?」


「いや、俺にそのつもりはないよ。ただファンが用心棒を欲していてね、その際に君のことが話題に上がったんだ。それでどうせなら会いに行ってみようということになってね」


「ふーん、用心棒をねぇ……」


 そう言いながら、アイシャさんはこちらへと視線を向ける。そしてじーっと見つめた後、ジト目のまま言葉を続けた。


「……なぁ。ずっと気になってたんだけどよ、あんたからはなんか女を狂わせるフェロモンでも出てんのか?」


「えっ、フェロモンですか?」


「だっておかしくねぇか? あんたの両隣に女がぴったりとくっついてるじゃねぇか」


 現在僕たちはベッドであぐらをかくアイシャさんを囲うように地面に腰掛けている。

 そして彼女の言葉通り、僕の右手にはシュムが、左手にはルナさんがくっついていた。


「言われてみたら異常な光景ですね」


「いや今頃気がついたのかよ」


「あまりにも日常すぎて」


「どんな日常だよそれ」


 言葉の後、アイシャさんは呆けた表情になる。


「でもよ、これが日常になるってことは少なくともあんたにくっつくのは心地良いってことだろ?」


「……そうなんですかね?」


「なんか落ち着くにゃ!」


「右に同じかな〜」


 僕の両隣を占拠する2人が楽しげに声を上げる。それを受け、アイシャさんが興味を持ったように声を上げた。


「ふーん。ならあたしもやってみていいか?」


「えっ、まぁ別にいいですけど」


「じゃあ、ん……」


 言いながら、アイシャさんは両手を前に出す。


 ちなみに彼女の両手には手錠がかかっている。……はたして奴隷だからなのか、それとも彼女限定なのか。詳しくはわからないが、不便だろうなとは思う。


 僕はそんな思考と共にゆっくりと立ち上がる。


「えっとどうすれば」


「あたしが手を上にあげるから、その隙にあたしに背中を預けるように腰掛けてくれ」


「わかりました。それじゃ失礼して……」


 言葉の後、僕はベッドに上がらせてもらう。そして両手をあげたアイシャさんにくっつくようにして腰を下ろす。

 するとアイシャさんは両手を下ろし、僕をぎゅっと抱きしめた。


 ……なんかジェットコースターの前準備を思い出すな。


 そんなどうでも良いことを考えつつ、僕の首元から後頭部辺りに触れる柔らかいものから意識を背ける。


「おお、なんかわからねぇけど収まりがいいな!」


 アイシャさんは僕の腹部に手を回しながら楽しげに声を上げる。彼女は自身の感情を表すように、前後左右にゆらゆらと揺れる。その度に、僕の身体に存在感のある双丘がグニグニと押し付けられる。


 ……彼女の服がそこまで厚くないからか、感触がダイレクトにぃ……。


 普段から美少女たちと触れ合う機会が多く慣れてきたとはいえ、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいわけで。


 結局このまま彼女が満足するまで僕は抱え続けられながら皆で談笑することになったのであった。


 ◇


 それから談笑をすること数十分。会話が途切れたタイミングで、メリオさんが声を上げた。


「さてそろそろお暇しようか」


「えーなんだよ。もう帰っちゃうのか?」


 アイシャさんが不満げに言う。


「君に会うという目的は達成できたし、何よりも契約しないのにこれ以上長居しては迷惑になってしまうからね」


「いいのか? そいつの用心棒の件は」


「ん? もしかしてファンのことが気に入ったのかい?」


「おう! なんか抱き心地が良かったしな!」


「ぬいぐるみ的扱い……」


「ならば要求は無視して彼と契約を──」


「それとこれとは話が別だ! あたしが契約するのは、あたしを屈服させるだけの強者だけって決めてるからな!」


「そうか……それは残念だよ。それじゃ、俺たちはこれで──」


「ちょっと待った!」


「……ん?」


「なぁ、本当にこのまま帰るのか? せっかくここまできたんだ。誰かあたしに挑戦していけよ〜」


 言葉の後「最近誰も挑戦しねぇからウズウズしてんだよ」とアイシャさんは続ける。


 メリオさんは困ったように苦笑を浮かべる。


「君はAランクの冒険者相当だと噂されている。いまだBランク以下の俺たちじゃきっと相手にならないよ」


「もしかしたらいい勝負できるかもしれないだろ? やる前から諦めるなよ。なぁ、誰かやろうぜ〜」


 言いながらアイシャさんはぶーと唇を尖らせる。


「うーん、困ったね。どうしようか」


 メリオさんが相変わらず苦笑を浮かべながら僕たちへと助けを求めるように視線を向けてくる。


「わ、私はパスで!」


「私も……」


「俺もやめとくとしよう!」


 紫電一閃の皆さんは口々にそう言う。続いてその視線がシュムへと向く。


「にゃ? 面白そうだけど、シュムじゃ相手ににゃらにゃいからやめとくにゃ!」


「ファン……」


「えっと、ごめんなさい」


 僕たちの言葉を受け、メリオさんはシュンとした表情になる。そんな彼を子犬のような目でじっと見つめるアイシャさん。


 メリオさんはその視線を受けながら、うーんと唸り……ついに諦めたのか「わかったよ。それじゃ挑ませてもらうとするよ」と返した。


「ほんとか!?」


 アイシャさんが身を乗り出す。

 メリオさんはうんと頷いた。


「よっしゃー! そうと決まれば早速移動しようぜ!」


 こうして急遽メリオさんがアイシャさんに挑むことが決定した。

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